事例3 ものづくりに対する機動力、総合力で感染症予防商品を次々と開発
信菱電機(長野県飯田市)
1974年の創業以来、三菱電機の協力企業として主に家電製品を手掛けてきた信菱電機は、高度な技術と生産システムで、新型コロナウイルス感染症予防商品を次々に開発・販売している。医療機関や飲食店などの対面業務が生じる事業所を中心に販路を広げ、今や第4の基幹事業になり得る勢いとなった。
強みはスピードと品質 一貫生産でニーズに即応
信菱電機が手掛ける製品は多岐にわたる。主力の家電製品は、プロペラ式の換気扇やダクト換気扇、浴室換気乾燥機やサーキュレーターなど、OEM生産が主軸だ。コンビニエンスストアに据えられているゴミ箱や店頭看板なども同社でつくっており、レジ前や銀行ATMの手前にある荷物が置けるカウンターは同社の開発製品で、身近なところで多種多様な〝技〟が生かされている。
「私の父が1963年に、愛知県名古屋市東区の自宅物置を作業所に改装して千栄工業を設立したのが当社の始まりです。以降、事業拡大に伴い72年に同小牧市に現在グループ会社となっている栄和産業を設立、74年に恵那山トンネルの開通を機に、長野県飯田市に戻って信菱電機を設立し、以来、飯田を主力に事業を展開しています。当時はダクト換気扇の組み立てがメインでしたが、今では家電関係の企画・設計から部材調達、製造、出荷までの一貫生産体制を確立。今年7月には延床面積558坪の最新自動設備とIoTでシステム化した新工場『スマートファクトリー2』が完成しました。激変する市場ニーズに柔軟に対応できるように生産能力を高めています」と代表取締役社長の川手清彦さん。従来の工場も順次スマート化を進める予定だと目を輝かせながら語る。
三菱電機の協力企業として実績をあげ、現在は家電事業のほかに、釣り用品やコンビニ用品などの用品事業、自動車内装品やエレベーター用表示パネルなどのプラスチック事業があり、基幹事業は三つに拡大している。そんな同社が日本メーカーの海外進出や中国の台頭などグローバル化する時代の中、国内生産で成長し続けている理由の一つに、CIM(コンピューター・インテグレーテッド・マニュファクチャー)と呼ばれるコンピューターで総合的にコントロールする生産システムがある。89年からCIMによる換気扇製造が可能となり、ほかの工場なら40日かかるところを1週間で製造・納入し、さらに高品質、低騒音、省エネなどの商品価値を高めていった。
「海外製品や海外の工場では決して真似できない生産体制です。もちろんJIS規格もクリアしています。速さと品質に注力した生産体制を整えたことで、リーマンショック時にも新規の取引先が増えたほどです」と川手さん。
逆境に強い生産体制を構築してきた信菱電機は、技術の蓄積と国内生産回帰の強みにより、今回のコロナ禍でも受注量が増え実力を発揮した。
感染予防商品のオファーに柔軟に対応
長野県内の感染拡大が懸念されつつあった4月半ば、飯田市から医療機関の感染予防商品ができないだろうかとオファーが入る。二つ返事で承諾した川手さんは、1週間ほどの短期間で「顔面シールドSE」というフェイスシールドを開発、量産。さらに5月には飲食店のテーブルやオフィスのデスク間を仕切る「カウンターバイザー」に着手し、6月には受注生産を始めた。
「他社に頼めば1カ月かかるところをうちでは10日でできます。これが可能なのはプラスチック事業の一貫生産体制と国内での部材調達ネットワーク・自社商品開発力による短納期・低コスト生産が可能だったからです」と川手さんは胸を張る。
さらに減便、運休を余儀なくされている航空会社やバス会社からのオファーにより、座席間を仕切る「シートバイザー」を開発する。最初に開発した「顔面シールドSE」は、長野県知事より「長野県信州ベンチャー開発認定品」に選ばれ、さらに飯田市新しい生活様式定着支援補助金の対象製品として、未解決の社会ニーズに対応する事業としての機運が高まっていった。
軸足は販路拡大ではなく地域貢献や価値の共有にあり
このように感染症予防対策事業が家電事業、用品事業、プラスチック事業に次ぐ、第4の事業へと発展しそうな勢いの同社。川手さんは社会や地域が求めているならと、さらなる商品の企画開発に前向きだが、事業拡大は望んでいないと強調する。
「フェイスシールドでネット検索すれば、たくさんの商品がヒットし、うちよりも安い廉価品もたくさんあります。さらにクリアファイルを使った手づくりフェイスシールドのつくり方を紹介するサイトもあるほどです。価格競争に勝ち抜くことや感染症予防商品の販路拡大が目的ではなく、商品の価値が分かる人、本当に必要としている人の手元に届けることを主眼に置いています」
実際、フェイスシールドもカウンターバイザーも、緊急事態宣言が解除された後に、ネットではなく口コミで飲食店や学校関係者から依頼があったという。飯田商工会議所や南信州・飯田産業センターを通じて、地元飯田市を中心に南信州エリアに限定することで、低迷する地域経済の活性化に貢献する狙いだ。
地域企業として、地域産業を守り、地域の価値を上げていく。そんな循環型企業として、この先のアフターコロナの世界を見据え、国内生産、社内一貫生産体制に磨きをかける。
会社データ
社名:信菱電機株式会社(しんりょうでんき)
所在地:長野県飯田市久米29-4
電話:0265-25-7676
代表者:川手清彦 代表取締役社長
従業員:350人
※月刊石垣2020年10月号に掲載された記事です。
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