資源価格などの急騰や円安急伸、ウクライナ侵攻、サプライチェーンの混乱などの複合的要因による物価上昇が国民生活および企業活動に大きな影響を与えている。特に中小企業はコスト上昇分の価格転嫁が難しく、収益が圧迫される厳しい経営環境に直面している。加えて、人手不足が深刻化し、人材確保には賃上げが避けられない状況となっている。
わが国は、停滞から変革への大転換期を迎えている。商工会議所では、急激な環境変化に対応すべく、生き残りをかけたビジネスモデル変革など、中小企業の自己変革への挑戦を伴走型で強力に後押ししていくので、政府には、コロナ禍と物価高で困窮する事業者への資金繰り支援などに万全を期すとともに、取引適正化や新分野展開、事業再構築など、民間の挑戦が実を結ぶ環境整備に努められたい。
また、コロナ禍で顕在化したデジタル化や地方創生、カーボンニュートラルなどの経済社会課題の解決を経済成長につなげていくため、地域総合経済団体である商工会議所は、官民協働の中核として、地域経済の好循環の実現に全力を尽くしてまいりたい。日本商工会議所は本年、創立100周年を迎える。全国515商工会議所、連合会、青年部、女性会などとのネットワークを強化し、中小企業の繁栄、地域の発展、日本の成長の実現を目指して、引き続き取り組んでいく。
1.デフレマインドや将来不安を払拭し、成長と分配の好循環の実現を
過度に感染を恐れて自粛するコロナマインドが国民の間にまん延し、景気回復の足かせとなっている。足元で感染者数が増加傾向にあるが、2年半の知見と科学的根拠に基づき、行動制限は行わず、経済を回していくことを最優先に、メリハリのある感染対策と新型コロナウイルスの感染症法の5類相当への引き下げを含めた、具体的な出口戦略を提示し、コロナマインドを払拭(ふっしょく)されたい。商工会議所は中小企業のワクチン共同接種などに貢献してきたが、今後も感染防止と社会経済活動の両立に協力してまいりたい。
また、停滞する投資や消費を喚起するため、デフレマインドと将来不安の払拭が必要である。政府には、重点投資分野(人材、科学技術・イノベーション、スタートアップ、デジタル・グリーン)における官民の役割分担の明確化とリスクシェアリングを図り、長期計画的で十分な規模の政府支出と大胆な規制緩和により民間投資を呼び込むとともに、社会保障制度改革や将来的な財政健全化への道筋の提示、人口減少対策などにより、国民の将来不安を払拭することに本腰を入れて取り組まれたい。
成長と分配の好循環の実現には、中小企業が持続的に賃上げできる環境整備が必要であり、生産性向上や付加価値拡大などの取り組みとあわせて、転嫁円滑化施策パッケージの推進などの取引適正化を進めていくことが重要である。大企業と中小企業の共存共栄の連携関係が鍵であり、商工会議所では、パートナーシップ構築宣言の普及に努めていくので、政府には、同宣言の周知徹底と実効性を高める取り組みを強力に推進されたい。
今後人口が急減し、さらなる人手不足が想定される中、将来の日本経済と産業を支える外国人材に選ばれる日本の実現も急務である。足元では水際対策を緩和し、外国人材の受け入れ拡大を早期に図る必要がある。
2.生き残りをかけた中小企業の自己変革への挑戦支援を
わが国には長寿企業が多く、創業100年超が全企業の1%、世界の長寿企業に占める割合は4割超を占めるが、この多くが中小企業である。環境変化に柔軟に対応し、激動の時代を生き抜いてきた日本の中小企業の強みは、「自己変革力」である。
コロナ禍や物価上昇など外部環境が激変する中、中小企業は持ち前の自己変革力を最大限発揮し、生き残りをかけた挑戦を迫られている。商工会議所は、地域コミュニティを支える小規模事業者を含め、中小企業のデジタル化による生産性向上や事業再構築、事業承継、創業・第二創業、スタートアップ、産学官金によるイノベーション創出などの取り組みを伴走型で後押ししてまいりたい。特に、中小企業のデジタル実装を進めるためには、経営者自らの意識改革を促すとともに、セキュリティ保護も含め専門人材による支援強化が必要である。政府には、環境変化をチャンスと捉えて挑戦する、これら中小企業の自己変革への取り組みをより一層強力に支援されたい。
円安については、日本経済の弱さを端的に反映したものと理解している。従って、今後も継続することを前提に、円安を最大限活用すべく、商工会議所としては、各地域における越境ECなどを活用した中小企業の輸出拡大を推進してまいりたい。
また、国民生活と企業活動を支えるエネルギーの価格高騰が止まらない。エネルギー価格上昇は構造的な問題であり、エネルギーの安定供給と価格抑制に資する、安全が確保された原子力発電の早期再稼働など、政府が前面に出て原子力政策を力強く推進するとともに、国際協調などを通じたエネルギーの安定供給確保に努められたい。あわせて、地域のエネルギー需給などを鑑み、省エネや地産地消の再エネへの取り組みなどを商工会議所も参画して進めていく必要がある。
3.官民協働による魅力ある地方創生の推進を
人口が急減する中、コロナ禍でテレワークを経験した若者の関心が地方に向いている。近年、東京圏より地方圏の方が成長率は高い傾向にあり、デジタル技術も駆使した地方創生を推進する好機を迎えている。大阪・関西万博をはじめとする国際的イベントなどを起爆剤とし、ヒト、モノ、資金、情報などの資源を最大限活用し、官民協働で、地域産業クラスターなどを活用して地域に仕事を創り、大都市への人材流出を止め、移住・定住につながる生活圏としての価値を高めていく必要がある。商工会議所は、公民連携の中核として、地域経済の好循環を生み出すローカルファーストなまちづくりや産業の再構築、食料安保にも資する農林水産業の再活性化など、魅力ある地方創生の推進に貢献してまいりたい。
また、今後起こり得る大規模自然災害を想定し、レジリエントで豊かな地域経済社会に向けて、長期的な展望の下、戦略的ゆとり(リダンダンシー)を生み出す国土強靭(きょうじん)化を進めていくことが不可欠である。商工会議所は、今後も中小企業の強靭化に資するBCP策定などに協力していくので、防災・減災・国土強靭化と震災復興を重点投資分野に位置付けて、安定的かつ継続的に予算を確保し、地域の人流・物流の活性化や成長基盤となるインフラ整備を進められたい。
観光については、コロナ禍の影響が大きい観光関連事業者の支援強化とともに、全国旅行支援の早期実施や外国人観光客の受け入れ拡大などによる需要喚起が必要である。商工会議所は、インバウンド再開・観光需要の本格回復に向け、地域における有形・無形の観光資源の発掘・磨き上げ・高付加価値化に取り組み、観光の復興に貢献してまいりたい。
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