技術はあるのに売り上げが伸びない、ネットワークはあるのにビジネスに結びつかない、という経営者の声がよく聞かれる。もしかしたら、需要の変化を見逃しているのかもしれない。
そこで今号は、自社の持つ強みを生かして、市場のニーズを捉え成長が見込まれる新たなビジネスに挑み、成果を上げている企業に迫る。
事例1 観光で〝北海道を輝かせる〟ためにバスを持つ強みを生かした新事業に挑む
札幌観光バス(北海道札幌市)
昭和39(1964)年3月、東京オリンピック開幕の約半年前の創業以来、札幌観光バスは北海道の地で貸し切り観光バスを専門に事業を行ってきた。観光バスを利用する団体旅行の需要が減り、インターネットの旅行サイトを利用した個人旅行が増えていく中、北海道のすみずみまで、その地域の魅力を知り尽くす同社は、新社長の就任を機に、自社の強みを生かして新たな需要を掘り起こしていった。
約50年の歴史を持つ地域の魅力を伝える会社
北の大地と海が育んだ自然と食という観光資源に恵まれた北海道で、同社は「北海道といちばん触れあえる」観光バス会社として、観光客に北海道の魅力を伝え続けてきた。今ではそれをさらに発展させ、ツーリズム企画営業とチャーターリムジンのほか、さまざまな事業に進出している。そのきっかけとなったのが、現在同社の社長を務める福村泰司さんが就任したことだった。当時を振り返って福村さんはこう語る。
「札幌観光バスはもともとは私鉄の子会社でしたが、10年ほど前にファンド会社に売却されました。そのころ、私は東京でコンサルティング会社を経営していて、そのファンド会社が買収した道内の他のバス会社3社に社外取締役として就任し、経営チェックなどを行っていました」
その後、そのファンド会社は所有していた北海道のバス会社を売却することになった。そのため福村さんは務めていた社外取締役を退任したのだが、そのファンド会社から、札幌観光バスを買い取らないかと打診された。福村さんがバス会社のことや北海道について熟知し、知床では地元のバス会社との共同出資によりアウトドアの会社も運営していたことから、白羽の矢が立ったのだという。
「札幌観光バスの状況を調べたうえで、私のコンサルティング会社で買い取り、私が会社の代表権を持ってこちらにやってきました。それから丸5年がたちます。私が来た当初は観光バス一本の会社でしたが、この会社にはこれから発展する可能性がある3つの強みがありました」と福村さんは言う。
その強みの一つ目は、約50年の歴史の中で築いた旅行会社との信頼関係による販売チャンネルがあり、営業力が高かったこと。二つ目は、バスガイドといえば札幌観光バスと言われるほどバスガイドの採用・育成に力を入れていた点だ。そして三つ目は会社がある場所の地の利。札幌中心部と新千歳空港の間のほぼ中間にあり、インターチェンジの出入り口もすぐ近いことから、バスの移動ロスが少ない分、料金を抑えられることだった。福村さんは社長に就任すると、それらの強みを生かした業務改革を行っていった。
長年蓄積してきたノウハウを新たな事業で生かしていく
「リーマンショックや震災で観光客数が落ち込み、人員整理で多くのバスガイドが退職してしまっていました。それを立て直すため、バスガイドを一気に採用して育成に力を入れ、今では総勢24人、平均年齢は22・0歳となっています。また、所有していたバスも平均車齢が古く、故障が多発し、お客さまからのクレームも多かった。そこで新しいバスを導入し、最初の1年半で13台、この5年間で21台も入れました。これで社員たちにも、この社長は単なる腰掛けではなく、本気で末永くやっていこうとしているんだと信じてもらうことができました」と福村さんは言う。
こうした改革により新たな発展へとつながる基礎はできた。次は、このバスを使って何をするかである。観光バスを自社で持っている以上、これを活用しない手はない。そこで、自分たちで北海道旅行の商品を企画して販売しようと、観光の企画営業を行う「旅コンシェルジュデスク」を立ち上げた。
「これは、北海道に来る観光客への飛行機や宿の手配、旅行プランや観光情報の提供といったコンシェルジュサービスを行う事業です。3年前に星野リゾートトマムさんから業務委託を受けて、ホテルで結婚式を挙げるお客さまやその親族の旅行手配を行うことから始まりました。旅行業のノウハウなどなく、最初は試行錯誤の連続でした。オーダーメードの旅行プランがほとんどなので、人手が掛かる割にはあまりもうからない。しかし、そのプランもようやくパターン化できてきて効率よく回せるようになり、3年かけて利益が出る事業になりました」
また、ここでも長年続くバス会社としての強みが生きたと福村さんは言う。「北海道の観光に関する膨大な情報を持っているので、お客さまからのマニアックなお問い合わせにも、運転手やバスガイドに聞けばすぐに対応できます。それが今、コンシェルジュデスクの事業にも生きています」
価格競争ではなく高級路線で差別化を図る
そして、もう一つの新しい事業がチャーターリムジンである。これは海外から来る富裕層の旅行客にターゲットを絞ったもの。所有するバスの内装をファーストクラスをイメージしたデザインにし、それを富裕層の客にチャーターするサービスだ。
「海外からの旅行客が増え、北海道は特にアジアのお客さまから絶大な支持を得ています。多くの旅行業者がターゲットにしている団体旅行は価格競争になりやすいので、私たちは差別化を図るため、利益率の高い富裕層のお客さまにターゲットを絞ることにしました」
そこで、海外富裕層を顧客に持つ企業を探し出し、車両とともに譲り受けることに成功。2年後には旅行企画会社・クールスターを設立。外国語が堪能な専属アテンダントが同乗してサービスを提供し、その質もさらにグレードアップしたものにしていった。旅行商品の企画と販売はクールスターが行い、札幌観光バスが豪華バスの運行を担当している。「今の体制になってまだ1年なので、現在は先行投資の段階です。利益が出るようになるまでにはあと2年はかかりそうです。似たようなサービスの競合会社が出てきているので、要望の多い富裕層のお客さまの要求にすぐ応えられるように付加価値を高めていかなければなりません」
これらのメイン事業以外に、北海道と国土交通省の予算で、昨年8月には、観光庁認定広域観光周遊ルートを巡る「ひがし北海道周遊観光バス」が初めて実施された。これは自然豊かな道東の観光スポットを夏秋季と冬季の期間限定で観光バスで巡っていくもの。今年度もバスの運行などで関わる予定だ。
「鉄道路線の多くが廃線になり、交通の便が悪い北海道で、バスという足を持つ強みを生かし、北海道の新しい旅の形を創造していきたい。今はそのためのタネをまいているところです。そのベースにあるのが〝Brighten up Hokkaido ~北海道を、輝かせよう~〟というビジョンです。そのためなら何でもチャレンジしていきたいと考えています」と福村さんは目を輝かせる。
移動距離が長い道内の移動に、旅行者にとって手軽で便利な観光バスという新たな手段が加わった。観光地としての北海道はさらに輝きを増そうとしている。
会社データ
社名:札幌観光バス株式会社
所在地:札幌市清田区美しが丘1条9-1-1
電話:011-881-2431
代表者:福村泰司 代表取締役社長
従業員:103人
※月刊石垣2017年7月号に掲載された記事です。
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