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テーマ別企業事例 新発想で市場をつくり出す 宅配・訪問ビジネスの可能性

事例4 1回100円の宅配サービスで高齢化地域を支えるミニスーパー

ゆみちゃんストアー(高知県土佐清水市)

大型ショッピングセンターで1週間分の食材や日用品を買い込む。品ぞろえが豊富で、一度に大量に買うには便利この上ない。だが、そうした買い物スタイルが定着するにつれ、まちの小売店やスーパーは1軒、また1軒と姿を消していく。そんな時流に抗し、宅配サービスを実施し、地域貢献に孤軍奮闘するミニスーパーがある。

11年前に農協ストアから居抜きで継承した「ゆみちゃんストアー」は、看板も当時のまま。慣れ親しまれた外観の左側に小さく「ゆみちゃん」と看板を添えて今に至る

来店客が減少するなら自ら足を運べばいい

「スナックの名前みたいよね」

開口一番、そう言って「ゆみちゃんストアー」を経営する濱田由美さんは快活に笑った。平成18年に農協ストアを承継して開業し、以来、人口500人余りの集落の唯一のスーパーを、一人で切り盛りしている。もともと濱田さんは農協ストアの従業員として8年間働き、仕入れや商品の陳列、レジ打ちなど運営を一通りこなしていた。人口減少に伴う農協の事業所撤退を機に閉店が決まると、「この店がなくなっては地域のお年寄りの生活が困窮する」とストア存続に名乗りを上げた。

「接客業が好きなんです。それに生まれ育った土地で、店に来てくれる人は私が小さいころからお世話になっている人ばかり。お店の名前もいろいろ考えたんですが、来てくれる人が覚えやすいのが一番と、愛称の『ゆみちゃん』にしました。私の苗字が濱田だって、誰も分かっていないですから(笑)」

開業してしばらくは経営も順調だったものの、急速に進む高齢化の波は売り上げに大きく響いていく。厳しい経営状況に、開業当時の熱意は下がる一方だったという。

テコ入れが必要と感じつつもなすすべもない。そんな中、土佐清水商工会議所の提案に光を見出す。それが宅配サービスだった。 「市街地事業でも宅配サービスは一定の成果が出ていたので、売り上げの下げ幅を減らす対策として提案しました」

そう語るのは土佐清水商工会議所の浦吉良夫さん。開業時にも経営や税務について相談に乗り、このときも経営の巻き返しに奔走する。濱田さんも当時を振り返り語る。

「高齢で足腰が弱ったり、寝たきりになったりしてお店に来ないのではなく、行けないという方がいました。以前から頼まれれば宅配していたのですが、ご高齢の方ほど『申し訳ない』と遠慮しがちです。そこで、あえて有料化することで利用しやすくなると思いました」

26年12月、ゆみちゃんストアーの宅配サービスが始動した。

「売る」「買う」を超えた宅配サービス

宅配料金は1回100円、1000円以上の購入で無料という破格値だが、有償化したこと、新聞の折り込み広告を打ったことで利用客数は上向いた。

「宅配サービスは電話のみの受付にしました。マークシートといっても、年配の方にはピンときませんし、パソコンはもちろんファックスがある個人宅もありません。お年寄りにとって電話が一番便利なんです」

電話利用を見越してさらに独自のサービスを考案する。「見守りカード」だ。小規模事業者持続化補助金を活用して作成したカードで、表面には店の連絡先を、裏面には緊急時の連絡先を記入できるようにしている。50枚作成し、80歳以上を中心に配布した。

「宅配サービスを始めたことで、経営も持ち直しましたし、何よりお客さまに喜んでもらえるのがうれしいですね。毎週月曜と木曜の2日を宅配デーにしていて、現状、週平均延べ人数で25人、月平均100人の利用があります」

1回の購入金額は平均3000〜4000円だが、ドリンクと総菜だけの少額利用者も分け隔てなく対応している。原則、店の営業が終わる18時以降、宅配しながら家路に向かうが、営業時間内でも融通が利くときは、フットワークも軽く車に乗り込む。

「柔軟に対応できるのが個人店のいいところですね。主人が自営の左官業なので、雨の日は店番をしてもらうなんてこともあります」

商品を届けるだけではなく、話し相手や安否確認の役割を担うところも大きい。利用者も濱田さんの顔見たさに注文する人も少なくないようだ。

「これから」よりも消えゆく「今」を守る

また、小規模事業者持続化補助金の申請そのものが、経営の見直しにもつながった。申請にあたって事業計画書を作成することで、店の強みを濱田さん自身が明確に把握できたという。

「うちはお客さまとの世間話が頻繁です。たわいのない会話から、必要としている商品が分かることがあります。それに地域の恒例行事や風習にも精通していますから、種まきの時期には野菜の苗や肥料を多めに仕入れるなど、その時期に欲しい商品があるように工夫できることに気付いたんです」

そうした発想の一環で、市街地にある衣料品店と提携し、下着やタオルを扱うようにもなった。頻繁に買うものではないが、ないと困る商品だ。こうした商品をどれだけ扱えるか、他店舗との提携も視野に入れている。

「お店の広さに限りがありますから、あれもこれもというわけにはいきません。でも、『探していたものがあった』『百貨店みたい』と言われるとうれしいですね。これからも地域の方、それも高齢の方が必要なものは何かを考えながらお店で提供していきたいです」

農協ストアから濱田さんが受け継いだバトンは、この先、どんな人にどのように受け渡されるか分からない。もしかしたら濱田さんが最終走者である可能性もある。だが、この先ではなく、今、必要としている人がいる限り、今日も〝ゆみちゃん〟は走り続ける。

プロフィール

社名:ゆみちゃんストアー

所在地:高知県土佐清水市下川口966

電話:0880-86-0030

代表者:濱田由美

従業員:本人のみ

※月刊石垣2017年8月号に掲載された記事です。

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