海外収益 国内還流促進へ 電力コストと法人実効税率 競争力強化の焦点に
2014年版ものづくり白書(骨子・抜粋)
政府はこのほど、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省共同で作成した「平成25年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2014年版ものづくり白書)を閣議決定した。白書では、わが国製造業の足下の業況は、中小企業も含め昨年と比較して改善の兆しが現れている一方、貿易赤字が拡大する中で、「輸出を支えるための国内生産基盤の維持」や、グローバルニッチトップ企業やベンチャー企業などの「新しい輸出の担い手の育成」、「グローバル需要の取り込み、経常収支維持のための海外収益還元促進」などの必要性を強調している。特集では、このうち、白書の第1章「我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」と第2章「成長戦略を支えるものづくり人材の確保と育成」の骨子を紹介する。
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
(1)我が国製造業の足下の状況
①我が国製造業企業の業績改善
■株価の上昇、収益の改善が見られ、さらには賃金引上げの動きが広がる(経済の好循環に向けた動き)。我が国製造業は、長らく厳しい競争を強いられてきたが、アベノミクス効果が着実に浸透。
②経常収支の黒字縮小と少子化・人口減少の中で求められる製造業の役割
■一方で、経常収支は3年連続で黒字縮小。特に、貿易収支については過去最大の貿易赤字を計上。燃料輸入増大やエレクトロニクス産業の黒字縮小が主因であるものの、円安下においても輸出(特に輸出数量)が回復しにくい状況。生産拠点の海外移転による影響もあり。
■さらには、少子化・人口減少に伴う国内市場の縮小と、生産年齢人口の減少、労働力の不足が一層懸念されるところ、製造業が国内に基盤を維持し、一人あたりの生産性を高め、付加価値の高い製品を生産することを通じ、域内外から稼ぐ必要がある。
(2)我が国製造業の競争力強化に向けて
①国内生産基盤・輸出力の強化と海外で稼ぐためのインフラ整備
(ア)輸出を支える国内生産基盤の維持・強化
■為替水準の安定と輸出先景気の改善などにより、今後の輸出増加を期待する声が多い状況。さらには、為替の円安方向の推移に加えて、国内でのものづくりをあらためて評価する動きあり。
今後は能力増強を中心に国内投資を拡大しようとする兆しがうかがえる。
■こうした兆しを確実なものとするため、国内生産拠点の高度化や新市場の創出とともに、「立地競争力」の強化が求められる(電力コスト対策や法人実効税率の在り方の検討が重要)。
(イ)新たな輸出の担い手の育成
■自動車などの輸出維持に加え、セットメーカー、大企業のみによらず裾野広く輸出で稼いでいくことが必要。輸出に力を入れ国内サプライチェーンに広がりもあるグローバルニッチトップ企業の支援や製造業ベンチャー企業の創出・育成を、地域経済も含めた日本全体で行っていくことが必要。
(ウ)グローバル需要の取り込み、経常収支維持のための海外収益還元促進
■成長市場に対応し収益力を高めていくためには、事業分野・工程によっては海外での投資・生産は不可逆な流れ。経常収支の黒字が縮小する中で、貿易収支の赤字拡大は埋められずとも、所得収支黒字は拡大(製造業の海外展開による事業投資収益など)し、サービス収支は赤字が縮小(海外展開に伴うロイヤリティ収入の増加など)。
■こうした海外展開の加速に伴う富を確実に確保し国内へ環流させるために、官民一体でさまざまな障壁を取り除いていくことが必要。
②事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上
(ア)稼げるビジネスモデルの構築
■国内で付加価値の高い製品を生産し続けていくためには、新たな事業環境の変化に対応していく必要がある。新たなモノの作り方としてデジタルものづくり(3Dプリンタなど)や、自動車に代表されるモジュール化の進展に伴い、モノの作り方やサプライチェーン構造が大きく変化(高付加価値領域と低付加価値領域の二極化)。さらには、製品自体の付加価値が希薄化する中で、単なるものづくりを超えた事業の在り方を模索することが必要。
■このような状況下で価値創造の源泉を獲得するため、サプライチェーン内での稼げるビジネスモデルの構築(従来の系列外、地域外からも稼げる中小・中堅企業の育成や、自らに有利な競争上のルール整備など)や、高収益のビジネスモデルの確立(サービス提供との組合せ、デザインやブランド化など、事業の高付加価値化やビジネスモデルの変革など)が必要。
(イ)事業環境の変化に対応した人材育成
■(ⅰ)生産技術、市場戦略を含めたイノベーション人材、(ⅱ)機械と人の適切な棲み分けを踏まえた現場の技能工、(ⅲ)海外展開、M&A対応など企業価値向上につなげていくマネジメント人材(高度人材)の育成と確保が必要。
(ウ)ITと外部資源の活用
■収益に繋がるIT
投資の促進や外部経営資源の活用(M&Aなど)が必要。
第2章 成長戦略を支えるものづくり人材の確保と育成
■人材こそが我が国が世界に誇る最大の資源。人口減少・少子高齢化社会が進展する中、労働力を質・量の両面で確保していくことが喫緊の課題。
■成長戦略の下、雇用・所得の拡大による経済の「好循環」を実現するためには、企業と労働者の双方が構造変化に対応していくことが必要。ものづくり産業でも企業が成長分野に進出していくことに併せ、労働者も能力開発によって新たな能力を獲得し、人材力を強化していくことが重要。
■ものづくり産業は特定の地域に集積する傾向があるが、そこでの従事者は減少。成長戦略を支えるためには、ものづくり産業の地域における人材育成も重要。
(1)成長分野に進出するに当たっての人材育成(新事業を担う人材の確保が課題)
■従業員30人以上の製造業を調査したところ、4割半ばの企業が新事業展開を行っている。
■これらの新事業展開企業のうち、4割半ばが「新たな産業分野で新事業展開」を行っている。新たな産業分野としては、「新エネルギー・環境関連分野」「健康・医療・福祉関連分野」「次世代自動車関連分野」など成長戦略に沿った分野の事業展開がされている。
■新事業展開企業のうち、大きな技術変化があった企業は6割半ば。「社内勉強会における学習」「産学連携、研究機関との交流」「取引先からの技術指導」などさまざまな取り組みで新たな技術を吸収・融合している。
■新事業展開企業が考える「新事業展開を行う際に技能系正社員に必要な研修」としては、「複数の技術・技能に関する幅広い知識を習得するための研修」「新たな技術に対応できる専門知識を習得するための研修」「新製品の加工に必要な技能を習得するための研修」などが多いが、必要だと思っていても実際には実施できていない研修が多い。
■新事業展開の課題としては、「新事業を担う人材の確保が困難」が一番多い。
■成長分野に進出するに当たって求められる人材育成施策としては、①訓練を実施する事業主への助成の充実、②熟練技能者による若年技能者への技能継承の推進、③新事業展開する企業のニーズに応じた訓練の実施、④人材育成を行う上で重要となる職業能力評価の充実などが想定される。
(2)地域における連携を通じた成長戦略を支える人材育成(自社ニーズにあった機関を見つけることが課題)
■事業活動に関する情報収集や新技術獲得などを目的とした、社外や地域の他機関との連携については、「連携したことがある」「連携を検討している」を合わせると5割強。
■連携相手としては、とりわけ「大学などの公共教育機関・研究機関」が多い。
■公共職業訓練機関との連携内容としては、「研修・セミナーの受講や実施」「募集・採用活動」が多く、5割強となっている。
■地域で連携して技能系正社員の能力を向上させるために必要と回答された取り組みとしては、「企業ニーズに合致した職業訓練コースの設定」「熟練技能者を講師役とした企業向け講習会の開催」などがある。
■地域で連携を進める上での課題としては、「自社のニーズにあった地域・社外の他機関がなかなか見つからない」が多い。
■地域でのものづくり人材育成のために求められる施策としては、①地域における訓練資源の情報発信強化、②地域の関係機関の協働による訓練コース開発などが想定される。
(3)今後の方向性
■成長産業の中には製造業そのものや製造業に関連が深いものも多く、今後は、ものづくり産業の中での成熟産業から成長産業への転換・進出に併せて、労働者に対しても能力開発が進められるよう公的支援を行っていくことが重要。
■ものづくり産業が地域に集積する傾向があることは人材育成を進める上での強み。地域の中で地域に必要な成長戦略を支えるものづくり人材を育成することができるよう企業ニーズに即した情報提供や連携支援を行うことが重要。
(4)成長戦略を支えるものづくり人材の育成を支援・促進する現行の施策
■より効果的なものづくり訓練の実施(ポリテクセンターによる成長分野の訓練ニーズを踏まえた訓練など)
■若者のものづくり離れへの対応(ものづくりマイスター制度、各種表彰・競技大会など)
■個人、企業などそれぞれの立場で活用できる職業能力評価の充実(技能検定など)
第3章 ものづくり基盤を支える教育・研究開発(略)
(1)ものづくり人材育成における大学(工学系)、高等専門学校、専門高校、専修学校の取り組み(略)
(2)ものづくり人材を育む教育・文化の基盤の充実(略)
(3)産業力強化のための研究開発の推進(略)
(注)平成25年度施策集も省略しています。
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