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事例2 移動スーパー「かも丸くん」が過疎地域の生活をサポート

加佐ノ岬倶楽部(石川県加賀市)

おしゃれなカフェレストランを中心に展開する加佐ノ岬倶楽部は、4年前から新たに移動スーパー事業を開始した。市内の過疎地域を網羅し、会員登録しなくても1軒1軒を巡回することで、“買い物難民”たちの生活を支援しようというものだ。また最近では、さまざまな生活の困りごとを代行するレスキュー隊もスタートさせ、見守りの役割も果たしている。

加佐ノ岬倶楽部が運営する豊かな自然に囲まれたカフェレストラン

公共バスの廃線を機に生活弱者の支援を発案

加賀海岸で最も日本海に突き出した加佐の岬。その先端には白亜の灯台が立ち、夕景のスポットとしても有名だ。そんな恵まれたロケーションの中に、加佐ノ岬倶楽部はある。同社は約30年前に、日本画家で九谷焼の陶芸家でもある硲伊之助(はざまいのすけ)の作品を展示する美術館としてスタートした。展示スペースの一角にカフェコーナーを設けたことから喫茶・レストラン事業に進出し、大自然の中のおしゃれなカフェレストランとしてファンを獲得していった。そんな同社が移動スーパー事業に乗り出したのは、今から4年ほど前のことである。

「当時、公共バスのいくつかの路線で廃線が決まったんです。地域の足がなくなれば、少なからず買い物難民が出てきます。今は昔のような御用聞きもないし、それなら私たちが移動スーパーを走らせたらどうかと考えました」と同社社長の妻で、移動スーパー事業の責任者を務める宮本啓子さんは発端を説明する。

宮本さん夫妻はもともと石川県庁の職員で、知的障がい者福祉施設や老人介護福祉施設などで仕事をしてきた。その経験から、少しでも生活弱者を支援し、地域の人に交流が生まれればとこの事業を思い立ち、移動販売用の車を1台調達した。

顔見知りの販売スタッフが信頼感を得て顧客を増やす

移動スーパーを始めるに当たり、最初の壁となったのはルート開拓だった。近くにスーパーのない地域は分かっても、いざとなるとどこをどう走ればニーズがあるのか分からない。そのとき頼りになったのは、宮本さんと同年代の女性ボランティアだった。彼女たちは手分けをして車に乗り、それぞれ自分の住居地を中心に巡りながら、ニーズの高そうな地域を調べて回った。そうした地道なリサーチの末、ようやくルートが決まった。

車に乗せる商品のラインナップや販売の方法などは、すでに移動スーパー事業で成果を上げていた徳島の会社を参考にし、平成25年12月に「かも丸くん」1号車の営業をスタートした。ちなみに、「かも丸くん」とは加賀市のキャラクターで、市から許可を得て使用しているものだ。

「女性ボランティアの力は絶大でした。普通なら、いきなり移動スーパーがやってきても、買いに出て行こうとは思わないでしょう。でも、車に顔見知りの女性が乗っていて、『おばちゃん、元気だった?』なんて声を掛けてくれば、買い物する人の不安もやわらぎます。こうして徐々にお客さんが増えていきました」

その後も、お年寄り向けの音楽サークルや介護予防教室などでチラシを配ったり、広報を手伝ってもらったりして認知度を高めていき、2号車、3号車と台数を増やしていった。現在、個人宅から施設に至るまで約540軒の顧客があり、1台1日3コース、週2回のペースで回っている。

商品は、地元の魚や野菜などの生鮮食品、天ぷらや煮物などの総菜、調味料、パンやお菓子といった食料品のほか、台所洗剤やティッシュといった日用品など約350種類を常時積んでいる。値段は「スーパーより高いがコンビニより安い」を目安に設定している。また、希望の商品がない場合は、販売スタッフに注文しておけば、次の販売日に届けてもらえる仕組みで、今や利用者にとってなくてはならない存在として定着している。

買い物以外の困りごとにも対応する体制をスタート

「4年目でよくここまでこぎつけたなと思います。本来なら、各家庭の注文を聞いて、それを宅配する形態の方が、無駄も出ないし効率的です。それでも移動スーパーにこだわったのは、選ぶ楽しみがあるから。洋服を整えて外に出て、商品を眺めながら『今日は何にしよう』と考えるのは、ストレス解消にもなり、満足度が高くなります。人が集まればコミュニケーションも生まれます。単に生活支援のためだけでなく、楽しんでもらうことが重要なのです。そのためにも、商品がマンネリにならないように旬を意識したり、お総菜にも変化をつけたりしています」

現在では、市役所からの依頼もあり、4号車となる「かも丸レスキュー隊」を開始した。庭木の剪定(せんてい)、家のリフォーム、電化製品の購入や修理など、買い物以外の困りごとに対応するサービスだ。もともと、玄関先の雪かきなどはドライバーが無償で行っていたが、高齢世帯にはほかにもさまざまな不便がある。また、不測の事態も想定されるため、それをいち早く発見する見守りの役割も果たせることで好評を得ている。

「移動スーパーを始めたころ、1日の売り上げは1台平均2~3万円程度でしたが、現在では7~8万円くらいになりました。それでも若いドライバーを新たに雇ったりもしていて、利益はとんとんです。でも、この事業は地域に不可欠なものとなっているだけに、今後は若い世代に受け継いでいってもらわなくてはなりません。そのためにも利益を上げて経営を安定させ、若い子育て世代が生活できる程度のお給料を支払えるようにしていきたい」と宮本さんは今後の展望を語った。

プロフィール

社名:株式会社加佐ノ岬倶楽部

所在地:石川県加賀市橋立町ふ23番地

電話:0761-75-1627

HP:http://www.kasanomisaki.net/

代表者:宮本昭夫 代表取締役

従業員:13人

※月刊石垣2017年8月号に掲載された記事です。

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