政府は4月11日、新「エネルギー基本計画」を閣議決定した。新計画では、震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存を可能な限り低減することなどが盛り込まれるとともに、「福島の復興・再生を全力で成し遂げる」ことが、「エネルギー政策を再構築するための出発点」であると強調している。日本商工会議所の三村明夫会頭は同日、基本計画をバランスのとれた実現可能なエネルギー政策の方向性を示したものとして評価。特に原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置付け、「安全が確認された原発を国が前面に立って再稼働させる方針が改めて示されたことを歓迎する」とのコメントを発表している。
日商では、昨年12月に「新しい『エネルギー基本計画』策定に向けた意見」を政府に提出。新計画では、日商の意見のうち、エネルギーミックスの将来像、再生可能エネルギー固定価格買取制度の見直し、安全性向上のための技術・人材の維持・発展策をはじめとする原子力政策の再構築などの検討課題が残された。日商では、政府に対して引き続き責任あるエネルギー政策の実現に取り組むよう求めていく。新しい基本計画の概要は以下の通り。
エネルギー基本計画(平成26年4月)の概要
はじめに
震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直す。原発依存を可能な限り低減する。
東京電力福島第一原子力発電所事故で被災された方々の心の痛みにしっかりと向き合い、寄り添い、福島の復興・再生を全力で成し遂げる。ここが、エネルギー政策を再構築するための出発点。
1.わが国のエネルギー需給構造が抱える課題(略)
2.エネルギーの需給に関する施策についての基本的な方針
⑴エネルギー政策の原則と改革の視点
・エネルギー政策の基本的視点(3E+S)の確認(図1参照)
・各エネルギー源の強みが活き、弱みが補完される、強靭で、現実的かつ多層的な供給構造の実現
・制度改革を通じ、多様な主体が参加し、多様な選択肢が用意される、より柔軟かつ効率的なエネルギー需給構造の創出
・海外の情勢変化の影響を最小化するための国産エネルギー等の開発・導入の促進による自給率の改善
⑵各エネルギー源の位置付け
原発再稼働、再エネ導入の進捗の度合い等を見極めつつ、速やかに実現可能なエネルギーミックスを提示。
・再エネ(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス、バイオ燃料)は、温室効果ガス排出のない有望かつ多様な国産エネルギー源。3年間、導入を最大限加速。その後も積極的に推進。地熱、一般水力はベースロード電源。太陽光・風力は発電出力が安定しないことから、天然ガス、石油などの調整電源との組み合わせが必要。
・原子力は、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源。
原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。その方針の下で、わが国の今後のエネルギー制約を踏まえ、安定供給、コスト低減、温暖化対策、技術・人材の維持等の観点から、確保していく規模を見極める。
・石炭は、安定性・経済性に優れた重要なベースロード電源として再評価されており、高効率化火力発電の有効利用等により環境負荷を低減しつつ活用していくエネルギー源。
・天然ガスは、ミドル電源の中心的役割を担う、今後役割を拡大していく重要なエネルギー源。
・石油は、運輸・民生部門を支える資源・原料として重要な役割を果たす一方、ピーク電源としても一定の機能を担う、今後とも活用していく重要なエネルギー源。
・LPガスは、ミドル電源として活用可能であり、平時のみならず緊急時にも貢献できる分散型のクリーンなガス体のエネルギー源。
3.エネルギーの需給に関する長期的、総合的かつ計画的に講ずべき施策
中長期(今後20年程度)のエネルギー需給構造を視野に、電力システム改革等が完結する時期(2018~2020年を目途)までを集中改革期間と位置付けて、政策の方向を明示。
(1) 安定的な資源確保のための総合的な施策の推進
・資源国等との人材育成分野等を含む多面的資源外交の推進と、リスクマネー供給拡大などによる北米・ロシア・アフリカ等における上流進出・供給源多角化の推進。
・価格や権益獲得等で交渉力の強化を図る包括的な事業連携等の新しい共同調達を後押しすべく、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による出資や債務保証の優先枠を効果的に活用するとともに、仕向地条項の撤廃等を実現。
・シェールガス生産が拡大する北米からのLNG供給や取引条件の多様化の推進、アジア消費国間の連携等を通じて、日本を中心としたアジア地域大の安定的で柔軟なLNG需給構造を将来的に実現。
・将来の国産資源の商業化に向けて、メタンハイドレート、金属鉱物等海洋資源の開発を加速。
・鉱物資源の安定供給確保に不可欠なリサイクルの推進及び備蓄体制の強化等。
(2)徹底した省エネルギー社会の実現と、スマートで柔軟な消費活動の実現
・省エネルギーの取組を部門ごとに一層加速すべく、目標となりうる指標の策定。
・業務・家庭部門の省エネ強化のため、トップランナー制度の対象拡大を進めるとともに、2020年までに段階的に新築の建築物・住宅への省エネ基準適合を義務化。
・運輸部門は、交通流の円滑化により自動車の実行燃費等を改善するため、自動運転システムを可能にする高度道路交通システム(ITS)の推進。
・産業部門は、世界最高水準のエネルギー効率を誇る産業部門を中心に、最先端省エネ設備への投資を一層促進するため、製造プロセスを含む省エネ投資促進支援策を推進。
・定量的に需要の抑制ができる仕組み等を構築するため、ディマンドリスポンスの手法を確立するとともに、2020年代早期にスマートメーターを全世帯・全事業所に導入。
(3)再生可能エネルギーの導入加速~中長期的な自立化を目指して~
・2013年から3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進。固定価格買取制度の安定的かつ適正な運用や、環境アセスメントの期間短縮化等の規制緩和等を今後とも推進するとともに、低コスト化・高効率化のための技術開発、大型蓄電池の開発・実証や送配電網の整備などの取り組みを積極的に推進。
・風力・地熱の導入加速に対応するため、地域間連系線を含む送配電網の整備、広域的系統運用の強化、環境アセスメント期間の短縮化等を推進。
・着床式洋上風力の新たな価格区分設定の検討を行うとともに、世界初の本格的な事業化を目指し、福島県沖や長崎沖で浮体式洋上風力の実証を進め、2018年頃までにできるだけ早く商業化を推進。
・太陽光や小規模水力、小規模地熱発電、木質をはじめとしたバイオマス、太陽熱等の再生可能エネルギー熱など、再生可能エネルギーを利用した分散型エネルギーシステムの構築を推進。
・固定価格買取制度等について、コスト負担増や系統強化等の課題を含め諸外国の状況等も参考に、その在り方を総合的に検討。
・独立行政法人産業技術総合研究所に「福島再生可能エネルギー研究所」を本年開所し、福島の再生可能エネルギー産業拠点化を推進。
(4)原子力政策の再構築
・福島の再生・復興に向けた取り組みは、エネルギー政策の再構築の出発点。
・廃炉・汚染水対策は、国が前面に立ち、一つ一つの対策を着実に履行する不退転の決意を持って取り組みを実施。
・国の取組として、廃炉・汚染水対策に係る司令塔機能を一本化し、体制を強化。予防的・重層的な廃炉・汚染水問題を着実に進めるため、内外の専門人材を結集し、技術的観点から支援体制を強化。
・賠償や除染・中間貯蔵施設事業などについて、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて(2013年12月閣議決定)」において、国が前面に出る方針を具体的に明確化。福島の再生のために必要なすべての課題に対して、国も東京電力も、なすべきことは一日でも早く、という姿勢で取り組みを実施。
・加えて、東京電力福島第一原子力発電所の周辺地域において、廃炉関連技術の研究開発拠点やメンテナンス・部品製造を中心とした生産拠点も必要となりえることから、こうした拠点の在り方について地元の意見も踏まえつつ、必要な検討を実施。
・原子力の「安全神話」と決別し、世界最高水準の安全性を不断に追求。
・原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。
・事業者は、リスクマネジメント体制を整備し客観的・定量的なリスク評価手法を実施。
・国は、競争が進展した環境においても、円滑な廃炉、迅速な安全対策、安定供給への貢献といった課題に対応できるよう、事業環境の在り方について検討。
・原子力損害賠償制度の見直しの検討を進め、「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」締結に向けた作業を加速化。
・原子力災害対策の強化に加え、関係自治体の地域防災計画・避難計画の充実化を支援。
・国が前面に立って、高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取り組みを推進。
・将来世代が最良の処分方法を選択できるよう、可逆性、回収可能性を担保。
・直接処分など代替処分オプション移管する調査・研究を推進。
・処分場選定では国が科学的見地から説明し、また、地域の合意形成の仕組みを構築することとし、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針(2008年3月閣議決定)」の改定を早急に実施。
・新たな中間貯蔵施設や乾式貯蔵施設等の建設・活用を促進、政府の取り組みを強化。
・放射性廃棄物の減容化・有害度低減などの技術開発を推進。
・関係自治体や国際社会の理解を得つつ、核燃料サイクルを推進するとともに、中長期的な対応の柔軟性を保持。
・平和利用を大前提に、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持し、これを実効性あるものとするため、プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮しつつ、プルトニウムの適切な管理・利用。
・米仏等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発を推進。
・もんじゅは、過去の反省の下、あらゆる面で徹底的な改革を行い、国際研究協力の下、もんじゅ研究計画に示された成果の取りまとめを目指し、克服すべき課題について十分な検討・対応を行う。
・原発事故を踏まえ、科学的根拠や客観的事実に基づくきめ細やかな広聴・広報を実施。
・原発の稼働状況等も踏まえ、地域の実態に即した立地地域支援を推進。
・事故の経験から得られた教訓に基づき安全性を高めた原子力技術を提供し、世界の原子力安全、核不拡散及び核セキュリティに貢献するとともに、原子力新規導入国の人材育成・制度整備支援等を拡充。
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