事例2 50年培った「ネジ」の実績で医療分野の明日を支える
橋本螺子(静岡県浜松市)
橋本螺子(らし)は、1955年の創業以来、一般規格やオーダーパーツのネジの製造・販売を手掛けてきた。89年、二代目社長に就任した橋本秀比呂さんは新分野への開拓を模索し、医療機器事業への参入を果たした。製造業4社からなる協同組合を設立し、産学官連携、異業種の中小企業連携で、地域の医療、福祉・介護分野の活性化を図る。
チタンに魅せられて新規事業の扉を開く
「父、昭一が創業した一年前に私が生まれました。ですから、ネジとともに育ったと言っても過言ではありません。創業といっても最初は自宅兼事業所で、家にネジがあるものだから、オモチャ代わりによく遊んでいましたよ」と語る代表取締役社長の橋本秀比呂さんは、昔を懐かしんで笑った。先代から橋本螺子を受け継ぎ、一般規格ネジや特殊ネジ、オーダーパーツの製造・販売を手掛ける。一般規格ネジだけでも2500〜3000種類、月の総出荷数は250万〜300万個にのぼり、売り上げの60%を占めるという。顧客数は静岡県浜松市を中心に約300社を数える。
だが、現状売り上げの20%だが将来は50%に拡大していきたいと意欲を燃やす事業がある。それが医療機器分野だ。
「1989年に就任してから何か新しい事業に挑戦したいと考えていました。いろいろ試しては失敗の連続で、気付くと10年の月日が流れていました」
初めから医療分野への参入を狙ったわけではなく、「小さなネジ屋にとって雲の上の存在です。とてもとても」と言って、手を左右に振って苦笑する。では、なぜ医療分野の参入に至ったのか。そのきっかけは金属チタンに橋本さんが興味を持ったことから始まった。
「オーダーパーツ事業で、鉄、ステンレス、真鍮(ちゅう)、アルミニウムといろいろな素材を知ることとなりました。その中で軽くて強くてサビにくいチタンという素材に引かれていったんです」
その好奇心から「日本チタン協会」があることを知り、電話でチタンについて学びたいと熱心に伝えたところ、賛助会員として推薦してもらえたというから、橋本さんの強い思いがうかがい知れる。そして、その協会関連の展示会に出展したところ、医療機器メーカーからチタン製の試作品づくりを依頼されたのだ。
産学官連携、他企業と協同し新たな分野に切り込む
意気揚々と試作に取り組み、何度も完成品を提示するが、医療機器メーカーはなかなか首を縦に振ってくれない。
「工業用と医療用で、求められるクオリティーの差は予想をはるかに超えていました。工業用でハイクオリティーの仕上がりでも、医療用では通用しない。体の中に使われる器具ですからね。こちらもネジ屋の誇りにかけて取り組みました」
こうした過程で橋本さんはチタンの特性が医療分野に向いていることを痛感し、チタン製の整形外科用骨固定ネジの研究開発を進める。だが、一企業で新規事業をスタートするには、時間も費用も労力もかかる。そこで、浜松商工会議所が主催する浜松地域新産業創出会議のメンバーに加わって人脈を広げた。そして2006年8月に設立された「HI-Cube」(浜松イノベーションキューブ)という独立行政法人中小企業基盤整備機構が展開する国、県、市による新規事業の総合支援を活用した。
「静岡大学浜松キャンパスの隣にある施設で、大学と一緒に共同研究や技術支援を受けられるのです。この施設内に医療機器事業部を設立し、翌年の07年に苦労して医療機器製造業許可を取得しました」と橋本さんは語る。
さらに医療分野への拡大を推し進めるべく、12年には一企業の枠を超えて医療機器製造にチャレンジする製造業4社による協同組合「HAMING(ハミング)」を設立した。これにはリーマンショックで落ち込む浜松の製造業を盛り上げる意味合いもあった。
「医療分野に参入して分かったのは、日本の手術用器具の多くは職人の手づくりということでした。しかし、職人の高齢化、薬事法の改定、多品種少量生産で採算がとれずに廃業に追い込まれ、器具は海外調達するという流れができつつあります。浜松のものづくり企業が集結すれば、医療機器が地場産業にもなり得ると思ったのです」
協同組合を設立し夢ある事業を国内外で展開
協同組合は、公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構、浜松医科大学、浜松商工会議所の医工連携研究会と連携。職人技を機械加工で再現する手術用器具の開発、病理検査器具や介護機器の改善など、医療だけではなく福祉・介護分野も含めて現場のニーズに応える取り組みを進めている。
「4社を母体に、ニーズに応じて地元企業に声を掛けて展開すれば、さらに事業を拡大できる可能性があります」
12年に新工場を設立して医療機器事業部を移転した。メディカル事業部と改称するなど、今や同社の一事業として確立している。
「実はもう一つ、新たな事業を進めています」と橋本さんが笑顔で手にしたのがおもちゃのロボットだ。ネジを使って組み立てる「ねじブロック」という商品で、14年7月に一般発売した。
「ビジネスというよりも、身近なネジにもっと関心をもってもらいたいという思いから始まった事業です。いわばレゴブロックのネジ版で、ネジを回すという動作が加わる分、創造性が刺激されます」
子どものころ、橋本さん自身がネジで遊んだこともヒントになったという。数種類のネジを組み合わせ10種類の作品が完成した段階で商品化したそうだが、発売後に予想外の出来事があった。お客さま、つまりねじブロックで遊んだ子どもたちから「こんなものをつくった」というフィードバックがあり、作品のレパートリーが30種類に広がったのだ。
「国内外でワークショップを開いてますが、大好評です。いつか世界コンテストを開催したいですね」と壮大な夢に目を輝かせた。
会社データ
社名:橋本螺子株式会社
所在地:静岡県浜松市東区神立町124-11
電話:053-461-5012
HP:http://www.hashimoto-neji.co.jp/
代表者:橋本秀比呂 代表取締役社長
従業員:16人
※月刊石垣2018年6月号に掲載された記事です。
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