売り上げはすべてを癒やす──ダイエー創業者・中内㓛氏の発言として知られるが、最近では、利益を度外視した質の悪い売り上げ至上主義を象徴する言葉として否定的に使われることが少なくない。
しかし企業にとって、売り上げは否定すべきものではない。特に、自ら吟味した商品・サービスを、これまでの経験値を超えて売り伸ばすことは、その成功者に売り上げ以外の恩恵、すなわち顧客からの信頼をもたらす。〝異常値〟ともいえる販売実績を上げる店を取材した。
陽の当たらぬ商品に注目
栃木県鹿沼市の「いわい生花」は、生花販売では県下で圧倒的な地域一番店だ。しかし、後継者の岩井正明さんが大手花店で修業を積んで戻ったとき、店は危機にひんしていた。売り上げの大半を占めていた葬祭装花の需要が激減していたのだ。
生き残るために、他店にはないオンリーワン商品をつくろうと岩井さんが着目したのが、誰もが気軽に購入でき、飾りやすい花、かすみ草だった。しかし、かすみ草は添え花として認知され、単体では売れず、サービスで付けている店も多かった。
だからこそ可能性があると考え、独自性を出すために生産者と研究開発を重ね、本来は白一色のかすみ草に、さまざまな色を染色することに成功。7色のバリエーションから虹を連想し、「ロマンチックかすみ草」という名で商標登録を取った。
ここで、岩井さんは勝負に出る。他店ではタダ同然の扱いを受けているかすみ草に、それまでの最高値商品であるバラより高い値段を付けたのだ。
「うちで最も売りたい看板商品がかすみ草なので、いちばん高い値段を付けて、売り手の意思を明確にしたのです。この商品を売ると決めたら、徹底的に突き詰めることです。知恵を絞ってやり続けるうちに、必ず道が開けてきます」と岩井さん。
今では年間14万本、日本一の数量を売り上げている。
最安値こそ最高品質に
同じく栃木県でクリーニング店19店を展開する「サンドライ」の看板商品はワイシャツだ。料金コースは160円、270円、480円の3段階。最も安価な160円の場合、サービスデーの木曜日なら88円、年会費100円で会員になると毎日98円。さらに、仕上がり当日に引き取れば5円の金券2枚をもらえ、次回は10円引きになる。つまり、木曜日に出して、その日に引き取ると、実質78円になる。
これは地域最安値であり、そのシェアは40%と圧倒的だ。この価格こそ、同社を地域一番店たらしめる原動力となっている。
しかし、単に安いだけではない。同社は、その最安値のワイシャツ仕上げの品質にもこだわる。ヒノキの香り付き、超軟水洗い、前処理洗い、良質洗剤、襟・カフスの復元加工、再洗い・再プレス無料など8つの価値を付加する理由を、同社の高橋典弘社長は言う。
「最下限商品にこそ、企業の魂が宿ります。どの業界でも松竹梅があれば、売りたいのは竹で、梅は当て馬的存在。しかし、最も利用頻度の高いワイシャツ、しかも梅という最下限商品をつくり込んで価値を高めれば、お客さまの満足度は高まります。一方、当社のスーツ価格は大手チェーンの倍近い価格ですが、ワイシャツ仕上げでご満足されたお客さまは、スーツも任せてくださる。ワイシャツは集客商品、スーツが利益商品と考えています」
最高値のかすみ草と最安値のワイシャツクリーニング──その価格設定は対照的だが、いずれも自慢の商品という共通項がある。それを売り伸ばし、異常値を生み出してこそ、地域に信頼される店となることができる。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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