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まちの視点 赤字打開策はアート

パークホテル東京アーティストルームの一室。テーマは妖怪と空

東京都心には有名な外資系ホテルが多数進出しており、ホテル業界の競争は世界レベルとなっている。そんな中、港区汐留にある独立系ホテル「パークホテル東京」は、知恵と人脈を駆使して現代アート作家とのコラボレーションを実現。「日本の美意識」を表現し、海外のお客から好評を得ている。

その特徴は客室全体を新進気鋭のアーティストが装飾した「アーティストルーム」である。墨で描かれた力強い相撲力士のいる部屋、迫力ある龍が壁全体にぐるりと描かれた部屋、バスルームで歌舞伎役者が見えを切っている部屋もある。2012年12月にスタートし、対象とするフロア31室中、現在は29室が完成している。

ホテルの空間を作家に貸し出し

同ホテルがアートに取り組み始めたきっかけは、メイン顧客である外国人客の激減だった。リーマンショックや東日本大震災を受け、ホテル業界は冷え込んだ。同ホテルも安売り合戦で1泊1万円以下、隣接のホテルと100円を争うような価格競争を余儀なくされ、どんなに売っても赤字状態だった。当然、スタッフの士気も下がっていく。

その打開策として取り組んだのが「日本の美意識を体感できる時空間」をコンセプトに、ホテルをアートで彩ることだった。しかし、厳しい経営状況が続いていた中で、潤沢な資金はない。そこで、ホテルの最大の強みである「空間」を作家に貸すことにした。

ホテルと画廊、デザイン会社などを含めたプロジェクトチームを結成し、ロビーなどに作品展示することにした。一方で、ホテルのメインは客室。部屋に何も施していないのに、アートなホテルとはいえない。しかし、額に入れた作品を飾るホテルはどこにでもある。

プロジェクトメンバーの1人が冗談で「部屋の壁に直接描いてもらいますか」と言った。「できるわけがない」と最初は笑い話だったが、そのうちに「1室だけ許可してもらおう」ということになった。

ネットで一躍注目口コミで評判に

恐る恐る始めたアーティストルームだったが、宿泊客の反響は大きかった。そのフォトジェニックな部屋に関心を持ったブロガーからの注目度が高く、多数のフォロワーを抱えた海外ブロガーからも多くのアプローチを得た。また一般の多くの宿泊客もSNSに投稿、瞬く間に人気を集めていった。

「旅行に関する口コミサイトでは、当ホテルが港区内のホテルランキング6位になったこともあります。上位5ホテルは外資系の有名チェーンなので、その中に私たちが入ったのは誇りです。今後も、お客さまが当ホテルへの宿泊を誰かに伝えたくなったり、誇りに思えたりするようなホテルにして、ファンやリピーターを増やしていきたいですね」

こう語るのは同ホテル支配人の小野敦志さん。

アーティストルームに取り組んだ結果、客単価が上がり、売り上げも上がった。現在、マスコミからの取材は年間約100件。テレビや雑誌に自分が働くホテルが登場することで、スタッフの自信につながっている。スタッフのアートに対する関心も高くなっており、社内ではアート鑑賞をする部活動も発足。「スタッフみんなが、アートは自分たちの強みということを認識してきています」と小野さんは胸を張る。

アーティストルームのフロアには「アートコンシェルジュ」が常駐。ロビーでの作品展示をアーティストルームにもつなげ、ホテル全体でアートを楽しむ。都市型ホテルで回遊性を持たせるという画期的な取り組みだ。

また今年2月には、東京や大阪などの画廊が同ホテルの客室にブースを開いて展示販売をするアートフェアが開かれた。「このイベントで知名度も上がり、アートといえば当ホテルということが確立できる」と小野さんは期待を寄せる。

客室というハード面からソフト面へ。常に新しいアイデアが生まれ、同ホテルのアートプロジェクトは走り続けている。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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