環境・リサイクルビジネスは、古くは産業廃棄物処理業と呼ばれる3K産業の代表格だったが、今や国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にも通じる最先端の環境産業として注目を集めている。さらに今夏開催予定の東京五輪のメダルも“都市鉱山”と呼ばれる携帯電話やIT機器の廃品をリサイクルしてつくられている。いわば、新たな環境産業、産業部品の供給産業と変貌していく環境・リサイクルビジネスの最前線をリポートする。
事例1 泥土を捨てずに再資源化し低コストで宝物に変える
森環境技術研究所(山形県新庄市)
森環境技術研究所は、従来は盛土には不適とされてきた泥土の再資源化の研究に取り組み、繊維質系泥土改良材「ボンファイバー」を開発。それまでは廃棄されていた泥土に添加することで、低コストで耐震性・耐久性に優れた高機能地盤材料に再資源化する「ボンテラン工法」を開発した。東日本大震災前に泥土を原材料として本工法により築造された堤防が 決壊を免れたことからその有効性が実証され、その大震災で発生した膨大な津波堆積物(ヘドロ)の有効活用に大きく貢献した。
震災で有効性が証明された「ボンテラン工法」
ボンテラン工法は、森環境技術研究所社長の森雅人さんが、東北大学大学院の高橋弘教授と共同で開発した。「ボンテラン」の名称は、フランス語で良いという意味の「ボン」と、地盤を意味する「テラン」から付けられている。このボンテラン工法の有用性が大きく注目されたのが、2011年に発生した東日本大震災に起因するある現場だった。
福島県の阿武隈川にある遊水地の堤防が、ほとんどの部分で液状化現象により決壊した一方、全長約3㎞の堤防のうち100m部分だけが決壊を免れていた。損傷部分は従来材料である砂質土を使って施工されていたが、決壊を免れた堤防は遊水地にたまった泥土を原材料として、ボンテラン工法で築造された堤防だった。このときのことについて森さんはこう語る。
「それまでは地盤の専門家の間でも、泥土なんて堤防の材料には使えないと言われていたのですが、このことで地震対策用地盤材料としての有効性が実証され、国土交通省から東日本大震災で効果を発揮した5工法の一つに選定されました。私たちがそれまで主張してきた、泥土は捨てるだけではなく使うという選択肢もあるということが分かってもらえたのです」
これにより、ボンテラン工法は震災で損傷した河川堤防の復旧工事で数多く採用された。震災後、川底は大量の津波堆積物(ヘドロ)で埋めつくされ、早急に堆積物を取り除き、堤防のかさ上げを行う必要があった。ボンテラン工法は、堤防を築造するために必要な土砂を購入する必要がないため、低コストで、工期も短縮可能となる。「泥土は捨てるものだという人がいますが、私は宝物だと思っています」と、森さんは力を込める。
その後、ボンテラン工法は河川工事やため池工事で多く使われるようになり、これまでに東北地方を中心に全国で400件以上の施工実績を誇っている。
これまで捨てていた泥土に古紙を混ぜて再利用する
森さんが泥土の再資源化の研究を始めたのは、大学卒業後に地元の建築会社に勤務していた時に、土木現場で発生する泥土の扱いに苦労したからだった。泥土は水分を多量に含んでいるため、地盤材料として再利用することができず、新たに土砂を購入することが前提となっていた。また、泥土を廃棄するにはバキューム車で運搬するか、脱水機を通してから運搬する必要があり、コスト負担が問題となり、不法投棄が全国各地で看過できない状況になっていた。そこで、発生した泥土を地盤材料に再資源化して、現場で有効活用できないかと考えたのだ。
「社内で約6年、研究に取り組みましたが、社内体制が変わったことで研究の継続が難しくなり退社。その後、東北大学大学院環境科学研究科の博士課程の入学試験に合格し、高橋弘教授の指導を受け研究を継続しました」
その結果、開発に成功したのが、古紙破砕物からつくった繊維質系泥土改良材の「ボンファイバー」である。泥土にボンファイバーとセメント系固化材を添加することで、ボンファイバーの繊維質が土粒子と複雑に絡み合って高機能地盤材料として、人工築堤土に再資源化できるようになった。しかも、普通の土砂と比べ、耐久性や耐侵食性に優れ、クラック(亀裂やひび割れ)も発生しない。
浚渫(しゅんせつ)された泥土を原材料として、高機能地盤材料に再資源化することにより、良質土の購入と泥土処分が不要となり、環境負荷は低減され経済性が向上する。
森さんは2000年8月に森環境技術研究所を設立し、研究を続けた。これらの研究成果は88編の共同研究論文として各学会に発表され、さらに特許7件が登録された。このことにより、07年に東北大学より博士(環境科学)の学位を授与された。
環境に負荷を与えない泥土の急速固化剤を開発
ボンテラン工法の技術開発により、森環境技術研究所は環境保全やリサイクルに関する数々の賞を受賞した。15年11月には、迅速な災害現場の復旧・復興と大幅なコスト削減に大きく貢献したとして、経済産業省主催の「第6回ものづくり日本大賞」で経済産業大臣賞を受賞している。
同社では、新たに高含水泥土改良剤「MTシリーズ」を同年に開発している。これは泥土を短時間で固化する製品である。従来、建設現場などで発生した不要な泥土は、セメントや石灰で固化させてから搬出するか、バキューム車で吸引して搬出していた。しかしこれらの方法では、固化するまでに1週間ほどかかったり、運搬コストが高額になるなどして大きな課題となっていた。
このMTシリーズの改良剤は、泥土に添加するとわずか15分程度で固化するため、ダンプトラックに積み込んで現場から即時搬出が可能になる。特別な設備も不要で、一般的なバックホーと撹拌(かくはん)用ピットがあれば施工可能となる。
「セメントを使うよりコストが大幅に削減される。しかも、セメントを混ぜた場合は固化した土が強アルカリ性になってしまいますが、MTシリーズは中性のままで、環境にも負荷を与えません。発売してまだ数年ですが、すでに600件ほどの実績があります。また、当社は地盤工学と化学の知見を有しており、製品の価値をそれぞれの泥土の用途に合わせた配合試験により評価していただき、発注者およびゼネコンの皆さまから信頼を獲得するオーダーメード型ビジネスモデルを展開しております」
現場にある土を原材料に改良し公共工事のコスト削減に貢献
森環境技術研究所は、3年ほど前からボンテラン工法をため池の改修工事に特化した事業を展開している。ため池堤体の改修には強度や遮水性に優れた良質土が必要となるが、ため池周辺での良質土の入手が困難になっている。一方、このようなため池には底泥土が厚く堆積し、貯水容量の減少や水質の悪化など、ため池機能の阻害や低下の原因になっている。底泥土は粘土・シルト分を多く含み、一般的に含水比が高いため、捨土するにも容易ではなく、環境面や経済性の観点からこれらを積極的に地盤材料に再資源化する技術が望まれている。
「ボンテラン工法では、ため池底泥土が原材料となるため、良質土の購入と泥土処分が不要となり、環境負荷は低減され経済性が向上します。さらに、クラックが発生しないため漏水防止と堤体補強に効果が発揮されます。乾湿繰り返し・凍結融解に対する耐久性が向上、ため池が越流された場合の耐浸食性に優れています。そして、耐震性、特に液状化の抑制効果が高いことも特長。既設堤体の間の変形を少なくして密着性を改善することができます。
このような特長を生かし、老朽化ため池堤体を確実に補強していきたいと考えております」
また森さんは、アフターコロナ、ウィズコロナの時代における公共工事の在り方についても、変化が出てくると見ている。
「公共工事の形は変わると思います。具体的には自然災害から命を守る防災・減災技術の開発が重要な課題です」
森環境技術研究所は、資源としての泥土の新たな可能性を追求し、国民が納得する新規ビジネスの拡大と、国土強靭化に貢献していきたいと考えている。
会社データ
社名:株式会社森環境技術研究所(もりかんきょうぎじゅつけんきゅうじょ)
所在地:山形県新庄市小田島町7-36
電話:0233-22-0832
代表者:森 雅人 代表取締役
従業員:16人
※月刊石垣2021年2月号に掲載された記事です。
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