テーマ別企業事例 アフターコロナを勝ち抜く 「パートナーシップ構築宣言」 経営トップが決断する理由

いまだ収束しない新型コロナウイルス感染症に加え、米中貿易戦争などにより、日本経済を取り巻く状況はますます厳しさを増している。こうした状況を打破し、官民一体となって、日本経済の再生を図ることが急務だ。そこで本特集では「大企業と中小企業の新たな共存共栄」に向けた「パートナーシップ構築宣言」を発することを決断した各企業の経営者に、その真意を直撃した。

パートナーシップ構築宣言とは、取引先とパートナーシップを強化するなど「新たな共存共栄関係の構築」を企業の代表者名で宣言するものです。取引条件のしわ寄せ防止や、サプライチェーン全体での付加価値向上、規模・系列などを超えたオープンイノベーションなど、新たな連携促進を目指します。

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総論 大企業と中小企業の共存共栄で強い石垣を再構築する 日本経済再生へ向けて­─私の“新石垣”論

三村 明夫/日本商工会議所会頭

パートナーシップ構築宣言の意義について語る三村会頭

取引先との‶共存共栄〟関係の構築を目指す「パートナーシップ構築宣言」が、昨年公表された。これはサプライチェーン全体の効率化による付加価値の向上や、規模の垣根を超えたオープンイノベーションを促進し、取引価格の適正化を図るものだ。多くの企業が宣言をすることで何が期待できるのか、日本商工会議所の三村明夫会頭に伺った。

企業間の取引関係を適正にし生産性の向上を目指す

―今、大企業と中小企業の共存共栄関係の構築が必要な理由をお聞かせください。

三村明夫会頭(以下、三村) 現在、コロナ禍により、日本経済は大きなダメージを受けています。経済に大きな変動があったとき、大企業が合理化の手段として、中小企業に対し取引価格の引き下げを行う場合があります。実際、バブル崩壊後やリーマンショックの直後に、そうしたことが行われました。コロナ禍で大企業の業績が悪化している状況下、同様のことを未然に防ぐために、大企業と中小企業の取引関係を適正なものにする運動を起こしたかったというのが理由の一つです。

―他の理由というのは。

三村 今後日本がさらに成長していくためには、生産性の向上が不可欠です。すでに人口減少が始まっており、国内マーケット規模の縮小が予想される中、生産性の向上のみが日本をもう一度元気で豊かな国にする手段といえます。実は中小企業の生産性は毎年3~5%向上していますが、労務費や原材料費などの上昇分を取引価格に転嫁できず目減りし、名目でプラス1~2%ほどに抑えられています。そこで、まずは取引価格を適正化すること、そして大企業と中小企業が協力して新しい価値を創造することで、日本全体の生産性を引き上げる必要があると考えました。

「パートナーシップ構築宣言」で再び強い「石垣」をつくる

―三村会頭の考える「新石垣論」とはどのようなものでしょうか。

三村 かつて(第13代日本商工会議所会頭の)永野重雄さんは、日本経済は石垣のように大中小の形の異なる石がうまく組み合わさることで、非常に強靭(きょうじん)な体質を備えていると、「日本経済石垣論」を提唱しました。表面的には大きな石しか見えなくても、その後ろで小さな石が支えてくれているのだと。私もその通りだと思いますが、残念ながらこの20年の間に、大企業と中小企業の取引関係が適正ではなくなり、石垣がもろくなってしまいました。そのため、強い石垣を再構築する必要があります。

―日本経済はこの20年間、デフレが続いています。

三村 日本経済が成長していたときには、供給能力が需要に追い付かず、中小企業を必要としていました。ところが2000年を過ぎてからは、需要が減り、供給が多くなりました。すると購買する側がサプライヤーを競わせて、その中から一番安いところを選ぶようになります。バブル崩壊やリーマンショックなどで、一時的にそういう措置を取ったのはやむを得ない部分もありますが、その後状況が好転したら、価格を元に戻さなければ、中小企業の所得が大企業に移転したままになってしまいます。

取引価格というのは、人件費増などコストアップがあればサプライチェーン全体で適正にシェアする必要があります。それを一つの運動論として定着させることが「パートナーシップ構築宣言」であり、日本経済再生に向けた強い石垣をつくっていくことにつながります。

企業が宣言してそこに心を入れることが大事

―この運動を始めるに当たり、どのような苦労がありましたか。

三村 やはり、この考え方を多くの関係者や企業に理解いただくまでが大変でした。中小企業庁と連携して粘り強く理解を求め、政府関係者をはじめ広く賛同してくれるに至りました。

この宣言を通じて取引先企業と適正な関係をつくることは、今叫ばれているSDGsやステークホルダー資本主義を具体的に実践することにもつながります。だからこそ、官邸や各省庁、大企業も中小企業もこの趣旨に賛同してくれたのだと思います。この動きは、今後さらに広がるでしょう。

―最初に大企業に向けてこの話を持ち掛けたとき、どのようなリアクションがありましたか。

三村 私自身、かつて長く営業職にいて取引先と価格交渉を行ってきたので、実態をよく知っています。多くの大企業経営者も、自分たちだけが利益を上げることをいいことだとは思っていません。社会に貢献しながら、その中で利益を上げていくことが大企業のあるべき姿だと思っているのです。その具体策として取引価格を適正にするということに、多くの心ある経営者が賛同しています。特に、自動車や電機、建設業など多くの取引先のある企業が、すでにこの宣言に参加しています。

―中小企業側からすると、「取引価格を上げてほしい」となかなか言えないのではないでしょうか。

三村 確かにそうかもしれません。中小企業庁の「賢人会議*」でこの宣言の議論をしたとき、中小企業の悩みについて多くの声が出ました。そこから見えてきたのは、サプライヤーと大企業の購買部門との間にある大きな意識の隔たりです。

例えば、大企業の経営者が公正に購買するように購買部門へ指示していても、購買部門はコスト削減の観点から、取引価格を引き下げることが自分の役割だと認識している場合があります。そのため、価格交渉に応じてもらえず、「そんなに言うなら他の会社に発注する」と言われて怖い思いをしたなど、中小企業がなかなか声を上げられない実態が浮き彫りになりました。まずは宣言の議論を通じて、こうした実態が表に出たことがいいことだと思います。

―すでに宣言をした企業に具体的な変化は現れていますか。

三村 まだ一部ですが、中小企業から、大企業の購買部門の態度が今までと変わってきたという声をいただいています。宣言をした企業は、いわばホワイト企業に認定されたということでもあるので、ビジネスがやりやすくなったという話も聞いています。ただ、大事なのは単に宣言をすることではなく、そこに‶心を入れる〟ことです。中小企業もただ大企業側の変化を期待するのではなく、自らも具体的に行動することが大切です。

例えば、どの企業も商材やサービスを仕入れる購買者であり、つくったものを売るサプライヤーでもあります。ですから、自分たちが購買しているところに対して、適正な扱いをしていただきたい。そして、自分たちの商品を適正に買ってもらうためにも、この運動をもっと広げて多くの企業に賛同してもらい、機運を高めていくことが重要です。

宣言企業を増やし宣言と実態を合わせていく

―今後の展望についてお聞かせください。

三村 一つは宣言企業の数を増やすことです。1000社でもまだまだ足りません。できるだけ数を増やして、この宣言をしていない企業はちょっと恥ずかしいと思うくらいの状況をつくり上げなければなりません。

そして、もう一つは、宣言と実態を合わせること。パートナーシップ構築宣言の精神にふさわしい行動も重要です。今までの宣言内容は、製造業が中心になっていましたが、どの業界にもそれぞれ商習慣があります。業界の範囲を広げていくことによって、今までの習慣を打ち破り、質を高めていきたいと考えています。

―各地の商工会議所に期待していることは何ですか。

三村 全国515カ所に商工会議所がありますが、中でも秋田やさいたまの商工会議所などが、非常に熱心にこの運動を広げようとしており、宣言企業も増えて具体的な成果が上がっています。各商工会議所の会頭にはぜひ、この宣言の趣旨を踏まえた上で、地域でさらに宣言企業を増やす努力をしていただけるように、心からお願い申し上げます。

―最後に、それぞれの状況の中で頑張っている企業経営者に向けてメッセージをお願いします。

三村 現在、コロナ禍で大変な状況に置かれていることと思います。しかし、こういうときこそ、自分の企業は「誰のために」「何のために」存在しているのかを自問し、それに回答を導き出すべきではないでしょうか。企業は、決して株主や少数の人たちだけのために存在しているのではありません。従業員のために、顧客のために、取引先企業のために、社会のためにも存在しているのです。それを単なる理念ととらえるのではなく、具体的な行動に移すことが大切です。その行動こそが、パートナーシップ構築宣言への参加です。サプライヤーであり購買者でもある企業が、「コストアップ」や「価値の創造」をサプライチェーン全体で適正にシェアすることを、経営者自らが高らかに宣言していただきたい。今こそ、「新しい石垣」をつくる機運を日本全体に盛り上げていく必要がある、と強く思っています。

*賢人会議:正式名称は、「価値創造企業に関する賢人会議」。三村会頭を座長に大企業側5人、中小企業側4人、金融機関1人 で構成されている

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