3代続く老舗ベーカリー・ミカエル堂。上白糖を使い、ジャリジャリした食感が人気のコッペパン「ジャリパン」は、昭和40年代に生まれた宮崎市民のソウルフードだ。2023年3月に一度店を閉じたが、宮崎市出身の大津伸詠(のぶえ)さんが、M&Aでジャリパン専門店に刷新。次の100年に向けて再始動している。
ソウルフードの存続を懸け異業種からM&Aに名乗り
地域に愛されてきた老舗が、惜しまれながら閉店する。今や珍しい話ではなく、1927年に宮崎市で創業したミカエル堂も、その例の一つだ。発端は製造機器の老朽化。買い替えのためにローンを組むには、三代目店主の都成五男さんはすでに60代を迎えており、さらに検討中にコロナ禍となり、その後、大病も患った。親族内承継や従業員承継の見込みもなく、2023年3月にやむなく休業した。だが、心残りだったのが、地域で広く親しまれてきた宮崎名物「ジャリパン」の味が消えてしまうことだった。レシピを残しても、一度途絶えた熟練の技や勘どころの再現は難しくなる。
そこで、都成さんは税理士の助言により、M&Aに一筋の望みを託した。利用したのが事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」だ。第三者承継を募ること約1〜2カ月、応募者の一人に大津伸詠さんがいた。
「当時、都内でデジタルマーケティング制作会社を経営していました。事業は安定していたものの、コロナ禍をきっかけに故郷の宮崎にいる親に、子どもを会わせる機会を増やしたい。そのために、地域に根差した事業ができないかと考えるようになりました。インターネットで『事業承継 宮崎』と検索してヒットしたのがリレイでした」と大津さん。リレイの地域密着型の運営と、経営者の思いに寄り添うサポート体制に共感し、ミカエル堂の募集に好奇心を刺激された。宮崎市出身者としての使命感をかき立てられて応募したという。
復活ムードを高めるべく多角的に先手を打つ
だが、大津さんは、店舗経営はもとより、パンを趣味で焼いたこともなかったと苦笑する。
「それでも、ジャリパンを食べたことがない宮崎市民はいない、そう言い切れるほどのソウルフードです。次世代に残したいという思いが軸となりました。リレイの全面的なサポートを受けながら、都成さんとは対面やZoomでやりとりし、工場を視察させてもらうなどして対話を重ね、独占交渉権を得た後、事業譲渡契約を結びました」
後継者に名乗りを上げた人は40人以上おり、中には大手メーカーの名もあったという。それでも大津さんが選ばれたのは、事業承継に対する本気度と熱量の高さが際立っていた結果だ。
資金面は、既存事業の余剰資金を元手とし、独占交渉権を得た段階で、日本政策金融公庫に相談すると地銀の方が力になれるとアドバイスされ、地銀と関係性を築いていった。店舗オープンの2カ月前には融資が受けられる状態になっていたという。
「承継したのはレシピとのれん、そしてジャリパンの販売権です。工場はさら地となり、従業員や機械の引き継ぎもなく、先代の負債も資産もない状態での事業承継でした」
