経済が急成長する国家にはその先導役となる地域が現れる。戦後、日本であれば京浜工業地帯であり、韓国では蔚山(ウルサン)、中国では広東省、タイではチョンブリ、ラヨーンなどバンコク東部がその典型例である。今、グローバル製造業の進出が加速するインドでは、恐らく西部でアラビア海に面し、パキスタンとも国境を接する人口6500万人のグジャラート州がその役割を果たすだろう。
グジャラート州は既にインドの工業生産の40%を占める経済の中心だが、インドの3大財閥の一つリライアンス・グループの石油化学プラントや製油所、旧エッサール・グループの製鉄所など重厚長大型の産業集積だった。2016年にホンダの二輪車工場が進出したことを皮切りに、17年にはスズキが四輪車工場を新設、21年に第3工場が稼働し、年産75万台体制となった。関連部品メーカーも進出し、インドでは有数の日本企業の進出地域となった。グジャラート州の域内総生産(GRP)に占める製造業の比率は37%にも達しており、インド全体の2倍の比率を誇っている。
グジャラート州の強みは、01年から14年まで州首相を務め、その実績で国の首相になったナレンドラ・モディ氏にある。モディ州首相の時代に電力、道路、港湾、空港などインフラの整備に力を入れ、インドで最も停電が少なく、最もインターネットが速い州と評価されるようになった。外資誘致のため、非効率なインドの役所仕事をグジャラート州だけはワンストップで即日解決する効率化を進めた。インドで最も西にあるため、中東や東アフリカ、さらに欧州への輸出に地の利があるという点も見逃せない。
インドには首都デリーの北方のハリヤナ州がスズキ、ホンダの巨大工場を抱える輸送機器の巨大産業集積になっているほか、南部の高原地帯のバンガロールは世界的なソフトウエアやシステム構築・運用の企業、インフォシスの本社(キャンパス)があるICTの中核都市。だが、インドの10年後を考えるとき、広東省のようなけん引力を持つのはグジャラート州だろう。その兆しはすでに見え始めている。22年9月には台湾の受託生産世界最大手の鴻海精密工業(ホンハイ)が英資源大手ヴェダンタと組んで、半導体生産の拠点進出の構想を発表した。液晶などディスプレーや太陽光発電パネルの工場建設も話題に上っている。インド全体の高度成長の中で、グジャラート州の変貌をウオッチし、チャンスを見いだす必要がある。
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