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テーマ別企業事例 日本のものづくりは揺るがない 新分野を開拓"部品屋の挑戦"

事例3 球体に特化した技術力で世界最高級の人工股関節誕生

木田バルブ・ボール(大阪府東大阪市)

オリジナル球体加工機を駆使し、世界最高レベルの球体に仕上げる

“限りなく真ん丸”がつくれる技術で医療分野に進出

町工場の集積する東大阪市で、1964年の創業以来、バルブボールやバルブ周辺部品の製造販売を行ってきた木田バルブ・ボール。長年大手メーカーの下請けをしてきたが、ミクロンの精度で真球がつくれる技術力が買われて、人工股関節の製造に乗り出す。今や複数メーカーから引き合いが舞い込み、シェアを伸ばしている。

東大阪の小さな町工場から、世界最高レベルの人工股関節が誕生した。人工関節とは、障害の起こった部位と入れ替えることで痛みを取り、歩けるようにするための医療器具だ。主に股関節や膝などに用いられるが、加速する高齢化に伴い、需要が増加している。

その人工股関節パーツを製造しているのが、木田バルブ・ボールだ。同社は長年にわたり、バルブボールを中心に扱ってきた。流体を止めたり、流したりする弁の働きをするバルブボールは、限りなく丸いことが求められる。同社はミクロンの精度で真球をつくる技術力が売りだ。大手バルブメーカーでも全てのボールサイズに対応できる会社がないため、同社がその供給責任を負っている。

「当社では多種多様な材質でバルブボールを製造してきました。私は20年ほど前にこの会社に入ったんですが、業績は悪くないが、いつまでも言われたものをつくるだけではダメだと。それで従業員を若返らせ、従業員の技術力を高めて、事業をさらに展開したいと考えていました」と同社社長の木田浩史さんは説明する。

そんな木田さんに転機が訪れたのは2003年のこと。事業内容をホームページで見たと、商社からこんな打診があったのだ。「人工股関節に使用するボールの切削研磨はできませんか?」

部品屋として未経験だった0・1ミクロンの精度に挑む

股関節用の人工関節は、四つのパーツから成っている。骨盤に装着する金属カップとボール(骨頭)、その間のクッションとなる樹脂、そして大腿骨に埋め込むステムだ。同社に持ち掛けられたのは金属カップとボールで、関節をスムーズに動かすには滑らかさが求められる。つまり、限りなく真ん丸でなければならないのだ。しかし、木田さんが引き受けるのに、時間はかからなかった。

「工業用はミクロンの精度で仕上げますが、関節はその10分の1の精度が必要と言われました。私としてもサブミクロンの世界は初めてなので、おもしろい!と思いました。材料のコバルトクロムは扱ったことがなかったのと、歩留まりの見当が付かなかったことが不安要因でしたが、ハードルが高いと燃えるタイプなので、すぐに試作に取り掛かりました」

半年ほど試作を重ねた結果、100個中90個はクリアできることが分かった。残りの10個も検査数値上はクリアしていて、レーザーで解析すると表面に微細な誤差が出る程度だったため、手直しすることで100%納品できることが見込めた。その後量産体制を整え、現在月産100セットを製造しているという。

「人工関節というとニッチですが、今後さらにニーズが増えていくことが予想されます。日本の人工関節の市場規模は900億円で、そのうち日本製は1割程度だとか。それを国内医療機器メーカー数社が扱っているわけですが、当社もそこに食い込んでいきたいと思うようになりました」

それまでは商社の依頼を受けて製造し納品してきたが、それだと単にパーツをつくっているだけで、医療機器に関する情報が入ってこない。自社の技術力を広く知ってもらうためにも、製造から10年たったのを機に販路拡大に乗り出した。

3年計画の展示会出展で新たな販路を獲得

その足掛かりとして、2016年から展示会に出展している。主力のバルブボールはもちろん、人工関節にも大きなスペースをとってPRを展開したが、当初は閑散としていたという。

「最初はこんなものかな、と。この辺りの町工場でも展示会に出展している会社がありますが、1回やって反応が悪いと次の出展を見送るケースが多い。私はやるなら3年のつもりでしたし、最初は名前を売るのが目的だったのであまり気にせず、2年目もトライしました」

木田さんの狙いは当たった。工業部品をつくる会社が人工関節もつくっていることに興味を持つメーカーが現れたのだ。さらに、その技術を応用した、産業用ロボットの関節の製造も受注した。

「最も驚いたのは、人工透析器に使う人工弁の試作を依頼されたことです。流体を流すときは弁が開き、止めるときは弁を閉じるという仕組みの部品です。これは球体ではなくリング状のものなので、当社としては新たな挑戦ですが、今からワクワクしています」

木田さんは今後も医療分野に可能性を広げていこうと、大阪大学医学部付属病院のセミナーに参加したり、同大病院が力を入れている医工連携にも積極的に関わったりしている。また、同時に多様な部品を扱えるように、東大阪市の医工連携研究会の活動を通じて情報交換するなど、あちこちにアンテナを張り巡らせている。

「現在、当社全体の売り上げのうち、人工関節の占める割合は2~3%ですが、この1~2年で10%まで引き上げるのが目標です。2年前からは、行政のマッチングイベントや展示会を通じてマレーシアやタイからの引き合いも。求められる品質やコストは、国内と海外では違いがあることが分かってきましたので、戦略を考えつつ海外販路も開拓していきたいです。また最近は展示会のおかげで球体以外の注文も増えています。ハードルの高い仕事をどんどん受けていきたい」と木田さんの新たな分野への挑戦は止まらない。

会社データ

社名:木田バルブ・ボール株式会社

所在地:大阪府東大阪市玉串町東3-1-36

電話:072-963-2441

HP:http://www.kvb.jp/

代表者:木田浩史 代表取締役社長

従業員:80人

※月刊石垣2018年6月号に掲載された記事です。

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