事例2 電源管理を制するものは生産管理を制す!人を切らずに電気を切って生産性も向上
栄光製作所(群馬県富岡市)
医療機器を中心とした電子機器の基板を製造する栄光製作所は、バブル崩壊により受注の8割を失い、廃業寸前まで追い込まれた。その際に「仕事がなくても人件費と電気代は同じように出ていく」ことを実感し、徹底的な“節電”に取り組んだ。その結果、節電とともに社員の意識改革にも成功し、業績を回復。同社の取り組みは2015年度省エネ大賞で「省エネルギーセンター会長賞」を受賞した。
コストを削減するため目に見えるところから節電
栄光製作所が節電に取り組み始めたきっかけは、1997年ごろ、バブル崩壊により景気が悪化し、その影響で受注量が大幅に減っていったことだった。同社社長の勅使河原覚さんは、そのころのことをこう振り返る。「円高による産業の空洞化で、全体の受注の80%がなくなってしまいました。以前の、人がいればどんどん仕事をこなせるというところから一転して、仕事がほとんどないという状態がしばらく続きました」
このままだと廃業寸前というときに気付いたのが、収入は減っても人件費と電気代はほとんど変わらないということだった。そこで、経費節減のために、電気代の節約に取り組み始めることにした。
「人件費は削るわけにはいきませんでした。社員を切ってしまったら、うちのような中小企業の工場には、もう二度と人が入ってきてくれなくなりますから。社員には交代で出勤してもらってなんとかしのぎつつ、あとは節電に取り組んでいくことにしたのです」
仕事はないのに、どこに電気代がかかっているのか分からず、最初は手探りだった。まずは目に見えるところから節電していこうと、蛍光灯の数を減らしたりするなどして節電に努めたという。
「私は無駄についている電気を見ると、すぐに消せと社員に言ったりして過敏になってやっていました。全く意味がないわけではありませんが、それで節電できる量など高が知れている。そんな取り組みを何年も続けていました」
“電気の見える化”で機械の電力ピークをずらす
そんな地道な節電を続けていた同社だったが、2011年に契約電力が大幅に増加する事態が起こった。生産設備の入れ替えを行った際、試運転で一斉に機械の電源を入れたため、使用電力が急激に上昇し、30分ごとの使用電力が契約電力を超えてしまったのだ。そのため契約電力が増加して基本料金が上がってしまった。
「せっかくあれだけ頑張ってきたのに、たった一瞬のことで1年間は高い電気料金が続くことになってしまいました。このまま何もしなければ後がない。これからさらに徹底して節電にチャレンジしていくぞと、このとき決意しました」
それまでも受注量が増えると月次最大電力も大幅に増え、それが契約電力増加の原因につながっていた。受注が多い月と少ない月では月次の最大電力に70 kwもの差があり、ピーク時のデマンド値(平均使用電力)を下げることで、契約電力を下げる必要があった。
「そこで“電気の見える化”に取り組みました。電気使用量がリアルタイムで見えるモニターと、累計使用量が確認できるウェブサービスを導入し、いつでも電気量を確認できるようにしました。それにより、今まで取り組んできた節電の中身が見え、電源管理と生産計画が容易になりました」
総務部係長で、省エネに関する責任者としてエコリーダーを務める松本香奈さんは、電気の見える化による効果についてこう語る。
「それまでもそれぞれの機械の稼働を30分ずつずらしていました。稼働から30分の間に機械が電力を使うピークを迎えるからなのですが、機械によって30分以上かかるものや、逆に20分しかかからないものがあることが見える化によって分かりました。そのため、ピークの時間を効果的にずらすことができるようになりました」
社内全体で節電に取り組み現場のチームワークが高まる
同社では、節電の一環として、社員に対して節電の勉強会を実施し、毎日の朝礼で前日の電気量・電気使用量とその日の電力ピーク予想時刻を発表している。また、電源管理会議を毎日行い、運転電力の大きい機械の稼働が重ならないように、最適な生産スケジュールを組むようにしている。
これら全社員による取り組みにより、以前は最大電力量と最小電力量の差が70kwだったものが7kwに縮まり、月次最大電力も以前より33kwも抑えることに成功した。
しかし、納期に間に合わせるためには機械のフル稼働が必要な場合もある。節電と納期の兼ね合いについて、製造部課長の小金澤郁子さんはこう説明する。「最初は不安でしたが、エコリーダーと相談し、デマンド値が上がらないように現場の協力により機械の稼働を調整することで、節電しながら納期に間に合わせています。すると現場のチームワークが高まり、以前より生産効率が上がりました」
その取り組みにより、14年度に「エネルギー管理功績者及びエネルギー管理優良事業者等関東経済産業局長表彰」を受賞。翌15年には「省エネ大賞」で省エネルギーセンター会長賞を受賞した。
「節電しつつも生産性が上がったため、基板の生産枚数は回復しています。私は『電源管理を制するものは生産管理を制す』と言っていますが、電源の管理をしていたら本当に生産管理もできた。うちのような中小企業は、受注量が不安定でも人材は確保していかないといけません。それに対応するには“人を切らずに電気を切る”のが一番です」(勅使河原さん)
同社の成果は、社内全体で節約に取り組めば、その相乗効果で新たな社内改革が起こり得ることの証左といえるだろう。
会社データ
社名:株式会社栄光製作所
所在地:群馬県富岡市神農原1109-2
電話:0274-63-2483
代表者:勅使河原覚 代表取締役
従業員:25人
※月刊石垣2019年1月号に掲載された記事です。
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