本日は、日本商工会議所第122回通常会員総会を、各政党のご来賓の皆さま、また、全国各地の商工会議所から、多数の皆さまにご出席いただき、盛大に開催することができ、誠にありがとうございます。
まずもって、先週の台風に伴う記録的な豪雨により災害に見舞われた、茨城県、栃木県、宮城県をはじめとする、各地の被災者ならびに被災地の皆さま方に、心からお見舞い申し上げます。
わが国は、20年にわたる「供給過剰・デフレ」の状態から、「供給不足・インフレ」に移る「変わり目」の時期にあります。 アベノミクスの第一の矢、第二の矢は、円安による輸出増、株高による所得効果の発生、それによる消費需要創出、大規模な財政支出による需要増加など、需要創造政策でした。これにより、企業収益も大きく改善されましたが、最も大きな効果は、需給ギャップが解消されたことです。
また副次的な効果として、国民・経済界が将来に対して明るい展望を持てるようになったことも大きな点です。
サプライサイドの政策を
ただし、第一の矢も第二の矢も永続的な政策ではなく、ある意味では時間を稼ぐ政策と言えます。わが国は、いよいよ日本の潜在成長率を高めるための本質的な政策、すなわちサプライサイドの成長政策を遂行すべき局面に直面しています。
サプライサイドの政策は、需要創造政策に比べて、その実行にさまざまな困難が伴い、成果もすぐには出ません。 その理由の一つは、第一の矢、第二の矢は政府・日銀が主役でしたが、サプライサイド政策の実行の主体は民間であり、民間が将来に確信を持って設備投資などを実行しないと効果が上がらないことです。
第二の理由は、サプライサイド政策は、国全体の効率化・生産性向上を図る政策であり、一部の人には痛みを伴うものであり、利害の調整という政治本来の役割が必要となります。規制改革やTPPなどのレベルの高い通商協定などが例として挙げられますが、いずれも効果を上げるためには、時間と労力が必要となります。
第一の点に関しては、一番重要なのは、経営者のマインドがデフレ時に妥当とされた企業行動から、インフレ時に妥当とされる企業行動へと移行できるか、すなわち貯蓄主体から投資主体に素早く転換できるかということであります。
この点について、私は、ようやくそうした動きがでてきたと見ています。例えば、設備投資については、明るい指標が見られています。日本政策投資銀行の調査では、大企業の2015年度の国内設備投資額(全産業)は13・9%増と4年連続の増加となりました。好調な業績に支えられ、老朽更新投資だけでなく、能力増などの成長分野への投資が期待される状況となっています。
また、商工会議所の調査では、設備投資を行う中小企業(全産業)は約4割と前年と同水準であるものの、見送る企業は10%近く減少しており、回復の兆しが出ています。
企業の利益は過去最高水準に達し、これまで蓄積した内部留保を活用すれば、さまざまな目的の投資を実行できる資金的な余裕も生まれています。大企業、中小企業ともに、設備投資増に向けたより強い動きが出てくることを期待したいと思います。
他方、輸出は、為替水準がここまで円安になったにもかかわらず、量も金額も思ったようには増加していません。この点に関して、私は、超円高時の対応として、生産の海外移転を加速化させた結果、輸出するための国内生産能力が不足しているのではないかとの仮説を持っています。
わが国は先進国の中でも輸出比率が極めて低く、内需主導で成長してきましたが、今後の人口減少を踏まえると、外需の捕捉が不可欠です。
そのためには、国内設備投資により供給能力を高め、輸出競争力を強化していくことが重要となります。
また、人手不足に対処する省力化投資も不可欠となっています。人手不足は業種を超えて大きな課題となっていますが、大企業よりも中小企業・小規模事業者の方がより深刻です。商工会議所が6月に行った調査によれば、中小企業の約5割が人手不足の状態にあると回答しています。
人手不足への対応については、女性や高齢者など多様な人材の労働市場への参画を促進するとともに、あらゆる業種で、中小企業・小規模事業者が自ら生産性の向上を実現していかなければなりません。
政府はこうした民間の活動を力強く後押しすることが重要です。われわれを取り囲んでいた六重苦、すなわち、超円高、法人税の高さ、電力価格の高騰、自由貿易協定の遅れ、労働規制の硬直性、環境規制の厳しさのうち、電力価格と自由貿易協定以外は着実に前進し、自由貿易協定もTPP交渉はあと一歩というところまでこぎ着けています。
電力価格に関しては、停止していた原子力発電所がようやく再稼働しましたが、他の原子力発電所の審査が迅速に進み、安全が確認された原子力発電の順次速やかな運転再開により、わが国全体で安価で安定的なエネルギー供給の実現を期待したいと思います。
地方版総合戦略策定に協力
明るい兆候が見えつつある一方で、わが国は「人口急減」と「地方の疲弊」という大きな問題を抱えています。各地域を訪問し、商工会議所の会頭の皆さま方と議論すると、いかに人口減少に対する危機感が高いかを痛感します。
私は、去る3月の本会員総会において、地方創生は大変困難な課題であるが、しかし何としても解決しなければならないことを強調して申し上げました。
そして、「地方の疲弊」と「人口減少」は、いずれも長い時間をかけてこれだけ深刻な状況に立ち至ったことから、その解決に当たっては、早期の成果を求めず、一貫した政策をもってじっくり粘り強く、時間をかけて取り組む覚悟が必要であることが重要であると訴えました。
各自治体では、本年度中に、産官学金労言が連携して知恵を絞り、「地方版総合戦略」を策定することとなっています。高知県や会津若松市など既に策定を終えた地域もありますが、政府調査では、約4割(773市町村)が、10月までに策定予定です。
各地においては、商工会議所側が戦略や要望を作成し、自治体に提出したり、会頭が県や市の戦略策定会合に会長や委員などとして参画するなど、戦略策定に主体的に協力いただいております。中には、近江八幡商工会議所(滋賀県)のように、市と共同でまち・ひと・しごと市民会議事務局を設置して取り組む腰の据わった地域もあり、心強い限りであります。
他方で、いくつかの自治体では、コンサルタントに頼ったり、既存の地域総合計画の手直しにとどまるものが散見され、これでは、地域の将来をデザインし、創生することはできないものと危惧されます。
去る6月には、「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」が取りまとめられ、地方創生に向けた基本方針のほか、地方への新しい人の流れをつくるための地方移住支援や、地方に仕事を作るための観光や農林水産業を強化するための新しい仕組みなどが具体的に打ち出されました。
地方移住については、去る5月に、石破大臣の呼び掛けで、地方居住への機運を醸成し、地方への人の新しい流れをつくることを目的に、「そうだ、地方で暮らそう!」国民会議が設置され、私が議長に就任しました。
現在、政府から、各都道府県レベルでも国民会議を立ち上げるよう要請がなされていますが、地方への人の新しい流れをつくるためには、仕事づくりはもとより、東京と地方間、都市と農村間、同一経済圏内、また、その中での多くの関係者が連携・交流して取り組むことが鍵であり、全国にネットワークを持つ商工会議所が果たすべき役割は極めて大きいと言えます。自治体から参画の呼び掛けがあった場合には、積極的な協力をお願いしたいと思います。
インバウンド効果を各地に
観光振興も、地方創生の切り札としてその重要性を申し上げてきました。去る7月の訪日外国人客数は、単月として過去最高の約192万人に達し、本年1月から7月の累計は1106万人に達しました。この勢いが続けば、今年のインバウンドは1800万人どころか1900万人を突破するかもしれません。
しかし、残念ながら、東京、大阪をはじめとするゴールデンルートや、福岡、札幌などの主要都市以外の多くの地域では、インバウンドとそれに伴う観光消費の拡大という恩恵に浴していないというのが実態です。インバウンドの効果を広く各地に行き渡らせることが必要です。
すでに、全商工会議所に配置いただいている観光担当のネットワークが動き出しています。その活動成果の一つとして、例えば、北陸新幹線開業を契機に、京都・大阪・神戸および富山・金沢・福井の6商工会議所が、「北陸・関西連携会議」を立ち上げ、広域観光ルートづくりや相互プロモーションなど、広域連携に乗り出しています。
また、旭川市や岡山市では、商店街と大型店との連携に基づき、免税手続き一括カウンターを設置しています。各地においても、行政単位に縛られることなく、創意工夫によって、広域での観光振興に積極的に取り組んでいただきたいと思います。日本商工会議所においても、地方創生につながる制度改正に向けて取り組みを強化してまいります。
震災復興と福島再生も、商工会議所にとって今後も継続的に取り組まなければならない課題です。東日本大震災から4年半が経過し、被災地では復旧・復興が進みつつあるものの、事業を再開しても販路が確保できず、震災前の売上を回復できない事業者が依然として多いのが実情です。
また、福島県においては、根強い風評被害により、本格的な事業再開さえままならない状況です。日本全体では震災前に比べて約5割強増加している外国人旅行者も、逆に約5割減のままという状況です。
東北六県商工会議所連合会では、被災企業のための展示商談会を継続的に実施しています。日本商工会議所としても、全国の商工会議所や関係団体の協力を得て、商談会へのバイヤーや専門家の派遣などを支援していく所存です。また、東北地方での各種会議の開催により、訪問者の拡大を図っていますが、各地におかれましても、修学旅行の勧奨をはじめ、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。
2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会も、全国各地の観光資源や中小企業のものづくり技術などの情報を世界に発信する絶好の機会です。東京一極集中の是正が求められる中、2020年の大会は、地域に大きな波及効果がなければ成功とは言えません。
大会を契機として、地域経済の再生に資するレガシーを具体的に残すことを、各地で行っていくことが必要です。日本商工会議所としても、大会をショーケースとし、各地の創意ある取り組みと連携して、特産品、食、伝統、文化、そして観光資源を、海外へ戦略的にPRしていく仕組みを政府とともに構築していく所存です。
以上、所信の一端を申し述べました。成長の担い手、地域創生の主役はわれわれ、民間自身であります。目の前の課題の克服がいかに困難を極めるものであっても、前に進んでいかなければ、明るい未来は開けません。日本商工会議所は、全国の商工会議所のネットワークを最大限活用して、皆さまの活動を全力で後押ししてまいります。多大なるご支援、ご協力をお願いして私のあいさつとします。
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