米国のトランプ大統領とメディアの対立が先鋭化している。昨年の大統領選を巡る「ロシアゲート疑惑」は司法省が特別検察官を任命する事態に発展したが、既存メディアを否定しトランプ氏を支持した有権者は「報道の方がフェイクニュースだ」と当面、言い張る可能性が強い。
▼リーマンショックに至る過程を振り返ると、危機のきっかけを作ったサブプライムローンの問題点に警鐘を鳴らした報道は少なかった。借金を抱え住宅を手放した消費者が数多くいた一方で、ウォール街の大手金融機関は大半が存続し、政権やメディアに対する不信感が募る結果につながった。日本でも記事を通じて結果的にバブル経済をあおったことを、公式の立場で反省した報道機関は皆無だろう。
▼今春、就職活動中の学生に会った際、彼が印象深い言葉を語っていた。「事実報道の中に、新聞社の主張が混じっている記事が多いように思いますが、あれでは読む気を失います」。マスコミの世界に身を置く者にとって、耳が痛くなるような厳しい指摘である。主張したいことがあるのならば、論説や解説で取り上げるべきだとこの学生は言っていた。
▼ある報道を巡って「角度をつけた記事」、つまり一定の方向性を持たせた記事に対する批判が高まったが、最近ではまた、そうしたものが増えているように感じる。取材源を明らかにしない「関係者」という表現も頻繁に目にする。「匿名ならニュースにしても良い」と取材先が言ったとしても「関係者の証言」では今や読者が納得しない。事実と主張を混在させた記事を垂れ流すのではなく、明確な根拠を示した報道が結局、読者のニュース離れを防ぐことにつながると考えている。
(時事通信社取締役・中村恒夫)
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