「ようやく事業撤退が決まった」と全国に展開する情報関連企業のOBはほっとした表情で語った。彼が現役だった20年以上前、他企業が圧倒的なシェアを有していた分野に進出。売り上げの面では一定の成果が出たものの、システムの構築費、更新維持費がかさんだ上、ライバル企業との価格競争に陥った。事業の損失は雪だるま式に増え続けたが、当時の経営トップが陣頭指揮を執って始めた経緯もあり、なかなか撤退できなかった▼
「地方の取引先を販売代理店にしたのが今になってみれば失敗だった」とこのOBは解説する。取引先は専門の営業担当を置き、地元の高校人脈などを活用して、競争相手の顧客を少しずつ奪っていった。しかし、ダンピングに近い価格設定では、その営業担当の給料ほどの売上高を確保するのがやっと、というケースが相次いだ。「顧客の顔をつぶすわけにもいかず、ずるずると事業が続いた」という▼
大手商社の幹部に、新規事業に進出する際の採算性について質問したことがある。この会社では、「3年以内に黒字になるか、悪くてもその見通しが立たなければ撤退する」ことになっていた。不採算事業を継続していては株主に申し開きができないからだ。先の企業は株式を公開しておらず、投資家への配慮が不要だった▼
AI技術の広がりに代表されるように、技術の進展に伴い自社商品の陳腐化に見舞われる企業は少なくない。生き残りをかけて新規事業に乗り出すとしても、「社長案件だから」と採算を度外視していては社業全体が傾きかねない。必要な人材、コストを入念に検討するとともに、事態の変化に合わせて、事業を中止する出口戦略も用意しておくべきだろう
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)