ゴールデンウイークはもちろん、その後も日本の観光地では外国人旅行客の姿が目に付く。コロナ禍で海外からの訪日客が2年間以上途絶えていたことで目立つのかもしれないが、インバウンドの復調は明らかだろう。だが、2019年まで最大の数を誇っていた中国人旅行客は戻っていない。今年1~4月と19年の同期を比べると、訪日客の総数では61.4%の水準まで戻り、韓国は78.1%、タイは71.3%まで回復、ベトナムのように19年比で21.5%増と過去最高を記録した国もある。
これに対し、中国は19年比で8.7%、つまり依然として10分の1以下にとどまっている。中国政府が訪日旅行を政策的に制限していることに加え、中国経済の停滞により富裕層でも支出を抑制する傾向が強まっているからだ。かつて「爆買い」で日本の消費市場を活気づかせた中国人旅行客の不在は、日本各地の観光地にとって痛手だ。
一方で、日本にやって来る中国人の層に変化が見え始めている。観光ではなく、留学目的の訪日だ。6月7~9日に行われた中国の全国統一大学入試「高考」は過去最高の1291万人が受験した。21年の1078万人、22年の1193万人と毎年100万人前後ずつ、受験者数が増えている。受験者には大卒の学歴を就職の武器にしようという狙いがあるが、大学の定員がそれほど急増するわけはなく、毎年毎年、より狭き門になっているのは間違いない。それを避けて、日本の高校、大学に留学する中国人が急増している。米国が中国人学生へのビザ発給を厳しく制限し、韓国との関係も悪化しているため、日本に向かっているという背景がある。
日本の大学の授業料は米国の3~4分の1程度で、円安の中でコスパのいい留学先という面がある。さらに20歳代の失業率が30%超といわれる中国より、学生の売り手市場が続く日本の方が就職しやすいという点も、中国人に受けている。
中国経済の現状を見れば、停滞の長期化は確実。日本は戻らない爆買いよりも、中国人の留学や就職を新たな需要と捉えるべきかもしれない。高校、大学、専門学校はもちろん、留学生向けサービスは成長分野になる可能性が高い。東京、大阪、京都などだけでなく、自然環境に恵まれた地方は中国人学生にも受けが良い。問題は、地方都市の多くが中国人学生誘致のための発信をあまりしておらず、知られていないまちや大学が多いことだ。既にいる中国人学生の協力を得た発信は思いがけない果実をもたらすかもしれない。
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