今号は、後発参入ながら独自の高齢者向けサービスで支持を集めている事例をご紹介します。
家族を預けたくなる施設をつくりたい
鹿児島県霧島市にユニティという高齢者向けのデイサービス(通所介護)を行う企業があります。社長の濱田桂太朗さんは、祖父の介護のため近隣のデイサービス施設を見学したとき、皆で童謡を歌うなど、幼稚園のような雰囲気にショックを受けました。「経営者だった祖父はこのようなサービスは受けたくないはず」と独自の施設を立ち上げるべく、創業を決意したのです。
作業療法士だった濱田社長は「自分の祖父母を預けたくなる場所にしたい」と、県内の在宅介護施設に5年ほど勤務してノウハウを習得。そして平成22年8月に「リハシップあい国分」をオープンしました。
お仕着せでなく、「利用者自らの意思で過ごし方を決める」ことができるサービスを濱田社長は意識しました。その一つとして、施設内で使える通貨「シップ」を導入。これは、運動やリハビリで〝稼ぎ〟、喫茶コーナーでの飲み物の注文、カラオケの利用、イベントへの参加などで〝使う〟ことができるお金です。カラオケの利用料はあえて高めに設定し、他の利用者に声を掛けてグループで利用してもらうよう、考慮しています。
また、所内で働いてシップを〝稼ぐ〟仕組みも取り入れました。「利用者本人の経験や得意分野を生かす」ことで、やりがいが生まれ、身体機能などの改善にも高い効果があるそうです。裁縫が得意な女性は所内で使う雑巾をつくり、国語の教師だった人は、講師となって短歌を教えるなどしています。利用者は自由に〝稼ぐ・使う〟の経済活動を行えることから、張り合いのある充実した時間を過ごせるのです。
こうした独自の取り組みが奏功し、利用希望者が急増。今春には市内に3つ目の施設をオープンする予定です。
誰もが生き生きする場所に
利用者が亡くなった際、葬儀の遺影にはこの施設での様子を写した写真が使われることが多いそうです。ご遺族に理由を伺うと「ここに通っているときの表情が一番生き生きしていたから」とのこと。濱田社長の祖父は彼の施設を利用することはかないませんでしたが、創業への思いは結実したと言えましょう。 「自社の製品やサービスを家族に使わせたい」という視点は、従来にはない新たな魅力や強みを生む大切な要素だということを、この事例は教えてくれます。
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