事例3 「SDGs商店街」を目指す取り組みで地域の課題を解決
魚町商店街振興組合(福岡県北九州市)
2018年に北九州市がアジア初の「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選定されたことを機に、「SDGs商店街」を目指している魚町銀天街。中心市街地の商業の衰退、後継者不足、来街者の減少といったさまざまな地域課題を解決すべく多彩な活動を展開し、今、商店街に変化が起こりつつある。
商店街を挙げて社会的課題に取り組む
江戸時代から続く魚河岸を源流とする魚町は、北九州市随一の繁華街である。その中心を南北に貫く全長約400mに、160店舗が軒を連ねているのが魚町銀天街だ。「銀天街」の名称の発祥地であり、1951年に公道上でアーケードを建設した日本初のアーケード商店街でもある。
魚町銀天街がSDGsに乗り出したのは2018年8月だ。同年3月に、OECD(経済協力開発機構)がSDGs推進に向けた世界のモデル都市として、同市を選定したことをきっかけに、「SDGs商店街宣言」をして活動を開始した。
「それ以前から来街者を増やす取り組みをしてきました。例えば、11年に遊休不動産の再生を目指す『リノベーションまちづくり』を始めてから空き店舗は減り、通行量が約3割増え、新規雇用者500人超を達成したんです。次の目標を立てようとした矢先、SDGsモデル都市になったので、商店街を挙げて社会的課題に取り組んでいこうと考えました」と旗振り役である魚町商店街振興組合理事長の梯(かけはし)輝元さんは経緯を説明する。
まずはSDGsを認知させようと、SDGsマークをプリントしたポスターや横断幕を商店街の目立つ場所に配置したり、「まちゼミ」で勉強会を行ったりした。さらに商店街の人がこれまで行ってきた活動をSDGsに結びつけていった。例えば、廃油を活用したせっけんづくりは17の目標のうち4番、アーケードへのソーラーパネルの設置は7番、食品廃棄物を減らす工夫は12番というように。そうした活動を可視化しようと動画にまとめたところ、それが第1回SDGsクリエイティブアワードゴールド賞を受賞した。
SDGsを意識したアイデアで売り上げがアップ
ただ、商店街全体の反応はまだ少なかった。そこでさらに認知度を上げようと、さまざまなイベントを企画する。例えば、「SDGsムービーカフェ」を期間限定でオープンし、世界各地のSDGs関連ムービーを上映。関心のある者同士が交流できるイベントを行い、今後の課題について話し合った。また、「SDGs活用セミナー」を開催して、商店街店主が具体的にどう活用できるか議論を交わした。ほかにも、廃棄野菜や食品ロスの問題解決を探る「SDGsバル」、絵画などを制作して商店街に展示する「SDGsアートフェスティバル」などを定期的に開催して、一人ひとりの意識向上を図った。
「基本的に企画やイベントは商店街の人と一緒に考えています。当初、SDGsに興味を示す店主は商店街全体の5%程度でしたが、それぞれが商店街や地域の将来に何らかの問題意識を持っていました。それを解決するために、自分は何ができるかという視点からアイデアが出ることが多いですね」
実例を挙げると、竹の再利用がそうだ。同地はタケノコの産地として知られるが、近年では放置竹林の急増が問題になっている。環境保全の観点から、竹を活用して竹パウダーや竹炭、竹線香などへの商品開発に取り組んでいる。また、アートフェスティバルで竹灯籠をつくり、毎年11月に開催される「小倉城竹あかり」の会場で3万本を灯(とも)す企画を実現させた。
「個店単位では、規格外野菜を積極的に販売する店や、賞味期限間近の商品を箱で仕入れて販売する店が登場し、売り上げを40%ほど伸ばしています。また、辻利茶舗が出がらしの茶葉をおいしく食べるための専用ポン酢『お茶ぽん』を商品化し、とても評判がいいです」
こうした取り組みの広がりにより、活動に参加する店舗が全体の10%程度にまで増えている。
意識の高い人は単価が高くても買ってくれる
現在、SDGsの認知度の全国平均は20%程度だが、北九州市は54%に上るという。そのためか、商店街に集まる客層にも変化が見られるという。
「以前は中高年層の女性がほとんどでしたが、最近は若い層も増えてきました。意識の高い人たちは、商品に価値を感じれば高くても買ってくれるので、今後も足を運んでもらえる工夫をしたい」
梯さんは若い世代にこそ、SDGsを身近に感じてほしいと言う。というのも、魚町界隈は海抜3m程度しかなく、地球温暖化で海水面が上昇したら、沈んでしまう可能性があるのだ。課題を自分事として捉えて行動に移し、持続可能なまちづくりの担い手になってほしいと期待を寄せている。
今年、アーケード70周年の記念イヤーとなる魚町銀天街では、新たに「SDGsテーマパーク化構想」と銘打って、さらなるSDGsの推進を計画しているという。
「ここに来ればSDGsの理論から実践までが学べて、それが商売につながるという実例を広く発信したいと考えています。もっと広報活動に力を入れて、魚町銀天街で買い物をすることがSDGsになるという実績を積み上げ、地域活性化につなげたいですね」と展望を語った。
会社データ
社名:魚町商店街振興組合(うおまちしょうてんがいしんこうくみあい)
所在地:福岡県北九州市小倉北区魚町3-1-15
電話:093-521-6801
代表者:梯輝元 理事長
※月刊石垣2021年4月号に掲載された記事です。
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