事例5 企業のマッチングの場を創出し地域全体に技術革新を起こす
大阪商工会議所
大阪商工会議所では「MoTTo OSAKAオープンイノベーションフォーラム」(通称:もっと大阪)と題し、大企業と中小企業の連携による技術、製品開発、事業化に向けたマッチング支援を実施している。この取り組みについて同所の尾崎裕会頭と「もっと大阪」に参加した企業2社から、参加の動機と成果について話を聞いた。
大企業と中小企業の〝出会い〟を積極的につくる
―「MoTTo OSAKAオープンイノベーションフォーラム」(以下、もっと大阪)はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。
尾崎裕会頭(以下、尾崎) 運営が始まったのは2009年7月からです。環境・エネルギー分野への関心が高まる中、大阪商工会議所が旗振り役となって、大企業と中小企業との間で、事業や技術のニーズとシーズのマッチングをする場を提供し、スピード感と効果、コストを踏まえた課題解決に取り組みました。当初は環境をテーマに展開していましたが、これが好評で、さまざまな分野へと発展し、現在に至ります。
―これまでにどのような成果が得られましたか。
尾崎 大企業延べ60社が技術ニーズやシーズを発表、全国の中堅・中小企業などから延べ7569人が参加し、1000件近いビジネスマッチングを行ってまいりました。商談をきっかけに実現したプロジェクト、連携事業も顕著です。
―接点のなかった大企業と中小企業の出会いの場としての期待値がますます高まりそうです。
尾崎 激変する時代の中で新たな課題も増え、大企業も中小企業もスピード感ある対応が求められています。各社のこれまでの事業の延長線上ではなく、他分野の技術、ノウハウを取り入れることでインスピレーションが湧き、新たな解決策、新規事業に発展することは大いにあり得ます。「もっと大阪」を含め、そうした場を提供する中立・公正なプラットフォームとして商工会議所の役割は大きいと考えています。
大企業との技術連携で新規事業が拡大、躍進する
株式会社大栄螺旋工業 HP:http://www.d-rasen.co.jp/
―「もっと大阪」に参加した動機について教えてください。
藤井義久社長(以下、藤井) 弊社は1965年創業のステンレス製フレキシブル継手を製造販売している会社です。その技術を生かして熱交換器の製造販売に参入したのですが、熱交換器分野では後発メーカー。ずっと苦戦していました。そんな時に大阪商工会議所の「もっと大阪」を知り、大阪ガスとの技術連携に名乗り出ました。2011年のことです。
―商談がスムーズに進んだということですね。
藤井 いえ、最初は1000℃の耐熱性のある熱交換器という条件があって採用に至りませんでした。しかし、半年後に大阪ガスから連絡をいただいたときは正直、驚きました。当時、大阪ガスは小型の水素製造装置「HYSERVE」の開発でコンパクト設計に力を入れていました。弊社が得意とするフレキシブル継手の一つ、コルゲート(螺旋状)チューブを使った熱交換器なら3分の1のサイズダウンが図れます。当初の条件よりも広い視野で弊社の強みに目を留めてくださったのです。納期短縮、コスト低減も含めて再提案し、採用となりました。
―技術連携後、どのような成果、効果がありましたか。
藤井 大阪ガスのグループ会社から熱交換器関連の発注を継続的にいただいていて、熱交換器事業の売り上げが3割増、倍増した月もあります。他にもエネルギー関連分野、ボイラー業界からの引き合いも増え、一つの挑戦が次につながり、また広がる好循環ができています。
―大企業との連携で配慮したことはありますか。
藤井 要求事項が明確で、提示した答えに裏付けを求められることもありました。しかし丁寧に対応し、時には公的機関と連携して誠実に応えていく。それが信頼関係につながって今日に至っています。
新規開拓から技術連携を実現した老舗ベンチャー
株式会社木幡計器製作所 HP:https://kobata.co.jp/
―「もっと大阪」には2017年に参加されています。
木幡巌社長(以下、木幡) はい。大阪商工会議所の紹介で参加しました。弊社は創業が1909年の圧力計メーカーで、私で4世代目になります。船舶向けなどの産業用圧力計を主軸に、計測制御機器と管理システムを提供しています。船舶機器は長期間使われることもあり、創業当初から基本原理が変わらない製品をつくり続けています。しかし、2013年よりIoT(モノのインターネット)や医療機器分野にも積極的に挑戦し、老舗ベンチャー企業と銘打って新事業開拓を進めてきました。そして「もっと大阪」への参加を機に18年、シャープとの共同開発契約にこぎつけたわけです。
―どういった技術シーズで締結に至ったのでしょうか。
木幡 16年に産学官連携で、既存の計器の計測値をデジタル化する「後付け計器IoT化ユニット」の開発を進めていましたが、電源はリチウム電池でした。一方、シャープは色素増感太陽電池を開発し、IoTセンサ用電池として使える用途を探していたのです。そこで、共同開発を提案して採択されました。
―連携の成果はいかがですか。
木幡 21年春に、完成した製品がシャープからも情報発信される予定で、インパクトは大きいと期待しています。また、大阪商工会議所のキャリア人材採用支援事業を活用して、シャープ出身のOBを中心に開発できたこと、共同開発は、センサ部分の基本設計は弊社、量産技術はシャープが担当し、先行してセンサの事業化を進め、段階的に電源応用に取り組むという対等なパートナー関係を築けたのも良かったです。イノベーションは1社で解決できるものは多くありません。企業が連携して対応する必要性をさらに強く感じました。
会社データ
大阪商工会議所
所在地:大阪市中央区本町橋2-8
HP:https://www.osaka.cci.or.jp/
※月刊石垣2021年3月号に掲載された記事です。
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