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テーマ別企業事例 日本のものづくりは揺るがない 新分野を開拓"部品屋の挑戦"

事例1 これまでの織物の技術を生かした新しい製品の開発に取り組んでいく

栗田煙草苗育布製造(栃木県佐野市)

創業は明治40(1907)年で、初代がタバコ苗育布の開発・販売を開始したことから始まった

栃木県佐野市にある栗田煙草苗育布(たばこびょういくふ)製造は、織物製品の一種である寒冷紗(かんれいしゃ)の一貫生産を行っている。寒冷紗はもともとは主に農業用に使われるものだったが、同社では自社が持つ技術を生かして多種多様な製品を開発・生産している。それらを製造業や建築業で使われる製品の〝部品〟として提供していくことで、日本のものづくりに貢献している。

寒冷紗の特性を生かした新たな製品開発へ

「寒冷紗」という耳慣れない名前のこの製品は、実は私たちの生活と密接に関わり合っている。糸の目を粗く織り込んだ布で、適度に空気を通して光をさえぎることから、農作物の芽や苗を覆って日除けや防虫、防寒、霜除けなどに使われている。工業用としては建築物の床材の裏地などにも使われ、日用品としては台所用の市販のふきんにも使われている。

自社の製品について、栗田煙草苗育布製造の社長、栗田昌幸さんはこう語る。「弊社の寒冷紗は、もともとはタバコの苗を育てるためにつくったのが始まりです。そのため社名が栗田煙草になっているのです。同じく社名に入っている苗育布は、その名のとおり苗を育てるための布という意味です。タバコだけでなくそのほかの農作物にも使われるようになり、主に農業用に使われてきました。その後、農業用の需要が減ったことから、同じ技術を使った産業資材の製品にシフトしていきました」

今はタバコの苗に使われることはほとんどないそうだが、社名に「煙草」を残したのは、その名前の珍しさもあるからだという。「タバコをつくっているんですかとよく聞かれます。でも、この社名のおかげで、話がつながっていくこともあります」(栗田さん)

これまでの技術をベースに製品の付加価値を高める

同社が産業資材に切り替えていったのは1990年ごろ。農業資材としては寒冷紗に代わる安い製品が普及してきたことから、経営的に厳しくなってきた。当時の社長で現会長である栗田重雄さんは危機感を持ち、寒冷紗の特性を生かした新たな製品開発に進んでいった。そうして完成したのが、建築物の壁の内装工事に使われる副資材だった。

このときの方向転換が大きな転機になったと、同社の非常勤取締役で商品開発を担当する一柳(いちりゅう)隆治さんは言う。

「それまで生産していた農業用の寒冷紗は、織ったものをそのまま出荷していました。新たに開発したものは、それをベースにして、二次加工、三次加工を施すことで付加価値を高め、建築現場の副資材として使えるようにしました。開発には5年ほど要し、製造設備も入れる必要があって時間とコストがかかりましたが、他社製品の一部として使われるようになり、今では弊社の主力商品になっています」

このように寒冷紗は、工業資材と組み合わせることにより、補強やひび割れ防止など、新たな用途に使われている。建築現場で使われている資材としては、建物の床の下地にも寒冷紗が用いられており、これも同社の主力商品の一つになっている。

「これらは取引先からの要望に合わせて製造しており、取引先はそれを使って完成品をつくっています。つまり弊社は他社製品の部品にあたるものをつくっているわけです。壁や床の中に使われるなど、一般の方々の目に触れないものばかりで、そういうところも工業製品の部品と似ているところがあると思います」(栗田さん)

スピード感を持って新分野へ挑む

同社では、壁用と床用のほかに屋上防水用の副資材も主力製品で、これにも寒冷紗の技術を生かした織物が使われている。

同社が製造している製品の中には、部品としてではなく、完成品になるまで手掛けて取引先に納めているOEM商品もある。

「弊社は織物製造業ですが、今は織物加工業に近くなっています。一般的に織物業の製造は分担化されていますが、弊社は糸から最終製品まで一貫生産しており、さらには粘着加工やフィルムのエンボス加工、カレンダー加工も内製化しています。ここまでやるのは国内では弊社くらいだと思います」(栗田さん)

それらの技術を生かして、同社は新製品を開発することに力を入れている。中には失敗したものも多くあるが、チャレンジ精神旺盛にスピード感を持って果敢に攻めていくことが社風になっているという。 「現会長はとにかくスピードにこだわる人で、弊社の経営理念の一つにしたほどです」(栗田さん)

その中で将来性のある製品も生まれている。その一つが「KT吸音材」である。これは2013年に開発を手掛けたもので、表面がデコボコの三次元模様になっており、これも従来からある織物の技術がベースになっている。

「弊社の工場の一つが病院と隣接しており、法規上、敷地境界線での昼間の騒音は65デシベル以下でなければなりません。そのため、以前に試しでつくった吸音材を工場の内側の壁全面に貼ったところ、外に漏れる騒音がかなり治まり、65デシベル以下を達成することができました。これを契機に吸音材の開発が始まりました」(一柳さん)

こうして開発した吸音材の裏側に自社製の織物が使われており、加工機を通すとそれが収縮し、表側に立体的なデコボコができる。このデコボコが音の反響を軽減して吸音効果を高めるのだという。 もう一つは15年に完成した「薄葉(うすよう)寒冷紗」で、これは従来の寒冷紗より半分以上薄い。16年の『超モノづくり部品大賞』(モノづくり日本会議と日刊工業新聞社主催)で奨励賞を受賞した。

「薄葉寒冷紗の開発の発端は、さらに薄い寒冷紗はつくれないかというお客さまからの要望です。研究を進めていくうちに、熱と圧力によるカレンダー加工でつくれることが分かり、約3年かけて開発しました」(一柳さん)

薄葉寒冷紗が『超モノづくり部品大賞』を受賞した際、先に開発されていたKT吸音材の話をすると、翌年の出品を勧められて応募。同じく奨励賞を受賞した。その後、各方面から反響があり、KT吸音材は17年から一部試験的に販売を始めている。

常に原点に立ち次を見据えた商品開発をしていく

このように新たな分野のものを開発していくにあたり、どのような苦労があるのだろうか。

「一番意識するのが既存品との違いです。それをどう出していくのか、うちでできるのかを考えながら、試行錯誤の連続です。開発しても売れなかったらどうしようという心配もありますね」(一柳さん)

「開発には時間もお金もかかります。今はほかの商品で利益が出ており、余裕があるから開発ができる部分もあります。商品30年ともいいますから、余裕があるときに次を見据えた商品開発をしていかないといけません」(栗田さん)

その一方で、町工場の部品屋だからできることもあるという。

「小さいオーナー会社なので、やると決めてからのスピードが速く、失敗してもいいからやれとなる。これは弊社のような町工場でなければできません」(一柳さん)

これからも新しいものを開発していくが、原点の織物業からは決して外れないと、栗田さんは言う。「糸へん産業は世界最古の産業とも言われていますが、その中でも工夫をしていけば新しいものができる。弊社が開発した製品が『超モノづくり部品大賞』に選ばれたことは、それを証明していると思います。今後もこれまでの織物の技術を生かした新しい製品の開発に取り組んでいきます」

寒冷紗がタバコの苗の成長を育んできたように、同社は織物業の新たな可能性を育んでいく。

会社データ

社名:栗田煙草苗育布製造株式会社

所在地:栃木県佐野市堀米町1636

電話:0283-22-3101

HP:http://www.kuritatabaco.jp/

代表者:代表取締役社長 栗田昌幸

従業員:63人(パート含む)

※月刊石垣2018年6月号に掲載された記事です。

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