地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化「100年フード」の中から、日本が誇る食文化を文化庁、有識者がリレー形式で紹介します。
緑の美しい5月、端午の節句の食べ物には柏餅や粽(ちまき)などがあります。節句には香りで邪気をはらうことが大切とされてきました。清少納言は「節(せち)は、五月にしく月はなし。菖蒲(しょうぶ)、蓬(よもぎ)などのかをりあひたる、いみじうをかし」(『枕草子』)と記し、菖蒲や蓬で屋根を葺(ふ)いたり、身に着けたり、部屋に薬玉(くすだま)を吊るしている様子を描いています。現代では季節の変わり目に香りを楽しみながら邪気をはらうという感覚は忘れられてきているかもしれません。かつて端午の節句には柏や竹皮、笹など抗菌作用があり、良い香りのある葉を用いた食べ物がぴったりだったのです。
鹿児島のあくまき(灰汁巻)も、その一つです。あくまきは、もち米を木や竹を燃やした灰からとった灰汁に一晩浸してから、孟宗竹(もうそうちく)の皮に包んで、たっぷりの灰汁の中に入れて3時間かけて煮てつくります。もち米は竹の皮の中で膨張し灰汁の効果ででんぷんの糊化(こか)が進み、あめ色の柔らかい餅のようになります。あくまきは日持ちし、また食べると腹持ちもよいため、戦陣食になったとも伝えられています。
植物の葉で米や米粉の餅を包んだり巻いたりする食べ物は、民俗学では「葉包み食」とも言われます。朴(ほお)の葉でご飯を包む朴葉飯や朴葉寿司もあります。主に端午の節句や田植えの時に食されてきました。暑くなり、湿気が多くなる時期にぴったりだったのです。これらの葉のもつ抗菌・殺菌力、餅やご飯の香り付け、そして手を汚さずに食べられることの三つがそろい、昔の人の知恵が詰まった食べ物だといえます。
灰汁を利用した葉包み食には、鹿児島から遠く離れた山形県庄内地方や新潟県村上市北部などの灰汁笹巻があります。竹皮や笹で包んだもち米を灰汁で煮ることでよりおいしさが保てるという経験の知恵は、それぞれの地方で獲得されたものと思われます。
100年フード
文化庁は、①地域の風土や歴史の中で創意工夫し地域に根差したストーリーを持つ②世代を超えて受け継がれてきた③地域の誇りとして100年を超えて継承することを宣言する団体が存在する、食文化を「100年フード」として認定しています。
100年フード公式ウェブサイト ▶ https://foodculture2021.go.jp/jirei/
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