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まちの視点 廃棄ロス2%、驚異の生花店

花を売るのではなく、花のある生活をスタイリングする──驚異の廃棄ロス率は価値の伝え方から生まれる

廃棄ロスと機会ロス、あなたの店はどちらで悩んでいるだろうか。過剰に仕入れたり製造したりして売れなければ原価が無に帰す、これが廃棄ロス。仕入れ・製造数を絞ってしまい、本当は得られたかもしれない売り上げ・利益を逸する、これが機会ロスである。

どちらも悩ましい問題だが、廃棄ロスは目に見え、機会ロスは目に見えない。だから、つい仕入れ・製造数が尻すぼみになり、売り上げ・利益が下向きのスパイラルに陥る店が多いのも事実である。廃棄ロスを恐れる多くのチェーンストアや個店の品ぞろえが、お客の心を躍らせないのはそのためだ。

とはいうものの、無計画に仕入れ・製造しても、それを売り切る販売力が伴わなければ、廃棄ロスを垂れ流すだけ。それは大きな社会的ロスでもある。結果、廃棄ロスを想定した高い値入れをせざるを得ない。自身の商いの拙さによるリスクをお客にとらせようとする行為と言ってもいい。

お客一人一人のストーリーを知る

栃木県鹿沼市に、平均30%の廃棄ロスが当たり前という業界にあって、2%という驚異の数字を実現する生花店がある。セルフ販売コーナーを含め48店舗を展開する「いわい生花」である。

「生活必需品ではない生花をお客さまが買い求めてくださるには、『何のために?』という理由が必ずあります。理由とはストーリーです。お客さま一人一人にあるストーリーを知り、その背景にあるライフスタイルを豊かにしてあげられなくては、私たちの商売に価値はありません」

こう語るのは、同店の岩井正明社長。驚異の販売力を育てた張本人だ。

「私たちのミッションは『皆の心に笑顔の花を咲かせよう』です。そのため当店では、スタッフは販売員ではなく、お客さまに花のある暮らしを提案するスタイリストです」(岩井社長)

当たり前の商品の価値を高める

こうした提案力を背景に廃棄ロス率を下げる原動力となっているのが商品力だ。同店には二つの看板商品がある。一つは、かすみ草だ。それまで花束の添え花、いうならば刺身のつまに過ぎなかったかすみ草だが、同店は長い年月をかけて開発した独自の技法でかすみ草を着色した。これまで白しか存在しなかったかすみ草に34種類の彩りを与えたのだ。これにより、今まで価値を生まなかった日蔭の花を一挙に利益商品へと育てたのである。

もう一つが、仏花としてのイメージの強い菊だ。従来の生花店はグレードの低い菊を仕入れ、低価格で販売してきたが、同店は逆を行った。

「生鮮品には等級があります。当社で売上構成比の3割を占める菊は、花の形、発色や重み、大きさで等級が決まるのですが、流通する菊の特A1%、A12%、合わせて上位13%の商品しか販売していません」(岩井社長)

そうすると当然、価格は他店より高くなる。しかし、華やかさ、日持ちがまったく違うから長く花を楽しむことができる。こうした質の高い商品をそろえ、その価値を余すところなく伝えられるからこそ驚異の廃棄ロス率を実現し得る。

そのためには、商品に付けるPOPを工夫し、花のある暮らしを身近に感じられるフラワーアレンジメントを定期的に行うなど、伝える努力を怠らない。結果、地域生活者にとって同店は、いつでも身近な存在として記憶に残り続ける一番店となっている。

良いものをそろえ、その価値を伝える──当たり前の商売の原則だが、その実現のためにいわい生花が人材育成に並々ならぬ努力を続けていることを忘れてはならない。

(商業界・笹井清範)

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