長引くコロナ禍により、規模や業種を問わず多くの企業が苦境にあえいでいる。その一方で、一足早く新型コロナとの共存を見据え、時代に合わせたサービスを開発し提供することで、新たな需要を開拓している企業もある。苦しい時こそ見習いたい企業の取り組みと戦略に迫った。
自動販売機は日本の文化 売り上げ増だけではない効果を発揮
近畿自動販売機サービスは、京都市を中心とした周辺市町村と滋賀県で自動販売機オペレーターの事業を展開している。コロナ禍の影響で観光地での収入が激減する中、同社は昨年から冷凍食品の自動販売機「ど冷(ひ)えもん」の取り扱いを始めた。自動販売機による24時間365日、非対面・非接触の販売に加え、冷凍食品であることから食品ロスが減らせるとあり、飲食業界から注目を集めている。
コロナ禍により観光地では自販機の売り上げが激減
近畿自動販売機サービスが行っている自動販売機オペレーターとは、屋外や施設内に設置されている清涼飲料水の自動販売機を管理する業務のことである。さまざまな場所にある自動販売機を定期的にチェックして、売れた飲料の缶を補充したり、お金の回収や釣り銭の補充をしたりしている。また、自動販売機の横に置いてあるリサイクルボックスから缶とペットボトルを回収して、リサイクルに回す業務も行っている。
「自動販売機の設置は、その場所の所有者から依頼をいただく場合と、私どもが売れそうな場所を探して、そこの所有者に設置をお願いする場合があります。販売機は飲料メーカーから無償で借り、その飲料メーカーから商品を仕入れて販売する形になります。設置後は全て私どもで管理して、売り上げに応じた金額を所有者にお支払いしています」と、同社社長の上野浩之さんは自社の業務について説明してくれた。
京都市は日本有数の観光都市であるだけに、国内外の観光客が数多く訪れ、観光地に設置した自動販売機は常に大きな収益を上げていた。しかし、コロナ禍に入って状況が一変した。観光客の姿はまばらとなり、売り上げが激減。観光地での売り上げは平均して10分の1に。場所によっては、1台で月に100万円を売り上げていた自動販売機が、3万~5万円しか売れなくなったところもあった。
「また、テレワークで人が外に出なくなったためにオフィスや交通機関での売り上げも減りました。その一方で、人の流れや集まるところが変わり、住宅街や公園近辺の売り上げは1~2割アップしました。そういったこともあり、全体的には1割から2割ダウン程度で収まりました」
飲食店からの問い合わせ増でど冷えもんの取り扱いを決意
同社が取り扱いを始めた「ど冷えもん」は、自動販売機や冷凍・冷蔵ショーケース、フード機器などを扱うサンデン・リテールシステムが2021年1月に発売し、飲食業界から注目を集めている商品である。
「ど冷えもんが注目されていることは知っていましたが、これは冷凍自動販売機の販売なので、うちの業務とは合わないと思っていました。でも、去年の夏以降、飲食店からお問い合わせが来るようになり、みなさんコロナ禍で苦しんでいて、ど冷えもんで店をPRしたい、テイクアウト販売の一つの武器にしたいという話を聞き、うちでも何かお役に立てるかもしれない、と考えました」
自動販売機の設置方法や場所についてはノウハウを持っている。この地域にはこの客層が多いから、こういうものが売れるのではないかというアドバイスもできる。飲食店は飲料の自動販売機を外に置いているところも多く、そういった顧客にど冷えもんをPRしていった。また、自社ホームページにど冷えもん専用ページをつくり、アピールもしている。
「ど冷えもんを販売する会社は他にもあるのですが、うちのホームページを見てお問い合わせいただく方が増えました。しかも、北は北海道から南は奄美大島の方まで。地域性の分からないところの方への対応はまだ試行錯誤の部分もありますが、店の味を広めたい、売り上げを伸ばしたいという皆さんの切実な思いに何とかして応えたい、少しでもお役に立ちたいと考えています」と上野さんは表情を引き締める。
導入が従業員のモチベーションアップにも
ど冷えもんは、自動販売機そのものを購入するので、飲料自動販売機のように機械は無償レンタルで、商品の補充からお金の管理までオペレーターがやってくれるわけではなく、商品の補充やお金の管理は購入者自身で行わなければならない。それでも飲食店の場合は店舗の外にど冷えもんを置くことが多いので、補充や管理がしやすく、店の営業時間外に来た客にもテイクアウト販売をすることができる。つまり、24時間営業に近い販売効率が図れるようになる。
「せっかく機械を購入されるのであれば、単にこれで売り上げを増やすだけでなく、ど冷えもんで買ったお客さまが店にも来てくれるよう冷凍食品の中に店のクーポンを入れたり、試作品をリーズナブルな価格でど冷えもんで販売して、その評判を見ながら改良していき、好評なものは店のメニューに加えたりするといった、相乗効果が出るようなご提案もしています」と上野さん。
実際に導入した店の中には、それ以外の効果を出している店もある。ある焼き肉店では、従業員たちが率先して店舗のメニューとは別にど冷えもん専用の商品を考えるようになり、それがチームワークやモチベーションのアップにつながっているという。
「これまで自動販売機を通して飲料を販売してきましたが、ど冷えもんではそれとは違う達成感があります。日本各地でさまざまな商品を販売している自動販売機は、日本の文化だと私は思っています。そこに新たにど冷えもんを加えることで、日本の自動販売機文化の可能性をさらに広げ、コロナ禍で苦労されている飲食店のお役に立てればと考えています」
これまでの経験を生かし、時代に合わせた販売スタイルを提供することで、同社は新たな需要を開拓している。
会社データ
社名:株式会社近畿自動販売機サービス(きんきじどうはんばいきさーびす)
所在地:京都府京都市南区吉祥院流作町18
電話:075-326-4566
代表者:上野浩之 代表取締役
従業員:約30人
【京都商工会議所】
※月刊石垣2022年10月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!