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テーマ別企業事例 新型コロナに打ち克つ!中小企業の突破力[ものづくり企業編]

事例2 老舗酒造がコロナ禍にいち早く対応し消毒用アルコールを医療機関向けに提供

若鶴酒造(富山県砺波市)

文久2(1862)年に加賀藩の免許を受け創業した若鶴酒造は、創業以来つくり続ける日本酒「若鶴」で知られる老舗。その一方で、戦後間もない昭和27(1952)年にウイスキー製造を開始するなど、進取の気性に富む企業でもある。コロナ禍でもいち早く対応し、医療機関などで不足していた手指用消毒薬の代替品としてアルコール度数77%の高濃度エタノール「砺波野(となみの)スピリット77」を製造し、4月13日には出荷を開始した。

大正11(1922)年に建てられた大正蔵では、越後杜氏による酒づくりが行われていた

社会の役に立つために自社ができることは何か

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で日本酒の消費量が大きく減少し、酒造や酒屋、飲食店がかつてないほどの苦境に立たされている。老舗として知名度が高くブランド力もある若鶴酒造でも、その影響を大きく受けた。

「弊社では今年3月後半から関東圏への出荷が少なくなり、続けて地元でも、富山駅にある直営店が休業を余儀なくされました。緊急事態宣言が発令された4月以降は、大都市圏をはじめ、富山県内の飲食店も影響を受けるようになり、極端な販売不振になりました。主力の日本酒の出荷は、4・5月は前年同月比4割近くにまで落ち込み、やや回復した6・7月も前年同月比7割前後と、現在も先が見通せない状態が続いています」と、若鶴酒造取締役の稲垣貴彦さん。緊急事態宣言が出た4月初めには関東圏担当の販売社員を一時帰郷させて自宅待機にすると、その後は本社販売部をはじめ全社において社員の休業・在宅勤務制度を導入した。

そのような状況のなか稲垣さんは、医療機関や介護施設などでは消毒液が不足して困っているという声を多く聞くようになっていた。

「その訴えを耳にし、酒造として何かできることがないか考えました。当社には日本酒をつくる上で必要なアルコールの在庫があり、それを入れる容器にボトリング設備、供給網も持っています。これらを生かして手指の消毒用として使える高濃度のアルコールを開発・供給し、少しでも社会のお役に立てればとの思いから、『砺波野スピリット77』は生まれました」

しかしそこには、三つの大きな問題があった。

さまざまな課題を乗り越え製造にこぎつける

その大きな問題の一つが、薬機法(旧・薬事法)だった。

「これは効果や効能を表記するには医薬品や医薬部外品でなければならないという規制で、医薬品は認可を受けた工場でなければ生産ができませんでした」(稲垣さん)

もう一つの問題が消防法で、当時、厚生労働省からコロナウイルスの消毒のためにはアルコール度数の範囲は70%から83%という通達が出ていたが、これは消防法では危険物とされる度数だった。

「『砺波野スピリット77』は消防法では危険物に該当します。そのため防爆仕様のポンプや耐火設備が必要で、通常のボトリングラインでは製造ができませんでした」

そして三つめが酒税法で、飲用アルコールには酒税がかかり、アルコールが高濃度になるほど高額な酒税がかかってくる。

「アルコールを大量に必要としている医療機関にとって、その負担は大きい。また、弊社はスピリッツ(蒸留酒類の一つ)の製造免許を保有していますが、昔の免許のため、アルコール度数の上限が45%までに制限されていました」

事態は一刻を争う。社内でプロジェクトチームを組み、供給の妨げになる障壁を洗い出して柔軟に対応し、稲垣さん自身は関係当局と相談しながら、製造にこぎ着けた。しかし、消防法で危険物とならない80ℓ未満しか1日の製造が認められず、雀の涙ほどしか供給できなかった。

「そこで、これらの課題をホームページで公開したところ、大きな反響を呼び、少しずつですが国を動かすことができました」

その後は消防庁・国税庁・厚労省ともこれまでの規制を緩和していき、消毒用アルコールの製造も全国の酒造会社に広がっていった。

今後は経営計画を見直し新たな販売チャネルを強化

「『砺波野スピリット77』の反響はものすごく、発売日前日から留守番電話(2時間録音可能)はパンクし、社員が出社した時は4回線ある外線電話が鳴りっぱなしでした。おかげさまで医療関係の皆さまからは感謝のお手紙や電話などをたくさんいただき、新聞やテレビにも取り上げられ、多くの励ましの言葉をいただきました。その知らせを聞くたび、我々は頑張るぞという気持ちになりました」と稲垣さんは力を込めて語る。

その後も若鶴酒造では、日々変化する国などからの最新情報を自社ホームページに集積し、SNSなどで発信していった。また、一日の製造量が限られることから、特定の酒造に問い合わせが集中しないように、全国各地の高濃度エタノールを製造する酒造会社と協力して、供給可能な会社を地図上にまとめてホームページにアップし、医療機関などがより近くの酒造会社に問い合わせられるようにもした。また、富山県内ではボトリング設備、瓶資材が限られることから、自社の原料アルコールを県内酒造メーカーの桝田酒造店に供給し、同店では「岩瀬野スピリット66」として商品化されている。

「今後は、コロナ以前の状態に戻ることは当面ないと判断し、経営計画を見直し、適正な製造量と家飲みを意識した販売チャンネル(スーパーなど)の強化、さらにオンラインを活用した販売(ショッピングサイト)やイベントのライブ発信にも取り組み、リモートワークやインターネットを使用した会議・商談を職場に取り入れていくべく施策を考えております」

コロナ禍で困っている人のために、自社ができることは何かを考え、さまざまな困難を乗り越えてきた若鶴酒造。今後の荒波も、創業150有余年の歴史で培ってきたスピリットで乗り越えていく。

会社データ

社名:若鶴酒造株式会社(わかつるしゅぞう)

所在地:富山県砺波市三郎丸208

電話:0763-32-3032

HP:https://www.wakatsuru.co.jp/

代表者:小杉康夫 代表取締役社長

従業員:46人(他冬期間、蔵人など3人)

※月刊石垣2020年10月号に掲載された記事です。

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