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まちの視点 おいしいものだけを売る

商品価値がまだ伝わっていないお薦めの商品に貼られる「社長すいせんの品」への信頼は厚い

「どうせやるのなら、ちゃんとね……そう、ちゃんとね」

こう語るのは群馬県高崎市にある小さなスーパーマーケット「まるおか」の店主、丸岡守さん。御歳74歳。肌につやがあり、内面からあふれ出るエネルギッシュさからは、とてもそんな高齢には見えない。

なぜ、この店にはテレビコマーシャルで誰もが知っているナショナルブランドがないのか?

なぜ、この店の牛乳は720ミリリットルで1778円、バターは2580円もするのか?

なぜ、この店の隣にある巨大ショッピングモールの従業員がこぞって買い物に訪れるのか?

なぜ、この小さな店に毎年30件以上の視察依頼が引きも切らないのか?

なぜ、この店の1人当たりの平均購入金額は業界平均の2倍近くもあるのか?

その理由を取材した。

売り場から消えた有名ブランド

終戦後、食料品店を開いた父母の後を継いだばかりの丸岡さんは、あるとき青果市場で父にこう言われた。

「いいか、良いものは仕入れるな」

意味が分からず、問い直すと父は言った。

「良いものは高い。それが世の道理だ。高いものを仕入れても、お客さんは買っちゃくれない。結局、粗利を下げて売らなくちゃいけなくなる。そうなったら、もうからないだろ?」

なるほどと思いながらも、丸岡さんは父の言葉に言いようのない違和感を覚えたという。

ローカル立地にある同店の周辺にも競合チェーンが進出、同じような商品を同じような価格で売っているだけでは、安くて便利を追求する資本力のある競合店にはかなうはずもない。まるおかも徐々に追い詰められていくこととなる。

そこで丸岡さんは考えた末に、決断した。それが冒頭に紹介した言葉だ。

では、「ちゃんと」とは何か。自分が本当においしいと思うものだけを、適正利益をいただきながら販売することだった。しかし、それは決して簡単なことではない。

まず止めたのは、価格訴求一辺倒の折り込みチラシだった。そんな費用をかけるくらいなら、仕入れ活動に充て、商品価値を説明できる店舗スタッフを雇用し、教育することに投資した。

まるおかの品ぞろえの基準は徐々に、おいしいことに加え、安全・安心であることへと向かっていった。

「人は食べるものでできているんですよ。まさに、食は命です。なのに、安さや便利さだけで食べ物を選んでよいのでしょうか?」とは、丸岡さんの品ぞろえの哲学。安全・安心でおいしいものだけを全国に探し求め、一つ一つ品ぞろえしていった結果、売り場からテレビコマーシャルでよく見るナショナルブランドが消えた。

選び抜いた商品に実印を押す

では、そうした価値ある商品をどうやって伝えるか。その問いに対する答えが、「社長すいせんの品」というシールだ。同店の5000品目のうちの一部、お薦め中のお薦め商品にのみに貼られる。

「ほんとうは全てに貼りたいんだけどね、そうしたらお客さんが困っちゃうでしょう。だから、お客さんがその価値に気付いた商品には付けないの。付いているということは、まだその価値をお客さんに伝えきれていないということ」

その話を聞いて思い出した、一篇(ぺん)の文章がある。商業界草創期の指導者、岡田徹のものだ。 「商売の道は人間の誠実を尽くす道でありたい。店のつくりで、蛍光灯で、アーケードでお客を引き付けようとする前に、私の店は正直な店ですと、ただこの一言を天地に恥じずに言い切れる商売をしようよ。商品の豊富さを誇る前に、値段の安さで呼び掛ける前に、一つ一つの商品にあなたの実印を押して差し上げたい」

まさに、丸岡さんにとって「社長すいせんの品」のシールは、まさに実印。それをお客さんは知っているから、シールの貼られている商品は圧倒的に売れていく。

あなたは、あなたの商品に実印を押しているだろうか。

(商業界・笹井清範)

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