昨年はインバウンドも含めた旅行客がコロナ禍前まで戻ってきた。旅先で欲しくなるのは、なんといっても買って帰りたくなる土産品。新年号は、もはや全国区となったあの商品の開発秘話や、地域の新名物を目指し“お土産”づくりに奮闘する企業の挑戦と自信作をお届けする。
スナック生まれの菓子が東京駅に進出 和歌山県の新名物を目指す
和歌山市の歓楽街にあるスナックで誕生した菓子が「an and an(あんあんどあん)」というブランドとなり、東京駅構内に常設店舗をオープンした。看板商品はオリジナルの「あんバタースコーンサンド」で、主な食材に和歌山県産のものを使って和歌山県の魅力を全国に発信し、将来的には和歌山県の新たな名物となることを目指している。
コロナ禍で営業が困難になり従業員と始めた菓子づくり
an and anが常設店舗をオープンしたのは、東京駅構内の地下1階にある商業施設・グランスタ東京の「銀の鈴エリア」。2024年9月13日にリニューアルオープンして10店舗が新たに出店したスイーツゾーンの一角にある。それまでは百貨店の催事場でのブース出店や期間限定のポップアップ店舗、オンラインショップでの販売のみだったが、初めて常設の店舗を構えることになった。
an and anを展開する株式会社クワトロの代表、内藤ひさみさんは、もともとは和歌山駅近くの歓楽街、新内(あろち)にあるスナック「クワトロ」の経営者である。だが、コロナ禍により店の営業が困難になり、それを打開するために始めたのが菓子づくりだった。 「先が見えず、10人近い従業員たちに不安が募ってきたこともあり、自分たちで何かをつくって売ることで、少しでもみんなの給料を稼いでいこうと考えました。和歌山県の南部には観光地があり、土産品は多く、梅やミカンといった特産品もあるのですが、和歌山市にはこれといったものがない。そこで、私の親戚が日本一古い製餡所だったので、そこでつくるあんこを使ったお菓子がいいと考え、手づくりのあんバターサンドをつくることにしたのです」
材料には北海道産の小麦粉と発酵バター、そして地元・和歌山県御坊市の海水からつくる天然塩を使用。スナック店内のパーティールームをキッチンに改造して菓子製造業許可を取得し、菓子づくりの専門家からもらったレシピでスコーンづくりを従業員と一緒に練習した。そして、3カ月後の20年6月に「あんバタースコーンサンド」の販売を始めた。
出前販売から始まり百貨店の催事にも出店
「あんバタースコーンサンド」にはあんこのみの「ひとり」、あんことバターがミックスされた「であい」、あんことバターが2層になっている「わかれ」の3種類あり、スナックの人間模様を表したネーミングとなっている。また、ブランディングに関するコンサルティング会社に依頼して、これに「an and an」というブランド名を付けた。
当初はSNSを通じて注文が入ると店の従業員が配達し、販売サイトを作成して遠くの知り合いにも販売。初めは1日5千円から1万円程度の売り上げだった。 「そのうちに地元の新聞社やネット新聞に記事にしてもらえ、多くの人に知っていただけました。また私は以前、日本商工会議所青年部に出向していて、そのときの仲間から催事やイベントでの出店を紹介していただき、東京などに出て期間限定で販売していきました。そういった場所にはバイヤーさんも来ていて、次はうちにも出てくれないか、というお声掛けもいただくようになりました」
すると、百貨店からも催事への出店を打診されるようになり、それまでは個人事業だったものを、22年7月に株式会社クワトロとして法人化した。
出店する回数が増加するにつれて、つくる量も増えていく。 「目標を定めました。これが和歌山県のお土産になればいいと以前から考えていたので、県で一番のお菓子屋さんになろうと決めたのです」
東京駅のお土産として販売し和歌山県産の素材もPR
その後、和歌山商工会議所を通じて22年に東京の通販食品展示商談会、翌年には大阪の商談会に出展。それにより大手百貨店やグルメ雑誌の通販サイトへの卸も始めた。注文が入ると短期間で大量に納品する必要があり、24年2月に別の場所に専用工房を構え、製造機械も設置した。
また、23年に東京の百貨店での催事に出店した際にグランスタ東京の担当者の目に留まり、翌年のリニューアルに合わせて店を出さないかという打診も来ていた。 「連絡が来たとき、これは詐欺なんじゃないかと(笑)。うちみたいな小さなところが東京駅から出店してほしいと言われたんですから。これにはかなり迷いました。でも、一生に一度あるかないかのご縁なので、思い切って出店することにしました」
工房をつくったばかりで出店資金がなかったが、同所がマル経融資(商工会議所などの推薦で小規模事業者が無担保・無保証人で利用できる融資制度)を受けられるよう手配してくれたことで、無事に開店することができた。 「これまではスナックの人間模様のストーリーや和歌山県産をアピールしてきましたが、東京駅では時間に余裕のないお客さまがほとんどでストーリーをお伝えできない。それに東京駅のお土産なので和歌山県を前面に出すこともできません。ですので、買われた方が家でリーフレットを見て、このお菓子にはこんなストーリーがあって、和歌山県産の素材を使っているんだということを知っていただけたらと思っています。そして今後は、お土産としてだけでなく、あんバターサンドがおいしかったから東京駅に買いに行くというお客さまも増やしていけたらと思っています」
窮余の一策として始めたan and anが和歌山県で一番のお菓子屋になるために、内藤さんは歩みを止めない。
会社データ
社 名 : 株式会社クワトロ
所在地 : 和歌山県和歌山市友田町2-4 プラザレヨン4-C
電 話 : 090-1023-0284
HP : https://anandan.base.shop
代表者 : 内藤ひさみ 代表取締役
従業員 : 10人(パート)
【和歌山商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!