多くの隠れ値上げとわずかな正直値上げ
ツナ缶、かつお節、宅配便運賃、でんぷん、オリーブオイル、食用油、小麦粉、電気・ガス料金……。新年度をまたいでニュースとなった値上げ品目を並べてみた。相次いだ値上げは、あなたの商いにどんな影響をもたらしただろうか。
メーカー、製造小売業者などが値上げに際して採る方法は二つある。一つはシュリンクフレーションといい、価格は変えずに内容量・数量を減らすという方法で、「実質値上げ」「ステルス値上げ」「隠れ値上げ」などと言われている。
食品分野で多く見られる値上げ手法で、ある飲料メーカーは新容器への変更を機に、容量を1000ミリリットルから900ミリリットルに減量し、新容器によっておいしさと利便性が向上したとうたった。従来品に比べ容器の横幅を小さくしたため「手が小さいお子さまや握力が弱い高齢者でも持ちやすい」とし、従来品に比べ筋肉への負担が1割軽減されるので「(従来品より)楽に注ぐことができる」と、同社ではプレスリリースで減量の理由を説明している。
こうした手法はさまざまな企業で採用され、容量、本数、サイズなどが従来よりも少なくなったり、小さくなったりした商品は少なくない。価格を変えることなく利益額を維持する手法である。
もう一つは売価変更、つまり正面切っての値上げだ。値上げをせざるを得ない理由を正直に顧客に伝え、誠実に理解を求める手法である。
例えば、地方のある洋菓子店では、これまでの度重なる原材料費の値上げに耐えてきたことを告げつつ、店頭にこう掲げた。
「これからもずっとこの場所で、このまちの子供たちの成長と共に歩み続けられるお店である為にも、一部の商品をやむを得ず値上げさせていただくことにいたしました」
果たして、あなたは値上げに際して、どちらの手法を採るだろうか。
価値が伝わらなければ値段で選ぶしかない
「値上げできない」
さまざまな地域を訪れ、さまざまな業種を取材していると、多くの商人から異口同音で語られる言葉だ。とりわけ、自ら商品をつくる製造小売業に携わる方々からは、悲鳴のような声が聞こえてくる。 事実、冒頭に挙げた品目以外にも多くの原材料、資材、コストが上がり、ただでさえ少ない利益率をさらに下げている。それにより商品開発や人材育成への投資が削られ、ますます経営を苦しくしている店は少なくない。
ならば、それに応じて価格を上げればいいのでは? そう言おうものなら、彼らはこう答える。
「お客さまに申し訳ない」
どのように申し訳ないのかを詳しく聞いてみると、こんな答えが返ってくることがほとんどだ。
「これまでご愛顧くださっていたお客さまが離れるのではないか?」
「売れ行きが落ちるのではないか?」
商業界創立者、倉本長治はこう遺している。
「お客さまへの愛情、真実に裏打ちされた行い、そして利益、この三つを一致させるのが本当の商いであり、関わる人たちを幸せにする営みである」
私はこう伝えるようにしている。
「そもそも、あなたの店は単に価格が安いから選ばれてきたのでしょうか?」
お客は、価格の理由が分からなければ、その商品の価値を知らなければ、安いものを選ぶのが当然の心情だ。しかし、価格設定とは商人の商いへの哲学の表れであり、誰に、どのような強みで、どのように選ばれたいかという意思表示にほかならない。
値上げの春を過ぎ、あなたの大切な商品の価格をもう一度見直すときを迎えている。そこには、価格の理由と伝える工夫が施されているだろうか。
(商業界・笹井清範)
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