1997年に内装工事業で創業後、Webショップでの壁紙販売という新事業を開拓したフィル。そんな同社が今年6月に発売したのが、はがせるパッチワーク壁紙「Hattan(ハッタン)」だ。技術や道具がなくても誰でも簡単に貼れて、部屋の印象をガラリ変えてくれると、主に女性から支持を受けて売れ行きを伸ばしている。
「のり付きの壁紙」をインターネットで売りたい
DIYの好きな一部の人を除いて、壁紙を貼り替えるとしたらプロに依頼するだろう。幅も長さもある壁紙にのりを付けるには、それなりの広さの作業スペースが必要だし、専門の道具もいる。仮にそれらがあっても、天井から床まで真っすぐ貼り合わせるには相応の技術がなければならない。
そんな既成概念を打ち破るのが、フィルが開発した、はがせるパッチワーク壁紙「Hattan」だ。45㎝の正方形サイズの壁紙6枚と、貼ったりはがしたりできる粉のりがセットになった商品で、水に溶かしたのりに壁紙を浸し、軽く絞って壁に貼るだけで完成する。もともと違う柄を組み合わせてあるため、柄合わせをする必要もなく、パッチワーク感覚で楽しめる。
「むしろ少し曲がっていたり、端が重なっているのも味わい。ランダムに配置しても、小さくカットしてもいい。『好きに貼ってね』というのが最大の特徴です」と商品について語るのは、同社社長で開発者でもある濱本廣一さんだ。
23歳で独立して内装の個人事業を始めた濱本さんが、同商品のアイデアを思い付いたのは、とある施工現場だった。
「たまたま一緒になった電気工事の職人から、唐突に『その壁紙にのりを付けて売ってくれへん?』と言われたんですよ。『こんなものが売れるのか?』と驚きました」
それをきっかけに壁紙販売を思い立ったのが1999年。ネットで販売したいと2000年に法人化し、その翌年、Webショップ「壁紙屋本舗」をオープンした。
封筒で送れるサイズありきで商品開発をスタート
最初に扱ったのは、一般的な92㎝幅の白い壁紙だ。専用の機械でのり付けし、乾かないようにフィルムで覆う。それを再びロール状に巻いて、お客さまの希望する長さにカットしたものを郵送するしくみだ。
「当時は、自分で壁紙を貼ろうと考える人は少数派でした。でも、壁紙を替えると生活空間の印象はガラッと変わります。壁紙で暮らしをもっと楽しんでほしいという思いで、扱う壁紙の種類を増やし、11年には輸入壁紙を専門に扱うWebショップ『WALPA』をオープンしました」
近年では、「壁紙が選べるマンション」や「DIYでカスタマイズ可能な賃貸住宅」なども登場し、壁紙に興味を持つ人が増えている。そんな同社にとっての追い風に水を差したのが、配送料の高騰だ。のり付けされた壁紙はかさばるし重い。利益を出すにはコンパクト化が不可避となり、「折り畳んでメール便で送れるサイズ」ありきで開発に乗り出したのがHattanである。
まず取り組んだのは、畳める素材探しだ。折りジワが付きにくく、プリントもしやすいものは何か。紙や布などさまざまな素材で試した結果、たどり着いたのは不織布だった。
「不織布には、水分を含んでもほとんど伸びないものから、1・5倍くらいに伸びてしまうものまでいろいろあります。その中から、のりの水分を含んだ際に折りジワはきれいに伸びて、柄が変形するほどは伸びないものを見つけるのが大変でした」
その実験方法が洒落ている。社員総出で、不織布が使われたフェースパックを実際に顔に付け、片っ端から試してみたのだという。そうして濱本さんが求める絶妙な伸縮性を持つ素材を見出した。
次はサイズだ。当初は通常の壁紙と同じ92㎝幅のロールで試作したが、扱いにくかったため幅を狭くした。ところが、ロールが長くなるほど自重で伸び、柄が変わってしまうため、思い切って長さもカットすることにした。
「どうせなら既製サイズにこだわらず、素人でも貼りやすい形がいいと、45㎝の正方形に決めました。粉のりも不織布と相性が良く、木、鉄、石、コンクリートなど多様な壁材や凹凸のある壁面にも貼れるものを厳選するため、1年半くらい、貼ってははがし貼ってははがしのテストを繰り返しました」
最後に、組み合わせると引き立つ柄を約400種類の中から6枚選び出して1セットにし、20年6月、第1弾となるレトロポップなデザインの「Hattan Vintage」の販売を開始した。
「こんなの誰が買うねん」という柄こそ買ってほしい
当初は、社員がSNSを通じて商品情報を発信する程度だったが、反響は予想以上だった。メイン購買層は30~40代の女性で、試しに1セット買ってみて「思ったより簡単でかわいい!」とリピート買いするパターンが多いという。そんな口コミがSNSで広がるにつれて売れ行きも伸びていき、テレビの情報番組に取り上げられると一気に火が付く。次々とシリーズ商品を追加してきたことも奏功して、累計販売数が約3万枚を数えるまでになった。今後も海外のデザイナーとコラボするなどして、柄を増やしていく予定だという。
今後の展望を聞くと、「当社の商品は、基本的に大量生産ではなく受注生産。少々コストは掛かりますが、ほかの誰かと同じ柄を使うことをユーザーは好みません。そんなニーズに応えながら、『これは売れんやろ』『こんなの誰が買うねん』という柄を買ってくれる人が増えてくれたら、という思いでやっていきたい」と豪快に笑った。
会社データ
社名:株式会社フィル
所在地:大阪府大阪市大正区小林西1-15-12
電話:06-6537-7121
HP:https://kabegamiyahonpo.com/
代表者:濱本廣一 代表
設立:2000年
従業員:86人
※月刊石垣2020年12月号に掲載された記事です。
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