テーマ別企業事例 アフターコロナを勝ち抜く 「パートナーシップ構築宣言」 経営トップが決断する理由

事例6 宣言の輪を広げることが県内企業の生産性向上につながる

さいたま商工会議所

池田 一義(いけだ・かずよし) さいたま商工会議所会頭 埼玉県商工会議所連合会会長 株式会社埼玉りそな銀行取締役会長

さいたま商工会議所の池田一義会頭が先頭に立って県内企業に働き掛けを行い、埼玉県は全国トップクラスの宣言企業数を誇っている。そこで、埼玉県の産業界における宣言の意義などについて池田会頭に話を伺うとともに、実際に宣言を行ったさいたま市内の大・中小企業の経営者にも、宣言した理由、今後の展望について語っていただいた。

適正な取引価格を実現し中小企業の付加価値を高める

―今の県内の大企業と中小企業の関係をどう認識していますか。

池田一義会頭(以下、池田) 大企業自体がコロナ禍で業績悪化したこともあり、コスト削減圧力が下請け企業に及ぶことを懸念しています。まだまだ大企業と中小企業は上下の関係にあり、共存共栄のための対等なパートナーという考え方の浸透が不十分です。ある県内中小企業からは「発注元の大手企業が、急な減産や増産といった生産計画の変更を押し付けてくることがあり、振り回されている」という切実な声が寄せられています。大企業と比べて規模的にも体力的にも弱い中小企業に対し、利益の適正な配分が必要だと考えています。

─「パートナーシップ構築宣言」という取り組みに対する印象は。

池田 日本の企業、特に中小企業は生産性の低さが指摘されており、どのように付加価値を高めるかが課題です。それには企業努力が必要ですが、自助だけでは難しい問題もあります。大企業との間で、適正な価格での取引ができず、コストダウンなどの要請で付加価値を生み出せない状況です。しかし中小企業は声を挙げづらく、解決は簡単ではない。

「パートナーシップ構築宣言」の輪を広めることで大企業と中小企業が協力して適正な価格を実現し、新たに協業による価値の創出などを目指していくことが必要です。これにより中小企業の付加価値が高まり、設備投資や人件費の増加など経済の好循環などにつながり、それが労働生産性を向上させる原動力にもなると思っています。

─なぜ池田会頭が先頭に立ち推進していこうと考えたのですか。

池田 県内産業は「事業所数の多さ」と「サプライチェーンを構成する裾野の広い産業が数多い」のが特徴です。例えば自動車、化学、建設などです。その一方で、事業所数は全国5位でありながら、労働生産性は22位と低い。これを改善したいと考えていました。

単に埼玉県だけで完結するものではありませんが、宣言の輪を拡大し、適正な取引を広げることで、県内企業の生産性向上につながる。加えて中小企業側にも変革を促し、例えばデジタル技術の実装による生産性向上を図ることで、県内の生産性を高め、その結果、中小企業の賃金の引き上げと消費の増加・地域経済の活性化につながってほしいとの思いで推進しています。まさにSDGsの取り組みそのものです。

多くの企業が宣言することで共存共栄の考え方が浸透する

─働き掛けた企業(経営者)側の反応や評価はどうでしたか。

池田 経営者の方々はおおむね宣言の意義を理解し、ほとんどが前向きに検討するという反応でした。一方で、社内で宣言内容の精査や現状の取引条件をチェックしていくと、宣言項目をクリアできない部分が出てくる。経営者の賛同を得られても、実際の取引を変えることへの購買部門や現場の反対がネックとなり、宣言に躊躇(ちゅうちょ)するケースもあります。

中小企業の中には、自社が宣言しても大手企業に取り組んでもらわないと意味がないという声もありました。宣言の効果を上げるためにも、商流の川上から川下まで全体が取り組むことが必要であり、大企業から率先して取り組む、業界全体で取り組みを促すといったことが必要だと考えています。

─宣言の広まりに対する「今後の期待」をお聞かせください。

池田 宣言は企業が仕事や取引の仕組みを変えていくきっかけになると思います。宣言したことで取引先との信頼関係が深まったという声や、取引先企業が宣言したことを知って親企業が宣言への取り組みを始めた例もあります。

大企業と下請け企業、川上から川下まで全ての企業が宣言を理解し、宣言を行うことで、本当のパートナーシップが構築され、共存共栄の考え方が浸透してほしい。そしてこの宣言が社会規範となってコンプライアンス的なルールとなり、当たり前に順守されるようになることを期待しています。

取引先企業とWin-Winの関係を築く

【タムロン】鯵坂司郎社長

鯵坂 司郎(あじさか・しろう) 株式会社タムロン 代表取締役社長

株式会社タムロン HP:https://www.tamron.co.jp/

パートナーシップ構築宣言は、企業として取り組むべきいい宣言だと思い、取り組みを始めました。弊社は国内外に約160社のパートナーがいて、調達がグローバルにわたります。本社の調達部門と話を進める中で改善すべき点が多いことを認識し、これは宣言すべきだと判断しました。宣言により短期的な業績を求めることは難しいですが、中長期の業績向上に向かってパートナー企業と共に達成していくことが重要なので、この宣言によりWin‒Winの関係を築いていきたいと考えています。

【東京チタニウム】小澤日出行会長

小澤 日出行(おざわ・ひでゆき) 株式会社東京チタニウム 代表取締役会長

株式会社東京チタニウム HP:http://www.tokyo-titanium.co.jp/

私は「下請け」という言葉に抵抗感があり、宣言のテーマである「パートナーシップ」は私の考えと共通していました。中小企業は大企業に対してなかなか声を挙げられないのが現状で、宣言からはそれを改善する考えが感じとれました。これは大企業が宣言するものだという考えもありますが、中小でも多数の企業が声を挙げていくことが重要だと思います。今は取引先に、宣言したことを通知している最中です。その結果はまだ出ていませんが、長期にわたって努力する継続性が大事だと考えています。

【毎日興業】田部井良社長

田部井 良(たべい・りょう) 毎日興業株式会社 代表取締役社長

毎日興業株式会社 HP:https://www.mainichikogyo.co.jp/

20年以上前から取引先をパートナーさまと呼ぶよう心掛けているので、宣言は我々の考えをそのまま表現できるきっかけになると思いました。そこで、取引先に対して価格面などで苦しい思いをさせていないか確認しました。私たちも顧客から厳しい価格で仕事をいただいており、改善には正直難しい部分もありますが、宣言したことで、パートナーさまたちとは、お互いに効率や生産性を高められるシステムを共同でつくっていこうという前向きな話ができています。

会社データ

さいたま商工会議所

所在地:埼玉県さいたま市浦和区高砂3-17-15

HP:http://www.saitamacci.or.jp/

※月刊石垣2021年3月号に掲載された記事です。

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