日本国内は言うに及ばず、海外でもその名が知られる地域の中核企業。地域に根差し、地域の風土、歴史、文化に寄り添い発展し続ける中核企業が実践している人材育成・成長戦略・地域貢献など、今こそ中小企業の経営者が学ぶ点は多い。
地元を深く知るほど店も会社も強くなる 主力人材の育成を全社一丸でサポート
福島県郡山市に本社を置き、東北や北関東の5県で251店舗(2026年9月1日現在)を展開するヨークベニマル。全国に店舗網を広げるのではなく、東北・北関東の地域に集中して店舗網を築き、一店一店が地元の顧客に深く向き合う。こうした地域密着経営を支えているのが、創業以来受け継がれる顧客本位の精神と、各店を一つの経営体として強くする人材育成である。
受け継がれる「野越え山越え精神」
ヨークベニマル執行役員の江渕和行さんは、地域に根差した店づくりを支える考え方として、「創業以来受け継がれてきた精神」(創業精神)を挙げる。現在は東北・北関東を代表する食品スーパーマーケットへ成長した同社だが、その始まりは決して順風満帆ではなかった。
ヨークベニマルの原点は、1948年9月、創業者の大髙善雄さんが郡山市中町に開いた売り場6坪の乾物店・紅丸商店にある。佃煮や漬物、乾物などを並べたが、当初は一家を支えられるほどの売上にはならなかった。そこで妻のさたさんが、中古の自転車にスルメや切り昆布などを積み、田んぼ道を走って郊外へ行商に出た。何軒回っても買ってもらえず、ようやく声を掛けてくれた一人のお客様に、ありがたさを痛感した。そして、自分が野を越え山を越えてお客さまを訪ねたように、店に来るお客さまも何軒もの店を通り越して足を運んでくれている―。そこから生まれたのが「野越え山越え」の精神だ。一人のお客さまに誠実の限りを尽くすという考えが、現在まで続く商売の原点となった。
この創業精神を12の言葉にまとめたのが「創業精神12章」である。第1章は、「商売はお客さまのためにある。お客さまの利益を考えよ。」、第2章は、「一人のお客さまに誠実を尽せ。これが野越え山越えの精神である。」。さらに、味や鮮度、適正な価格、新商品の開発、顧客の声を聞く姿勢、従業員一人一人が店の代表であることまで、日々の判断につながる内容が並ぶ。
こうした考え方を、日々の店づくりで具体的な行動に落とし込んだものの一つが、「明るく元気なあいさつ」「清潔な売り場」「鮮度と味の追求」「豊富な品揃(ぞろ)え」という基本4項目だ。江渕さんは、「創業精神12章」とともに、この基本を徹底することの大切さを強調する。
「どれもシンプルですが、徹底するのは簡単ではありません。品切れを起こしたり、鮮度についてお叱りを受けたりすることもあります。だからこそ、基本を徹底し続けることが、会社の土台になるのです」
理念を掲げるだけでなく、できていない現実にも目を向け、繰り返し基本へ戻る。従業員には「創業精神12章」や基本4項目をまとめたクレド(行動指針)を配り、毎年9月の創業月間には創業の心を顧みる。店舗数が増えても判断の軸をぶらさないための仕組みである。規模が大きくなっても、商売の基本を忘れずに、日々の判断に落とし込む姿勢は変わらない。
ドミナント出店と個店経営
同社の成長戦略の核にあるのが、出店エリアを一気に広げず、5県に集中して店舗網を築く「ドミナント出店」だ。地域内での知名度や顧客のロイヤリティ(信頼)が高まり、広告宣伝費や物流費を抑えやすく、採用面でも認知度が強みになる。
また、地域内に店舗網を築くことで、競合他社が参入しても多店舗化しにくくなるという利点もある。
「まず、足元をしっかり固めた上で、チャンスがあればほかのエリアに進出する。それが最も着実で収益性の高い戦略だと考えています。東北では将来的な人口減少が避けられませんから、栃木、茨城でも出店を重ね、収益基盤をつくっていくことが、これからの課題です」と江渕さんは話す。
ただし、ドミナント出店を進めていても、地域が違えば求められる売り方も変わる。首都圏の茨城県守谷市と、冬には雪が積もる山形県新庄市とでは、暮らしも売れる商品も大きく異なる。そこで、ドミナント出店と同時に重視するのが「個店経営」である。
同社全体の営業エリアをいくつかのゾーンに分け、各ゾーンがその時期に何を売るかを考える。毎月末の県産品フェアでは、福島の店舗は福島県産、茨城の店舗は茨城県産の商品を前面に出す。品揃えや価格にも各店の判断を反映する。新店を出す際には市場調査を重ね、地域で親しまれてきたパン屋や菓子店の商品を売り場に取り入れることもある。「地元で長く親しまれている商品があれば、お客さまもその店に足を運ぼうという気持ちになりますよね」と江渕さん。
こうした店づくりは、「創業精神12章」の第11章「お客さまの声は神の声、何でも聞いて改めよう。」に通じる。各店では顧客の声を継続的に集め、品揃えや売り場づくりに生かしている。
地域に合った売り場をつくるため、地元の生産者や行政とのつながりも深めている。郡山市制100周年など地域の節目に合わせた商品展開や、県産品フェアもその一つだ。
また、有機農産物や環境に配慮した水産物など、価格は多少高くても安全・安心につながる商品を扱い、変化する顧客の価値観にも応えている。目先の売れ行きだけでなく、地域の農業や持続可能な食を見据えた品揃えである。
鮮度やおいしさを高める商品づくりにもこだわる。鮮魚や精肉は丸魚や素材のまま店舗に届け、店内で切り分ける「インストア加工」を重視する。新しい店舗では、加工する様子が売り場から見える設計も増えている。惣菜、寿司、ベーカリーでは、調理に時間をかけにくい・つくりにくい世帯の増加を踏まえ、出来たてとおいしさを追求する。そこには、「創業精神12章」の第7章「おいしいことが絶対の条件。品質と鮮度がお店の生命である。」という考えが息づいている。
