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テーマ別企業事例 3K産業から最先端の環境産業へ 環境ビジネスの最前線

事例3 日本最大の繊維産地・尾州発再生羊毛ブランドで起死回生を狙う

大鹿(愛知県一宮市)

衣類の大量生産、大量消費が、深刻な大量廃棄を生み出している。それを改善するべく欧米がリサイクル、リユースへ舵(かじ)を切り始めた。その最中、勢いづいているのが、リサイクルウールという言葉が生まれる前から、羊毛再生の文化を育んできた日本最大の繊維産地、尾州(愛知県一宮市)だ。時代の追い風が今、この地に吹いている。

一宮市内にある木玉毛織の敷地内にある「尾州のカレント」の新見本工場。尾州産地の新たな拠点として2020年11月に誕生

環境を考慮しないとパリコレでは通用しない

衣類の廃棄問題は世界的にも深刻な課題だ。特に日本は再利用率が低く、廃棄される量は年間約100万t(独立行政法人中小企業基盤整備機構調べ)といわれている。この状況にアパレル業界も手をこまねいているわけではない。近年、アウトドアブランドを筆頭に、サスティナブル(持続可能)な衣類の開発が進んでいる。

「最近は最新ファッションにプラスアルファとして『環境』が求められる傾向が顕著です。そのいい例がパリコレ(パリ・コレクション)。今では環境を考慮した配慮がパリコレなどの展示会でも評価の位置づけが非常に高くなっています。そのため国内外のアパレルメーカー、デザイナーの意識も大きく変わりつつあって、自社の再生羊毛ブランドの『毛七(けしち)』への問い合わせが増えています」

そう語るのは毛七を立ち上げた大鹿の繊維製品製造部の彦坂雄大さんだ。2015年に入社し、18年からコートブランド「blanket」やウールカットソーブランド「糸と色」など、自社ブランドを次々に立ち上げてきた同社のキーパーソンだ。

大鹿は大正11(1922)年創業の毛織物卸商で、軍服特需で急成長し、繊維製品物流や不動産事業も手掛け、手堅い事業展開で基盤を固めてきた。日本最大の繊維産地、尾州(愛知県一宮市)を拠点とする大鹿に、セレクトショップの販売員だった彦坂さんの入社は異例中の異例だ。

「転職のきっかけは、業界に限界を感じたことと、尾州産地の高品質の生地に魅せられたことにあります。洋服を売っていても、生地については一から学んでいく状況でした」

27歳で主任にまで上り詰めたキャリアを捨て、勢い弱まる日本の繊維産業に飛び込む。その原動力に、尾州は製糸、織物、縫製などの数ある工程が同じ地域に集積し、ワンストップでものづくりができる環境があった。さらに、この地にしかない加工技術は、高級アパレルブランドのバイヤーが足を運ぶほど。世界有数の繊維産地のテキスタイル力に、伸び代ありと感じ取った。

マイナスイメージの業界用語をブランド名に

そんなある日、提携しているOEMメーカーから相談を受ける。アウトドアブランドからリサイクルウールを使った縫製の依頼があったというのだ。尾州産地には着古した服を繊維に戻し、再利用する羊毛再生の文化と歴史がある。大鹿も再生羊毛歴40年以上の職人を採用し、15年前から事業化している。独自の生地ブランドとして発信できないかと、彦坂さんの嗅覚が働いた。

「羊毛70%の生地を業界用語で毛七といいます。業界では安物というマイナスイメージがついてまわる言葉で、業界から一歩出れば、ネットで検索してもヒットしない馴染みのない言葉です。これに勝機を感じて再生羊毛のブランド名に毛七を提案したのですが、周りの人全員から反対されました」と彦坂さんは苦笑する。

理解してもらうには形で見せるしかないと、翌日には社長に直談判してデザイン性の高いカタログの制作をスタートさせ、初回2000部刷ってブランドとしての〝毛七〟の魅力を可視化。販促ツールとして社内外で高く評価され、「反対」の声が消えていった。

「古着や縫製工場の裁断クズ、紡績工場の落ちわたなど、不要になった羊毛繊維が全国各地から尾州産地に集まってきます。これらはゴミではなく原料です。過度に色染めしなくても再利用できるように、手作業で色分けし、糸や生地をほぐしてわた状にして少量の化学繊維を絶妙な割合でブレンドします。環境への負荷が少なく、毛100%にはない風合いと強度がある。毛七は自社の誇れる生地ブランドになりました」

時代の追い風に乗って再生羊毛の新時代を築く

だが、尾州もまた、他の繊維産地同様に不景気や高齢化による低迷は否めない。熟練の職人が引退し、工場が閉鎖されていく中、彦坂さんは会社の枠を超えた連携の必要性を感じて、繊維会社の若手社員を中心とした産地活性化サークル「尾州のカレント」を結成する。2020年11月、同業の木玉毛織の敷地内に新見本工場を開設し、各社のブランドの展示や商談のスペースを確保し、尾州の情報発信拠点とした。毛七を織る貴重な旧式の織機もここにあり、バイヤーやデザイナーが見学に来る日も少なくない。今年1月には一宮市と一宮商工会議所主催の尾州毛織ツアーに組み込まれるなど、地元でも注目を集めている。

毛七のサンプルがズラリと展示され、生地の魅力に加えて彦坂さんの接客販売で培ったPR力で、毛七のブランドストーリーが熱く語られる。商談が成立すれば年単位での生地づくりが始まるため、コミュニケーション力もブランド推進には欠かせないスキルだ。

「前職の経験が生かせているか分かりませんが、失敗が許されないものづくりにやりがいしかないです。最近は、あえてリサイクル生地っぽくしてほしいというオファーもあって時代の波を感じます」

だからこそ、熟練の職人や最新機器にはない魅力をもつ旧式の織機など、尾州文化が残っている今がラストチャンスだと彦坂さんは言う。再生羊毛をきっかけに尾州産地が再び脚光を浴びる、新時代の幕はすでに開きつつあるようだ。

会社データ

社名:大鹿株式会社(おおしか)

所在地:愛知県一宮市栄3-6-7

電話:0586-73-5131

HP:https://www.keshichi-138.jp/

代表者:大鹿 晃裕

従業員:20人

※月刊石垣2021年2月号に掲載された記事です。

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