創業から約80年、親子三代続けて地域の防災をサポートしているタカギ。コロナ禍で経営が赤字に転じる中、三代目代表取締役に髙橋征宏さんが就任した。業務のDX化、主力事業の転換、ネット販売の強化など、経営体制を刷新して商圏拡大に注力し、地域活動にも積極的に取り組んでいる。
バイクから消防用設備の販売・修理へ業態変更
秋田県南部に位置する横手市で、タカギが創業したのは、戦後間もない1946年。初代の髙橋七郎さんとその兄の義四郎さんの2人で「髙義商会」を立ち上げた。 「当時は、バイクの販売やメンテナンスが中心だったようです。祖父は海軍工廠(こうしょう)で働いたことがあったそうで、その経験を生かした起業だと聞いています。バイク以外にも、消防ポンプや船外機、冷蔵庫、さらには農業用肥料なども扱っていたことから、モーター関連に強い、よろず屋的な商売をしていたようです」
そう語るのは三代目で代表取締役の髙橋征宏さん。幼少時から家業を継ぐことを意識していたそうで、小学校の卒業文集が「動かぬ証拠」と言って笑う。
64年、仕入れ先であるバイクメーカーの経営不振のあおりを受け、バイクから消防ポンプ中心の消防用設備関連の事業にかじを切った。それを機に髙義商事として七郎さんが独立し、93年に二代目の代でタカギへと社名変更した。事業は軌道に乗り、消防車や可搬式消防ポンプ、消防用設備などの販売・施工・メンテナンスを手掛け、防災グッズの販売など地域の消防・防災の担い手として広く実績を上げていった。
社外活動を通じてビジネススキルを磨く
「長男だから家業を継ぐという考えが私の中にずっとあり、大学卒業後は消防自動車メーカーで半年間、名古屋の消防設備メーカーで1年間働きました」
特に消防設備メーカーでは、大手自動車会社の工場にある3000本の消火器や消防設備の点検業務に従事し、その経験が役立ったと振り返る。 「工場内の安全面への配慮、チームワーク、仕事の段取りなど、学ぶことが多くありました。消防設備メーカーは、弊社とは規模もスピード感も違います。2008年、27歳で弊社に入った当初は、その違いに戸惑いもしましたが、スケジュール管理やシステム管理において、時短や作業効率改善を図ることができました」
「タカギ」という社名ではどんな業種か分からないと地域活動に力を入れ、地元での認知拡大にも努めた。学生時代にバンド活動をしていた経験を生かし、入社1年後には地域の音楽イベントに参加。ローカルラジオ局のボランティア活動で、窓口だった横手商工会議所とも接点を持つように。 「地域企業の先輩たちとの交流を通じて、経営者意識が芽生えて、商工会議所主催のセミナーに出席する中で、事業承継に関する知識と自覚を少しずつ持つようになっていきました」
そして、20年4月に髙橋さんは社長に就任する。だが、コロナ禍に突入し、売り上げは激減した。
経営改善計画を作成し 未来につなぐ経営体制強化
「弊社は、消防車両や消防用品の代理店・特約店で、販売先は市町村の消防本部や消防署、消防団です。中でも売り上げの多くを占めるのが消防車両。しかし、コロナ禍による官公庁の消防予算削減などで、消防車両の納入のない年が続きました。20年9月期から3期連続赤字です」
消防車両の納入の有無で、売り上げは1億円近く変わる。髙橋さんは、100年先の未来を見据え、消防車両の収益を頼りとする経営体制の転換に踏み切った。注力したのは、安定した収益が見込める保守点検業務だ。 「万が一の時にお客さまの元にすぐ駆けつける。先代からの教えを大切にし、お客さまの対応をより丁寧に行い、先代の技術の継承に向けて社内研修を実施。さらに秋田銀行の協力の下、経営改善計画も作成しました。その計画に沿って、仕入れ先への労務費の価格転嫁の交渉や、ECサイトの開設、AI活用による業務の効率化、商圏拡大などを進めているところです」
一時は売り上げが5500万円と3分の1にまで落ち込んだものの、24年には8200万円にまで回復。自社開発の消防用ホースを巻き取る「ホース巻取機」は、00年の発売から累計約6145台(24年12月現在)の販売実績を上げ、「全国の消防団・分団の4分の1に行き渡った計算」と髙橋さん。伸び代ありと、さらなる販売数アップを狙う。 「横手商工会議所青年部(YEG)の会長になったことで、全国の会長と話す機会が増え、多様な価値観や経営手法に触れられた経験が、行動力につながっています。昨年12月、岩手県の北上YEGと友好締結したのもその一つで、将来的に人口が減る中、広域で地域発展に寄与することが大切です。10年後、北上と横手をつなぐ高速道路が2車線から4車線になり、県を越えてより交流が深まることを期待しています」
住む人が元気になれば、まちも元気になると、「YOKOTE音FESTIVAL」の実行委員長を務めたり、日本バーベキュー協会のインストラクターとしてイベントを開催したりと、本業以外の活動も活発な髙橋さん。地域密着型企業の三代目として持てる力を発揮し続ける。
会社データ
社名 : 株式会社タカギ
所在地 : 秋田県横手市寿町1-28
電話 : 0182-32-3880
HP : https://takagi-yokote.com
代表者 : 髙橋征宏 代表取締役
従業員 : 8人
【横手商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。