事例4 メーカーとして自立し新分野の製品開発にも果敢に挑戦
昭和精機(兵庫県神戸市)
電子プログラム制御機器や油圧・空圧制御機器などのトータルメーカー、昭和精機。もとは下請けの町工場だったが、自社製品開発にシフトし、直接取引を行うメーカーとして地位を確立する。現在、約20カ国の海外企業とも取引するグローバル企業に成長する一方、新たに理科学機器分野に参入して事業を拡大している。
下請けからメーカーに脱皮した大きな転機
同社は、昭和22年に手仕上げ加工を中心に行う町工場としてスタートした。その後、フライス機械加工冶具やタイヤ加硫機用安全装置(プレッシャースイッチ)を製造するなど、大手企業の下請けとして礎を築いていった。
そんな同社が、自社製品の開発に舵(かじ)を切り、下請け町工場からの脱却を目指すようになったのは、56年に現会長の藤浪芳子さんが社長に就任してからのことだ。藤浪さんは苦笑いを浮かべながら、当時をこう振り返る。
「当社は父がつくった会社ですが、実質切り盛りしていたのは専務である夫でした。ところが、その夫がある日突然家を出て行ってしまい、会社存続の危機に陥ったんです。そのころ私は日々の子育てに追われる専業主婦でしたが、このままつぶしてはなるまいと、無謀にも社長を引き継いだんです」
会社経営に関して何も知識がなかった藤浪さんは、まず経営状態を把握するために部門別の売り上げを調べた。すると、下請けの仕事はどれもが赤字だった。
「下請けは、言われるままに製品をつくって納めればいいので楽ですが、取引先の都合で製造費をカットされたり、突然仕事を切られることもあります。私の性に合わないと思いました。自社製品を自分で売るなら、原価100円のものが50円でしか売れなくても、それはそれで仕方ありませんが、1000円で売れることもあるかもしれません。今後はそんな価値のある自社製品を開発して、自立しようと決めたんです」
顧客と直接交渉で信頼を得てさらに海外にも販路を拡大
その第一歩は、代理店任せだった販売方法の見直しだった。すでに同社には、プレッシャースイッチやプレス機械用ロータリーカムスイッチなどの主力製品があった。大型製造機械の装置として不可欠なものだったため、まずはそれらを必要とする企業に直接販売していこうと考えたのだ。とはいえ、職人集団だった同社には営業部門がなかった。そこで藤浪さん自身が、代理店経由で製品を納めていた大手企業の担当者を訪問し、直接取引してもらえるように交渉した。
「当初は相手も困惑していました。『悪いことは言わないから、代理店との付き合いを再開した方がいい』と言われたこともあります。でも、それでは当社はいつまでも自立できません。めげずに何度も足を運ぶうち、理解を示してくれるようになり、直接取引に応じてもらえることになりました」
そのころから力を入れ始めたのが、電子製品の開発だ。既存の機械製品をデジタル化したものはすでにあったが、あとが続かず製造が中断されていた。そこに着目し、新たにCPUを搭載した電子式ロータリーカムスイッチを完成させる。その後も電子式位置決め装置などを開発し、これらを取引先のニーズに合わせてオリジナル仕様にすることで、シリーズ化を進めていった。
それと並行して、海外市場への進出にも取り組む。1980年代以降、東南アジアにおいてはプレス機械メーカーが乱立し、日本の製品や技術に熱い視線が注がれていた。そうした中に同社が含まれており、引き合いが来るようになったのだ。
「最初の取引先は韓国で、次は台湾でした。国によって文化も商習慣も違うので、当初は失敗もありましたが、当社の製品が必要とされていたことと、よい販売代理店に出会ったことで、海外企業との取引を進めることができました」
それ以降、中国、アメリカ、タイ、インドネシア、ヨーロッパ各国……と販路を拡大。現在、約20カ国に独自の販売網を確立している。
素人経営者だからこそ実践できた経営哲学とは
メーカーとして自立を果たし、さらにグローバル企業へと成長を遂げた同社。長年にわたり産業機械分野を専門に扱ってきたが、21世紀を迎えるころから、理科学機器分野への参入にも乗り出している。例えば、大学と共同でバイオ関連機器を開発したり、理科学機器を扱う子会社を設立してDNA合成装置を開発したりするなど、すでに実績を上げている。
「依頼が舞い込んできたときは、『バイオ』という言葉に尻込みしてしまったんですが、そのころ産業機械分野では徐々に東南アジアが台頭し始め、価格競争も激化していました。経験がないとはいえ、新しいものに挑戦する時期だと感じたんです」
同社にとって未知の分野だけに、すべてが順調だったわけではないが、持ち前の粘り強さで新製品の開発を進めている。近年では、医療現場のニーズを受けて、バッテリー充電型のカート「エレカート」を製作した。ナースの作業効率化と労務軽減を図るための医療現場用機器だが、そこには女性目線が生かされ、現場で好評を得ている。
「30年以上走り続けてきて、学んだことは自立と挑戦です。素人経営者だった私が心掛けてきたのは、チャンスがあったら『ノー』とは言わないこと、そして誠心誠意つくることの2つ。これからも立ち止まることなく、顧客が満足する製品を提供できるオンリーワンメーカーでありたいと思っています」と藤浪さんは柔和な表情で結んだ。
会社データ
社名:昭和精機株式会社
所在地:兵庫県神戸市西区高塚台6-19-13
電話:078-997-0551
代表者:藤浪智二 代表取締役社長
従業員:31人
※月刊石垣2017年7月号に掲載された記事です。
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