事例3 大手にできない新スタイルが好況福井限定 “ダイニングコンビニ”
大津屋(福井県福井市)
酒造業から酒販業、そして昭和56年に福井県初のコンビニエンスストア(以下、コンビニ)へ転向した大津屋。店内調理でバイキング料理を提供し、広いイートインスペースを設けるなど、コンビニの常識を超えた〝ダイニングコンビニ〟が人気を呼んでいる。大手ができない盲点をつき、客単価日本一の快挙を記録した同社の戦略に迫る。
大反対のコンビニ化を押し切って波乱の船出
「このままやってもダメだ」
実家の大津屋に入社して2年、当時25歳だった代表取締役社長の小川明彦さんは、酒販業からコンビニへの転換を図った。だが、当時の社長だった叔父を含め全員から大反対される。それもそのはず、大津屋は天正元年に酒造業として創業し、昭和5年には酒販業も展開。52年に酒造業からは撤退するものの400年以上、日本酒で生計を立ててきた歴史を誇る。今でこそコンビニは全国にあるが、当時は見たことも聞いたこともない店舗業態だ。「分からない=反対」という意見に加え、多額の出資になること、10人未満の家族経営での失敗は許されないことなど不安材料は十分にそろっていた。
だが、小川さんには危機感があった。酒は配達から店で買う時代への転換期で、過剰サービスや価格競争が激化するばかり。一方、首都圏では酒も買えるコンビニができ始め、近い将来、福井にもやってくるだろう。コンビニ化は反対とはいえ、他店と同じでは生き残れないことは誰もが分かっている。それなら大手が進出する前の今しかない。
「23歳で入社して1年目は脇目も振らずに働き、年商7000万円を1億円に押し上げました。その実績とともに、ゆくゆくは建物を建て直すことが頭にありましたから、家を継ぐという意志で押し切った感じです」と当時を振り返り苦笑する。
そして、56年に、福井県初のコンビニ「オレンジBOX」をオープンさせた。初日は100万円、2日目は80万円、3日目64万円の売り上げと好調だったが、オープンセールが終わった4日目から8万〜10万円の間で低迷する。「肉も魚もない変なスーパー」と揶揄(やゆ)され、明るすぎる店内は「敷居が高い感じがする」と敬遠された。半年間赤字が続き、頭を抱えた。
前例のないことを走りながら次々実践
「負けたくない」と歯をくいしばり、表向きコンビニ、店の裏ではお酒の配達を続けてしのぐ日々の中、小川さんは行動する。認知度を上げるには宣伝あるのみと、広告費の安い夜11時台のテレビCMに自腹で50万円投資する。制作費0円で全編英語という異色作は、たちまち話題をさらった。CM効果で一日の売り上げは30万円に上り、自動販売機以外で深夜に酒が買えることが認知されると、県内中から人がやって来た。勢いに乗って2店舗目をオープンするが、苦戦する。
「大学生をターゲットに大学近くに出店したのですが、苦学生ばかりで狙いを外しました。でも、これを教訓に3店舗目をオープンしたんです。場所はどこだと思いますか? 懲りずに大学近く、それも正門前です。同じ大学生でも富裕層の多い私立大学に的を絞ったら、これが当たって同じ品ぞろえでも売れに売れました。深夜は水商売の方の立ち寄りスポットになり、バブルの追い風もあって1個3000円のメロンが売れることも」
だが、大手コンビニが進出してきた途端、伸びは鈍った。大手と同じことをしても太刀打ちできないと、小川さんが次に着目したのが〝出来たて〟商品の提供だ。試験的に温かいご飯やうどん、ホットプレートで調理した焼きそばを店頭に出すと喜ばれた。どの店で展開しても好評で手応えをつかむが、同時に「ノウハウがないまま勢いだけでやっては危険」と慎重に足元を固めていく。
「いくつもターニングポイントはありますが、一番の決め手は平成6年、当時県内最大規模のショッピングセンターにテナントとして入り、お弁当・惣菜ショップ『オレボキッチン』を立ち上げられたことです。『水が使えない』など厳しい条件を突き付けられましたが、このときに出店を断念していたら今の大津屋はありません」
しかし、オレボキッチンも赤字スタートとなる。一日の売上目標の20万円分の商品をつくっては、約6割が売れ残って廃棄する、辛酸をなめる日々が続いた。
温故知新をテーマにライブ感を強化
その中で店舗スタッフが考案した太巻きずしが打開策となる。すしの屋台を店内につくり、目の前で客のオーダーに応じて具をのせて巻く。このスタイルが評判となり、恵方巻きの風習が全国に広まる時期と重なってヒット商品となった。
「焼きたて、揚げたて、炊きたて。これを味わえたらうれしいですよね。大衆食堂『オレボ食堂』も同じ発想で開店しました。そして、コンビニ、惣菜、食堂の3つの業態を組み合わせて誕生させたのがダイニングコンビニ『オレボステーション』です」と、大手コンビニが本格的にイートインに着手する前の16年、コンビニでバイキング料理が楽しめ、ゆったりしたテーブル席で食事ができる新業態を生み出した。そして、3年後の19年、全国のコンビニ平均客単価日本一に輝く(日経MJ調べ)。
「先見の明があったわけではなく、どのタイミングで、何をどうやるか、好循環のノウハウを走りながら模索し続けたまでです。社員のアイデアをいち早く採用し、試作し、試食して数日後に店頭に並べる。中小企業だからできるスピード感、柔軟性がうちの強みです」
県外出店や全国展開は経営管理も店舗の質も下がると回避し、地元福井で量より質を追求する。その姿勢は地元の人材育成にも派生し、「オレボビズスクール」と題して19年から県庁や大学、高校でケースメソッド(ディスカッション型の授業)を単発で開講するなど、地域貢献にも余念がない。
「昔はあったのに、今は見かけなくなった肉屋や魚屋の魅力を掘り起こすなど、地元の潜在的なニーズに応えつつ、店内のライブ感を強化してく予定です。人に喜んでもらえることは何か、自分が客だったらどう思うかを自問自答しながら、独自の道を走り続けます」
会社データ
社名:株式会社大津屋
所在地:福井県福井市西木田1-20-17
電話:0776-34-7150
代表者:小川明彦 代表取締役社長
従業員:28人
※月刊石垣2017年12月号に掲載された記事です。
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