未だ収束が見えないコロナ禍は、日本社会や経済に甚大なダメージを与えている。この窮状を打破するため、全国515の商工会議所は一斉に動き出した。地域の企業や地域の特色・状況をしっかり把握している商工会議所だからこそ、大きな成果を上げた‶新型コロナに打ち克(か)つ〟取り組みを追った!
本特集で紹介する4商工会議所の取り組みをはじめ、各地商工会議所の取り組みは、日商Assist Bizで紹介しています
事例1 地元企業のニーズにきめ細やかに対応 スピード感ある事業展開で地域を支える
札幌商工会議所(北海道札幌市)
新型コロナ禍の影響が全国に蔓延(まんえん)する前の1月末。道内で初の感染者が確認された翌日に、早くも札幌商工会議所は「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」を設置する。そして、3月に入ると過剰に在庫を抱えた全道の食品関連企業を対象に「緊急在庫処分SOS掲示板」を開設。さらに消費を喚起する「商品券」事業を実施するなど、地域の状況に応じて迅速に手を打っていった同所の事業戦略に迫った。
初の感染者確認の翌日に経営相談窓口を設置
今回のコロナ禍において、全国の都道府県のなかで最初に大きな影響を受けたのが北海道だろう。今年1月28日に道内で初めて中国・武漢からの観光客が新型コロナウイルスに感染していることが確認されると、2月14日には札幌市で道民の感染者が初めて確認された。以来、2月末時点で陽性患者数の累計は70人にまで増え、国内最多となっていた。北海道にとってこの時季は冬の観光シーズンのピークであり、中国からも多くの観光客が訪れていたことがその要因とされている。そのため北海道全域で観光産業だけではなく、その他の多くの産業が大きな打撃を受けた。
当時から現在に至る北海道の状況について、札幌商工会議所理事・事務局長の西田史明さんは次のように説明する。
「2月28日に北海道知事が独自に『新型コロナウイルス緊急事態宣言』を出したこともあり、全国の他地域(4月7日に7地域で緊急事態宣言の発令、16日に全国に拡大)と比べて外出自粛や休校などによる影響が長く、その点で飲食業や観光業関連を中心にダメージは甚大でした。宣言解除後も、感染が収まったとはいえない状況が続いており、現在も需要が回復してきたとは言い難い状態です」
コロナ禍による域内の中小企業や小規模事業者への経済的な影響に対して、同所の動きは素早かった。道内で最初に感染者が確認された日の翌日1月29日には、事業者に対するきめ細かな対応を行うために所内に「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」を設置し、休日も含めて相談の受け付けを開始した。また3月9日からはオンラインによる経営相談窓口も開設した。
「3月に入ると、景気動向調査に加え、各業界の状況についてヒアリングを行い、どういった支援策が必要かについて把握に努めました。これを元に自治体への要望活動を行ったほか、当所が取り組めるものについては機動的に取り組んでいきました」(西田さん)
このような素早い取り組みが、苦境に陥った道内の企業を支援するための次への動きにつながっていった。
道内企業支援のためWeb上に「SOS掲示板」開設
「当初、会員企業からは、資金繰り支援をはじめとする緊急対策、その後は大胆な経済対策についての声が多く寄せられました。また、国や自治体もさまざまな支援策を打ち出すもののスピード感に欠ける面があったことから、即効性を求める声も大きかったのです」と西田さんは言う。そこで札幌商工会議所は、道内の緊急事態宣言により経済活動に支障をきたした企業を支援するため、3月10日、インターネット上に「緊急在庫処分SOS掲示板」を開設した。
「北海道内では、特に食品関連企業が苦境に陥りました。全国で予定されていた物産展などのイベント中止や来店客数の減少などにより、売り上げの低迷や過剰在庫などの影響が出ていたのです。そこで、過剰在庫商品を抱える企業の販売促進のために、企業の販売情報を掲載するインターネット掲示板を立ち上げることにしました。3月4日にこの事業案についての打ち合わせを行い、翌5日夕方には掲載企業募集の告知を当所のホームページに掲載しました。そして6日、会員企業や各関係団体へ案内文を送付して周知を図り、翌週10日には掲示板の開設にこぎ着けました」(西田さん)
掲示板は、札幌商工会議所の会員・非会員を問わず、北海道内の企業は無料で掲載できる。掲載内容は過剰在庫の商品、販売方法(店舗販売、ネット販売、電話注文)、説明文(店舗・企業の現状や商品に関すること)などに加え、店舗や商品の写真1枚となっている。
掲示板を開設してすぐに、ネットニュースや全国放送のテレビ番組などで紹介されると、当初の予想を大幅に上回るアクセスがありサーバーがダウンするアクシデントが発生。同所には電話での問い合わせが殺到した。そのため、すぐに札幌市内のIT企業の協力を得てサーバーを強化して対応した。さらに、サーバーダウン中に情報発信源として開設したツイッターの公式アカウントは、現在2万を超えるフォロワーを擁している。
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1社の最高売上額は2千万円 感謝や励ましの声も多数
3月10日に掲示板を開設した当初、掲載企業は十数社だったが、反響の大きさから掲載希望の企業が続々と増えた。また「飲食料品以外の商品も掲載してほしい」という声も多かったため、5月からは飲食料品以外で過剰在庫となっている物品についても掲示板掲載の対象とし、掲載商品のジャンル拡充を行った。そのため現在では、掲載企業数は463社にまで増えている(8月20日時点)。
また、開設から数カ月が経ち、緊急性が薄れて「緊急在庫処分」という掲示板の役割が変わってきたことから、7月20日には名称を「北海道つながるモール~SOS掲示板~」に変更。以降は掲示板内に定期的に特集ページを設けるなど、ウィズコロナの中での新しい販促スタイルとして、道内事業者の商品の魅力を発信している。
7月20日から8月31日までは、これまでのSOS掲示板を通じた北海道の事業者への支援に感謝して、「最終在庫処分!応援ありがとうフェア」を開催し、最終価格品や限定セットなどを販売して、掲示板へのさらなる支援を求めた。
「これまでのページビュー数は累計1800万ビューで、販売実績は合計約2億7千万円、1社の最高額は約2千万円となっています(掲載企業へのヒアリングによる。金額は自己申告)。現在は同様の掲示板サイトが多数できていますが、全国に先駆けて掲示板を立ち上げた対応の早さについては特に評価していただいています。また、札幌の会員に限らず全道の事業者を対象にしたことで、他地域からも感謝の声をいただきました」と、西田さんは語る。
掲示板に掲載した事業者からは、「山のような在庫を抱えて途方に暮れていたが、完売できた」「販売の目途(めど)が立たない中で、大変助かった」といった声のほか、「全国から温かい励ましのメッセージをいただいた」という声が多数寄せられたという。本掲示板は今後も北海道の事業者と全国の消費者を「つなぐ」役割を目指していく。
商品券やオンラインフェスを活用し、市内の消費を後押し
同所ではこのほかにも、さまざまな支援策を行っている。特に現在では、ネットを中心とした取り組みから、需要喚起に向けた取り組みに徐々にシフトしてきていると西田さんは言う。
「市内の飲食店や小売店を市民の皆さんの消費により応援するため、札幌市および札幌市商店街振興組合連合会とともに、8月5日から『SAPPOROおみせ応援商品券』の販売を開始したほか、札幌の夜間観光を盛り上げるエンターテインメント事業者を支援するため、オンラインフェス(インターネット上で行うイベント)などの事業を実施します」
「SAPPOROおみせ応援商品券」は1冊1万円でそれに20%のプレミアムが付いた商品券で、札幌市内在住または市内に通勤・通学している人が購入でき、事前に登録された市内に立地する取扱店で使うことができる。発行冊数は50万冊で、総額60億円もの消費支援策となる。また経営相談窓口については、増加する「小規模事業者持続化補助金」申請への対応を拡充するため、サポートセンターを設置している。
今後も長期間続くことが予想される‶ウィズコロナ、アフターコロナ〟に備えた同所のこれからの取り組みについて、西田さんは意気込みをこう語る。
「感染拡大防止の取り組みを周知しつつ経済を回していき、回復を目指すことが必要です。一方、人の往来の回復が感染拡大の要因になっている面もあり、観光・サービス業を中心に3次産業が主たる産業構造である当市においては、コロナ収束まで本格回復は見込めないと思われます。来年は延期されていた東京オリンピックの競歩・マラソン競技が本市で行われることから、この盛り上がりを2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致実現につなげていきたい。また、30年度の北海道新幹線札幌延伸を見据え、まちのリニューアルも進んでいきます。これにより新たな札幌の魅力をアピールしていきたいと考えています」
地域企業の困窮状況を的確に把握し、いち早く動き始めた同所は、現在ではすでにその先を見据えて動き出している。
会社データ
札幌商工会議所
所在地:北海道札幌市中央区北1条西2丁目 北海道経済センター
電話:011-231-1076
HP:https://www.sapporo-cci.or.jp/
※月刊石垣2020年9月号に掲載された記事です。
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