包装資材の総合メーカー・船場化成(徳島県徳島市)は、「クラウドを利用して情報を一元化し、業務の効率化を行う」と目標に掲げてDXを推進した。注目したいのは、手を付けやすく成果が表れやすい業務から少しずつ転換していった点だ。業務改善の効果は大きく、同社は全国中小企業クラウド実践大賞全国大会「審査員特別賞」を受賞した。
30万円のIT投資が大きな成果を上げた
船場化成は、直近10年の売上高が毎年平均5%成長を続けている優良企業だ。成長の原動力の一つがIT導入による業務の効率化にある―と評したいところだが、取締役の鈴木康弘さんは、「生産設備投資や技術開発投資は積極的に行っていたのですが、事務処理を担う基幹システムへの投資が遅れていました」と打ち明ける。
2014年時点では、紙やエクセルでデータ管理をする属人化した業務が多く、それが残業や休日出勤の増加につながり、離職率を高めるという悪循環が起こっていた。
現場から業務を効率化するための基幹システムを導入してほしいという声が上がり始めた頃、三代目の美馬直秀さんが代表取締役に就任、「クラウドを利用して情報の一元化を図り業務の効率化を行う」ことを目標に掲げ、一つのクラウドにデータベースを集約した大規模なIT化を計画した。システム会社に見積もりを依頼したところ、「1億円近い金額が示されました」(鈴木さん)。計画はいったん白紙に戻された。
そんなとき、社内を見回っていた美馬さんが製造指示ラベルの作成現場で足を止めた。一人の製造リーダーが、顧客の注文を四角い付箋のような製造指示ラベルに手書きしている姿を目撃したのだ。他の業務の合間に毎日100枚以上書いているという。
美馬さんは、手書きラベルの廃止をIT化の第一歩と決め、手書き情報を「マイクロソフトSQLServer2012」を使ってデータベース化し、ラベルプリンターで出力する発注管理システムをシステム会社に発注した。機能を絞り込んだため30万円という低価格で完成したが、効果は抜群だった。15年に稼働が始まると、製造リーダーの作業時間が1日当たり4時間も削減された。
その効果を目の当たりにした営業からは、情報共有ができるよう紙の製造指示書をデジタル化してほしいという要望が上がった。そこで16年、顧客先・商品名・商品仕様など製造指示書の必要項目を全てパソコン入力にしてクラウドデータベースへ蓄積する仕組みを構築。営業担当者が項目を入力すると発注書が自動作成されるため、関係者間の情報共有がスムーズになった。
17年に取り組んだのが製造工程管理のIT化だ。製造進捗(しんちょく)状況を書き込んでいた手書きノートをパソコン入力に変え、発注書とひも付けたことで、製造進捗状況が一目で確認できるようになった。
本社・子会社間に一体感が生まれた
これらの成功により、「他の部署の社員から、自分の業務もIT化できるのではないかという声が上がるようになりました」と鈴木さん。ITに対する社員の意識が変わり始めたのだ。
出荷担当からは、紙の送り状を電子化してほしいという要望が寄せられた。顧客からの問い合わせのたびに、送り状の束から探し出さなければならず、残業が増える一因になっていた。そこで送り状のデジタル化と自動発行システムをつくった。これだけで、事務担当の残業は1日当たり2時間も減った。19年には人事課からの要望で勤怠管理システム、人事管理システムなどを導入し、経理課からの要望で経理管理書類のPDF化と電子メール送付などの機能を付加した。封筒に書類を入れて送るという手間がなくなり、郵送物が9割減った。
本社のIT導入成功を受けて、子会社の福岡ポリにも同じようなシステムを導入。社を超えて生産状況の確認ができるようになっただけでなく、コミュニケーションがスムーズになって一体感が醸成され、シナジー効果が生まれた。
鈴木さんは、同社の成功要因を従業員が自由に提案ができる環境があるからだと考えている。
「社長は折に触れ社員に『システム化した方がいい業務はないか』と聞くのです。社員が『この業務をシステム化してほしい』と要望すると、システム会社との打ち合わせにその社員を加える。社長が全ての業務のやり方を把握しているわけではないので、分かる人に任せて現場が求めているものをつくるというやり方を一貫して続けています」
また、あえて社内にシステム部門を置かず、システム会社に担当させている。外注にすることで、トラブルが発生した時、社員が対応する必要がなく、本来の業務を続けられるからだ。
同社のIT化は業務の効率化にとどまらなかった。社員の業務改革への意識の変化という大きな収穫を得ることができたのである。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 作業の大半が紙ベースで行われ、情報共有ができていなかった。
・ 作業が属人化しており、本人が休むと、作業が滞っていた。
・ 残業や休日出勤が多く、離職につながっていた。
導入したITシステム
・ 発注管理システム、製造指示書のクラウドデータベース化、製造工程管理、製造掲示板の電子化、送り状の電子化、勤怠管理システム、経理関連書類のPDF化、人事管理システムなど。
IT化後の状況
・ 作業効率アップにより残業時間が月平均20時間以下に減り、有給休暇取得日数が平均9日以上に増えた。
・ 時間と労力の削減と数値に基づいた的確な経営判断が可能になり、2022年決算は過去最高の売り上げを達成。
会社データ
社名:船場化成株式会社(せんばかせい)
所在地:徳島県徳島市国府町観音寺梨ノ木666-1
電話:088-642-1414
HP:https://www.senbakasei.com/
代表者:美馬直秀 代表取締役
従業員:307人(グループ4社)
【徳島商工会議所】
※月刊石垣2022年5月号に掲載された記事です。
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