パンデミックという言葉には、今なお人々に不安を抱かせる響きがある。中世ヨーロッパではペストが猛威を振るい、多くの命が失われた。近年では新型コロナウイルス感染症(COVID?19)が世界的に大流行し、日本でもこの夏に感染者が再び増加した。さらにアフリカではエムポックス(サル痘)の感染拡大が国際的な懸念となり、新たなパンデミックへの備えの重要性が改めて認識されている▼
小生も約50数年前、感染症の恐ろしさを身近に感じる出来事を体験した。当時は「資源の時代」と呼ばれ、日本の製鉄会社や非鉄会社は将来の安定的な鉄鉱石や銅鉱石の確保のため探鉱・開発に積極的に乗り出していた。総合商社もその一翼を担い、アフリカや南北アメリカで彼らを支援していた▼
当時、アンゴラ北東部ではポルトガル企業が鉄鉱山の探鉱を行い、鉄鉱石の鉱量や品位を確認するために坑道を掘削していた。しかし、その坑道は大量のコウモリのすみかとなっており、そこには厚く堆積したコウモリのふんがあり、立ち入るたびにそれらが舞い上がっていた。その時、視察と調査に来た商社の東京本社の販売課長は、帰国後に日本の医師も原因を特定できない高熱を発症した。後年、このような野生動物との接触が未知の感染症を引き起こす可能性が広く認識されるようになった。あの出来事も人獣共通感染症の一例であった可能性を感じる▼
感染症の脅威を軽減するには、早期発見体制の強化、ワクチンや治療薬の研究開発、医療体制の充実などが不可欠である。新型コロナウイルスやエムポックスの経験を教訓として、平時から十分な備えを進めることが将来のパンデミックによる被害を最小限に抑える鍵となる
(政治経済社会研究所代表・中山文麿)