業種を問わず、中小企業における人手不足は長年、懸案となっている。中小企業こそ、AIやDXなどの最新テクノロジーの導入による省人化に対応することを真剣に検討する時だ。
DXスマート工場を実現して 少数精鋭で長く生き残れる会社を目指す
発泡樹脂成形機や金型を開発し、多種多様な発泡樹脂成形品を扱っているDAISEN。同社は8年ほど前から、工場の業務改善と製品の品質向上を目指してIoTを導入し、現場の各工程のデータを収集・可視化している。それらを分析して最適データを自動で機械に送るシステムを構築することで、熟練作業員でなくても安定生産が可能となるDXスマート工場の実現に向けて取り組んでいる。
IoTを導入してデータの収集と見える化に乗り出す
今年、設立70周年を迎えるDAISENは、木枠梱包資材を製造する建材会社としてスタートした。 「この近くに三菱電機の中津川製作所があり、当時盛んに扇風機を生産していました。この辺りは木材が潤沢な地域なので、木材と段ボールを貼り合わせて扇風機用の梱包材をつくったのが当社の始まりです」と、同社社長の林彰さんは説明する。
その後、ドイツで開発された発泡樹脂が日本に輸入され、1959年に発泡スチロールが国産化されたのを機に、同社はいち早くその生産に乗り出し、自社で発泡樹脂成形機や金型などの開発に取り組む。それを広く国内外に展開し、現在では発泡樹脂成形機の国内シェア約60%を占めるトップメーカーへと成長を遂げた。
そんな同社が工場全体の働き方改革や製品の品質向上を目指し、現場の各工程のデータ収集と見える化を考え始めたのは10年ほど前のことだという。 「当社は、30年以上前にオフィスにパソコンを設置して事務所業務のデジタル化を進め、工場にセンサーを導入してFA(ファクトリーオートメーション)に取り組みました。当時は処理能力が低かったけれど、その後飛躍的にメモリー処理スピードが上がり、インターネットも発達したので、8年くらい前に工場全体にIoTの導入を開始しました」
スマート工場の実現で安定生産を目指す
その背景には、同社や取引先の将来的な人材不足があった。持続可能な会社となるには、業務を根本的に見直す必要を感じた。また、グローバル化による価格競争の激化に伴い、生産コストの削減を余儀なくされたことも大きい。
そこで、同社は段階を踏んでその改革を行っていった。第一段階は前述のように、IoTの導入だ。現場の各工程をインターネットでつなげて各種データを1カ所に集約したプラットフォームをつくる。第二段階では、集約されたデータを分析して、現場で活用していく。 「以前は業務について口頭で伝え、紙に書いて説明していましたが、今は作業員にタブレット端末を持たせ、その表示に従って作業を行っています。作業が完了して端末にチェックを入れれば、どの工程がどれくらい進んでいるかも瞬時に分かります。そうして各工程から集まってくるデータを数値化して基幹システムに入れ、それを基に生産計画を立てて現場に流すという形でやっています」
現在は、第二段階の精度向上を図っているところだそうだが、第三段階では最適データを自動で成形機や加工機に送り、熟練作業員でなくても安定した生産や不良発生が予防できるDXスマート工場の実現を目指している。その一環として、IoTにより得られたデータの分析や判断の精度を上げるべく、大学と連携してAIの研究も進めている。
こうした取り組みを推進するには、DX人材の育成が不可欠だ。本来であれば、現場を良く知る熟練作業員たちがその役割を担うのが理想だが、50~60代の作業員たちは新しい技術の習得に後ろ向きだった。同社は、熟練作業員と若手を組ませて技術の継承を行う一方、若手社員にはDXの基礎知識から実務に至るまでのスキルを社内で一から育成する取り組みを進めている。また、工場内では多様なメンバーが活躍しており、ベトナム人を含む外国人スタッフも一定の役割を担う。同社は、社内で自ら設計・製造した機械やシステム、金型を用いながら、実際の発泡成形工程を通じてノウハウを蓄積し、それを販売するという一貫したスタイルを確立している。
さらに、人口減少による働き手不足が深刻化する中、同社の発泡樹脂成形システムや関連技術が、顧客の働き方改革やDX化を支える一助となることも目指す。成形工場の現場が抱える課題を解決し、生産性向上に貢献するための取り組みを続けている。
最終目標はDXを背負った自立型機械を展開すること
「まだ道半ばですが、生産性は少なくとも2割上がりました。人の手でスイッチを入れなくても、機械が動くようになったわけですから。ほかにも不良発生件数が半減し、作業員の労働時間も変わってくるなど、良い変化が表れています。ただ、作業内容の違いで部門ごとにDXに対する温度差があるので、今後の課題として事業の再構築や部門を超えた社員同士の連携を強化していきたい」
そう話す林さんの最終目標は工場のDX化ではない。発泡樹脂成形機や加工機のメーカーとして、少ない人手で品質の安定した製品を効率よく生産できるノウハウを搭載した機械をつくり、それを広く販売することだ。 「あと10年もしたらロボットが全部やってくれるよ、と言う人がいます。どうなっていくのかまだ分かりませんが、当社はそう遠くない将来にDXを背負った“自立型”の次世代成形機をつくることを目指しています。それが実現できるかは今日の頑張り次第だと思っています」と、林さんは明快にビジョンを語った。
会社データ
社 名 : DAISEN株式会社
所在地 : 岐阜県中津川市駒場町2-25
電 話 : 0573-66-1321
HP : https://www.daisen-inc.co.jp
代表者 : 林 彰 代表取締役社長
従業員 : 80人
【中津川商工会議所】
※月刊石垣2025年2月号に掲載された記事です。