Q 社員の中に、退社後スナックにアルバイトに行っている女性社員や休日に配送のアルバイトをしている社員がいます。本人たちは会社には迷惑をかけていないと言っており、実際、仕事は普通にやっていますが会社としては仕事に支障が出ないか気にかかります。これを禁止することはできるでしょうか。
A 社員のアルバイトによって、その社員が会社の仕事を十分にすることができない、会社の営業秘密がアルバイト先に漏れてしまう、会社の社会的信用が害される、社員の健康が害されるという事情がある場合には、これを禁止することができますが、そうでない場合にはアルバイトを禁止することはできません。
副業・兼業に対する考え方
使用者は、就業時間中、労働者に労務の提供を求め、また、指揮命令することができますが、退社後や休日など、就業時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由です。
したがって、就業時間外に副業をしたり、別の会社で働くということは、憲法上保障された「職業選択の自由・営業の自由」に属する問題ともいえます。
しかし、社員は、労働契約に基づき、会社に対して誠実義務や職務専念義務を負っており、たとえ私生活上の自由といえども、これらの義務に違反する場合には一定の制限を受けます。したがって、就業時間外の副業・兼業であったとしても、会社に対する誠実義務を果たせないような場合には、これを制限することができます。通常、会社の就業規則には、「会社の許可なく事業を行い、又、他に雇用されてはならない」という兼業、兼職禁止(二重就職禁止)規定が置かれていることが多いのは、このためです。
ただ、前述の通り、就業時間外に、社員が副業を営み、また、他の会社で勤務することは原則として自由です。そのため、就業規則で「会社の許可なく事業を行い、又、他に雇用されてはならない」旨の規定を定めても、これが無制約に認められるものではありません。
社員の会社に対する労務提供に特に支障が生じていないにもかかわらず、副業や兼業を一切禁止するのであれば、会社は、単に労働の対価を支払うだけではなく、本来、自由な副業・兼業を禁止する代償も支払う必要があると考えられます。
社員への対応について
社員の副業・兼業については、原則として、これを禁止せず、社員の就業に支障が生ずる場合や会社業務に支障が生ずる場合に限って禁止すべきでしょう。
一方で、会社は、社員の健康に配慮する義務がありますので、副業・兼業が社員の健康に悪影響を及ぼすと考えられるときには、その副業や兼業を禁止することができます。就業規則の定め方としては、一律、副業・兼業を禁止するというのではなく、社員が副業・兼業を行う場合には、会社に届け出をするものとし、会社は、届け出のあった副業および兼業については、「社員の就業に支障が生ずること」「会社業務に支障が生ずること」「社員の健康を害すること」などの限定した場合について副業・兼業を禁止できるという形がよいでしょう。
会社と社員双方の正しい理解が重要
たとえば、就業時間を終え、退勤後の夜間のスナックでのアルバイトや、休日の配送のアルバイトが深夜ないし長時間におよぶことによって、その影響で会社での仕事に支障をきたしているという場合には、これを禁止することができます。
しかし、今回の設問の場合には、会社での仕事は普通にやっているということなので、その副業によって会社の信用が損なわれるなどの具体的な事情がない以上、これを禁止することは難しいでしょう。副業・兼業については、どういう場合に認められるのか、会社と社員双方が正しく理解することが重要です。 (弁護士・山川 隆久)
お問い合わせ
会社:Supported by 第一法規株式会社
住所:東京都港区南青山2-11-17
電話:03-3796-5421
最新号を紙面で読める!