事例1 サプライチェーンの共存共栄で激動、激変の時代を乗り切る
マツダ
1920(大正9)年創立の自動車メーカー、マツダは広島を拠点に地域に根ざしたグローバル企業として進化し続けている。その成長は、常に地域と共にあり、人と人とのつながりを大切にしながら「走る歓(よろこ)び」を提供し続ける歴史でもある。そのマツダが、創立100周年の節目を迎えた2020年、パートナーシップ構築宣言を公表した。
取引先への感謝の気持ちを宣言を通して具現化する
―日本を代表する自動車メーカーとして、また地域のリーディングカンパニーとして活躍されています。「パートナーシップ構築宣言」に込めた思いについてお聞かせください。
小飼雅道会長(以下、小飼) 自動車産業は非常に裾野が広い産業で、拠点である広島にはTier1(一次サプライヤー)からTierN(N次サプライヤー)、そして素材メーカーや金型をはじめとする部品メーカー、販売・サービスが集積しています。弊社は昨年1月30日に創立から100年を迎えましたが、取引先にも百年企業がいくつもあります。こうした環境を構築できたのも取引先と協働・協業の関係が築かれているからこそ。節目の年にパートナーシップ構築宣言を表明する機会をいただけて、幸いだと感じています。
―「パートナーシップ構築宣言」において特に意識された点は何でしょうか。
小飼 弊社の歴史を振り返れば、存亡の危機に陥ったことが何度もあります。その時に支えてくださったのが、取引先をはじめとした地域の皆さまです。そうした歴史を踏まえて、若手従業員を含めて取引先への「感謝」の気持ち、姿勢をしっかり示していくこと、特に取引先と直接対応している購買部門をはじめ他部門でも、きちんとした「適正取引の徹底」に向けてパートナーシップ構築宣言を活用していきたいと考えています。
アフターコロナを見据え取引先の人材育成に注力
―宣言前から取引先とは良好な関係を築かれていたという印象を受けます。
小飼 取引先との共存共栄があってこその100年です。さらにコロナ禍にあって、取引先との絆をより深めていくという意識が強まりました。昨年4月は弊社の自動車生産台数が約8割減り、取引先を心配させてしまったことがあります。しかし、5月にはリカバリー計画を策定し、一週間単位でTierNまでの約700社に状況を提示。取引先の協力を得て8月には通常の操業状態に戻すことができました。
また、同時期に取引先を回り、資金繰りが厳しいところには持続化給付金や雇用調整助成金の申請のサポートやアドバイスをしたり、取引金融機関に弊社からもお願いするなど、共にコロナ禍を乗り越えてきました。
―そうした状況下での宣言に対し、取引先の反応はいかがでしたか。
小飼 多くの取引先から好意的なコメントをいただいています。コロナ禍で生産現場が稼働しない、できない時期こそ、従業員の教育や生産システムの改善に力を入れ、アフターコロナにはもっと効率的に生産していきたい、そのための指導をしてほしいという声もたくさんいただきました。そこで弊社の社員を派遣し、インストラクター教育を実施しています。各社内にインストラクターを養成することで、取引先自らが工程のムダを無くし、改善できる取り組みです。
―社内教育だけではなく取引先の人材育成にも注力していくということですね。
小飼 そうです。サプライチェーン全体の共存共栄を考えれば、人材育成は必須です。特に今後のIT化、デジタル化に向けた技術や、成功事例の共有など、企業の体質改善、強化の必要性を今回のコロナ禍で多くの取引先も気付かれたと感じています。5年先、10年先を見据えた人材育成に、サプライチェーン全体で取り組んでいきたいと思います。
生産も開発もユーザーのニーズも分かる集団へ
―取引先との「取引適正化」に向けて心掛けたことは何ですか。
小飼 宣言では下請け代金は現金で支払うこと、旧型の金型の無償管理要請を行わないように十分配慮することを明文化しています。近年多発している自然災害に関しても、2018年の西日本豪雨の経験を生かし、いち早く物流、生産ラインを止めてリスクを回避し、取引先の従業員を含めて地域全体を守るべく、マツダのリソース(経営資源)を使っていく考えです。
―多くの取引先との関係性を維持すべく独自に展開していることがありましたらお願いします。
小飼 さまざまな取り組みをしていますが、その一つに「五位一体活動」があります。これは弊社の購買部門や生産部門など社内5部門が製品開発の初期段階から一体となって活動するというものです。高性能かつローコストな自動車を量産できるよう、弊社や取引先の生産設備を最大限活用し、今後3年間、5年間で量産していく車種の共通のシステムを明確にして、2026年3月期に目指している年間販売180万台を支える生産規模の維持を図っていきます。
―サプライチェーンの共存共栄に向けて、配慮されていることは何でしょうか。
小飼 取引先の意見を吸い上げる能力、そこから最適解を導き出すための擦り合わせ能力の必要性を感じています。生産も開発もユーザーのニーズも分かる集団の構築。それが弊社の重要な役割です。全てのサプライチェーンに向けて、我々の宣言の内容にしっかり取り組んで適正取引に対応していきます。
―御社にとってパートナー企業とはどういう存在ですか。
小飼 自動車は1部品でも足りなければ完成しません。取引先とは「1対1」の関係の共同体だと認識しています。パートナー企業として協力してもらうべく、できるだけ情報を開示し、製品に対する思いやビジョンを共有してマツダの〝走る歓び〟に共感していただく。そうした信頼関係があってこそのマツダブランドだ、と実感しています。
会社データ
社名:マツダ株式会社
所在地:広島県安芸郡府中町新地3-1
※月刊石垣2021年3月号に掲載された記事です。
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