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まちの視点 お客に寄り添うまちゼミ

家族で店を営む宮川商店の皆さん

全国およそ300カ所に広がる個店・商店街・地域活性化事業「得する街のゼミナール(まちゼミ)」の中でも、日本最北端で行われているのが紋別だ。 「創業の店である酒と米を扱う宮川商店とは別に、介護ショップと生花店を営んでいるのですが、あるとき介護ショップのお客さまに、『宮川商店……、知らないわねぇ』とつぶやかれたことがあります。そのとき、改めて店や商店街の存在意義を考えさせられました」

こう語るのは、紋別まちゼミを主催する「紋別まちおこし塾」の前会長、宮川法親さんだ。

彼が考えさせられるのも無理もない。宮川商店は100年以上にわたって地元で米と酒を扱ってきた老舗なのだ。てっきり、誰もが知っている存在だと彼は思っていた。

「こんなまちに帰って来るもんか」

札幌の大学を卒業後、大阪で就職。宮川さんが紋別に帰ったのは26歳の時のこと。都会での生活にあこがれ、「こんなまちに帰って来るもんか!」とたんかを切って出ていったものの、市議である父の代わりに家業を切り盛りする母の苦労を思い、事業を継ぐ決意をした。

まちは、離れていたわずか7年のうちにも活力を失っていた。少子高齢化、人口減少が進み、昭和40年代には4万人を数えた人口も、現在は2万3000人。将来は1万5000人程度になるという予測もある。

宮川さんは家業経営の傍ら、青年会議所の活動を通じて地域振興に取り組んだ。まちを何とかしたいそんなヒリヒリするような使命感と義務感に駆られる毎日だった。

まちゼミに出合ったのは、そんな最中の2014年のことだった。まちづくり推進室の担当から、あるセミナーへ〝数合わせ〟として参加を求められ、しぶしぶ足を運んだ。そのとき登壇したのが、まちゼミの伝道者、松井洋一郎さんだった。

「これだっ!」と、宮川さんは燃えたぎる確信を感じたという。これまでに活性化イベントでは、自店のシャッターを下ろして手伝いに行かなければならなかった。しかし、まちゼミなら自らの店で自店の活性化が、普段の営業の延長線上で行える。そして講座を、いつ何回行うかも自分自身が決定できる。

売り上げを急いで求めない

第1回紋別まちゼミは14年11月、参加23店で25講座が開かれ、153人の市民が参加。受講者の満足度は「大満足」が68%、「満足」が31%の計99%と好結果を上げることができた。

参加店の参加費は1講座5000円。宮川さんは最初から、身銭を切ることにこだわった。それによってこそ参加者一人一人が当事者としての自覚を持つからだ。

翌年10月の第2回では参加費を7000円に上げたが辞退者はなく、参加26店で28講座が開かれた。受講者数は目標としていた200人に届かず177人にとどまったものの、満足度は99%。しかも、その内訳は「大満足」が75%と前回よりも7ポイントも上回ることができた。

宮川さんにまちゼミの真価を確信させた出来事があった。生花店が「初心者のためのフラワーアレンジ教室」を開催した時のことだ。

いつも女性が多い講座の中に、ひとり初老の男性が参加していた。聞くと、長く教職に就いた後、定年退職、子どもたちも独立したので、何か新しいことにチャレンジしようと参加したという。「花に触るのも初めて」という男性は、笑顔で受講してくれた。

「単に商売上の顧客ニーズを探ったり、売り上げを短兵急に求めたりするのではなく、お客さんの思いに寄り添い、同じまちに共に暮らす人間として付き合う、そこにまちゼミの素晴らしさがあるんですね」(宮川さん) 「いまは商店街が好きになったし、このまちが改めて好きになった」と語る宮川さんの表情には、かつて義務感、使命感だけに突き動かされていた以前には見られなかった穏やかな笑顔にあふれていた。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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