事例3 「ユニーク&ユーモア」な自社製品開発でニーズを創出
石崎電機製作所(東京都台東区)
「電熱はんだごて」で知られる中堅メーカー、石崎電機製作所。強みの電熱技術で家電分野に参入し、大手メーカーのOEM商品をつくってきたが、徐々に自社ブランド製品の開発にシフトチェンジする。綿密な市場調査を踏まえて、ほかにはない「ユニーク&ユーモア」な製品を世に送り出し、新たな需要を掘り起こしている。
メーカー品より機能は高く、価格を安く
「主婦に嫌われている家事の1位が何だか分かりますか。実はアイロンがけなんです。確かに重労働で、熱い、子どもに危ない、うまく仕上がらないなど、嫌われる要素は多い。しかし、そこにチャンスがあると思ったんです」
そう切り出したのは、同社社長の石崎博章さんだ。同社は昭和3年に、電熱製品の製造で創業し、電熱はんだごてなどの工具をメインに扱ってきた。その後、大手家電メーカーのOEM商品の製造にも乗り出す。日本製初のコーヒーメーカーやホットプレートなどをつくってきたが、次第に自社家電製品の開発にも着手する。そうして62年にスチームアイロンを発売以降、コードレスタイプなどさまざまなアイロンの廉価品を出すことで足場を固めてきた。
「家電製品というと機能性が求められる一方で、機能はそこそこでも安い方がいいというお客さまも確かにいます。ですから当初は好調だったんですが、大手メーカー品が値下げされると、途端に売り上げが激減してしまう。価格競争をしたら勝ち目はないので、ならば機能が高いものをつくって、同程度のメーカー品より安く売っていくことにしたんです」
開発に当たり、同社は外部のコンサルティング会社と組んで、綿密な市場調査を行った。そこから見えてきたのが、冒頭の結果だ。アイロンがけは特に女性には不評で、耳の痛い意見が多かった一方で、男性ユーザーが結構いるという意外な事実も判明した。それらを踏まえて開発に乗り出したのが、「男前アイロン」である。
手に取ってもらえなければ良さは伝わらない
家庭用アイロンの主流であるコードレスタイプは、あるジレンマを抱えている。電源を入れたらサッと使えるように立ち上がり時間を短くするには、アイロン底部のアルミが薄いほどよい。しかし、アルミが薄いと蓄熱量が低いため、スチーム持続時間が短くなってしまうのだ。
「そこで当社が長年培った電熱のノウハウを基に、立ち上がり時間は短く、スチーム持続時間が長いアイロンをつくろうと決めました。2年ほど試行錯誤の末、アルミの厚みは変えずに出力を上げることに成功し、立ち上がりは業界最高レベルの80秒、スチームの持続時間は160秒という製品が完成しました」
製造と並行して取り組んだのが、売るための仕掛けだ。たとえ機能性に優れていても、それがユーザーに伝わらなければ見向きもされない。そこでまずは手に取ってもらおうと、ボディカラーを単色でゴールドとブラックにした。従来品はピンクやブルーがほとんどなので、かなり目立つ。また、男性ユーザーが多いことも考慮して、「男前」というインパクトのある名前を付け、平成24年3月に発売した。
「私は色も名前も気に入っていたんですが、社内では営業の全員が大反対でした。『主に女性が買っていくものなのに、何で男前なのか』と。大半のバイヤーから『売れないのでは⁉』と言われましたが、意外に女性バイヤーからはおもしろいと受けがよかった。結果的にこれで正解でした。今までにない見た目だからこそ売り場で目に留まり、製品スペックを見てもらう機会が増えます。そこで、ようやく大手メーカーの上位機種と同等の機能が付いていて、値段ははるかに安いことが分かり、買ってもらえるわけです」
同製品は新聞や雑誌などに掲載され、徐々に知名度を上げていった。次第にテレビにも取り上げられるようになり、機能が紹介されると一気に注目が集まって売れ行きを伸ばす。ピーク時で年間出荷台数10万台を超える人気製品となった。
ニッチなシーズを形にして大手メーカーと差別化
同社企画課課長代理の成田真弥さんは、「当社のような中小メーカーが売れる製品を生み出すには、ニーズ以上にシーズが重要」と語る。今、市場で顕在化しているニーズを形にするより、シーズ(種)をいかに早く見つけて、大手メーカーにはできないニッチで小回りのきいた製品をつくれるかが、中小メーカーが今後伸びていくための鍵だと言う。その考えから新たにこの春発売したのが、家庭で簡単にお好みのグミやチョコ、生キャラメルなどがつくれる「グミ&チョコメーカー」である。グミという極めてニッチな食材に着目したものだが、その目新しさからすでに100以上のメディアに取り上げられて話題を呼び、好調な売れ行きを示している。
「『男前アイロン』を出したときは、『石崎さんらしくない』とずいぶん言われたけれど、『グミ&チョコメーカー』を出したときには、『ああ、またおもしろいものつくったんだね』と納得されました(笑)。当社は新製品を企画するに当たって、常に『ユニーク&ユーモア』を念頭に、おもしろいものをまじめにつくるのがモットー。今後もニッチなシーズを形にして、他社との差別化を図りたい」(石崎さん)
もうけるためではなく、結果的にもうかるものをつくりたいと語る石崎さん。今後は、同社の屋台骨である電熱工具製品で安定ベースをつくりつつ、家電製品で利益を上げていく考えだそうだ。次は、どんなところに着目して製品づくりにつなげるのか、目が離せない。
会社データ
社名:株式会社石崎電機製作所
所在地:東京都台東区蔵前3-5-15
電話:03-5687-7711
HP:http://www.sure-ishizaki.co.jp
代表者:石崎博章 代表取締役社長
従業員:49人
※月刊石垣2017年7月号に掲載された記事です。
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