ロンドンの大英博物館には何度か足を運んだ。混雑する館内で子供たちが熱心に展示物をスケッチする姿が印象に残る。世界中の名画を展示する同市内のナショナルギャラリーと同様、入館料は無料である▼
時代遅れで役に立たないモノをつい「博物館行き」などと揶揄したように、博物館は古いものを収集する古色蒼然たる施設と思われがちだった。だが最近の博物館は、物語性に富む企画展はむろん、観察会やオンラインの講座、小学校への出前授業など「知の蓄積」を体感できる施設になってきている▼
そもそも博物館は、テーマに沿った資料・史料の収集、保管、展示、調査研究という幅広い使命を負う。外から見えやすい展示はその一部に過ぎない。貴重な文化財の適切な保管、学術的な研究の比重が高く、営利を目的としない公共的運営が求められている▼
だが今年2月、文化庁が国立の博物館と美術館の中期目標を示した。展示費用を交付金などの公費に頼らず、入館料などで賄うよう求めた。自己収入比率が4年後に4割を切れば「再編」の対象となる▼
文化財を観光資源として活かし、博物館も地域に貢献すべきというのはわかる。だが博物館や美術館は、子共たちが歴史や文化、科学への好奇心を育むのに欠かせない施設。営利目的のショールームやテーマパークではない。そもそも国民の財産とも言える文化財や芸術作品を未来のために活かすのは政府の使命のはずだ。財政難だからと、自力で稼げというのはいささか妥当性を欠く。3年前、国立科学博物館は施設の老朽化に伴う修理費用を寄付で賄ったくらいだ。地道な研究など稼げない部分もある公益性の高い業務を、経済効率性のみで測るべきではあるまい。
(コラムニスト・宇津井輝史)