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テーマ別企業事例 大繁盛店には理由がある 新発想で売る 今どきの小売店

事例2 地元の産物を生かした商品開発で食材豊富な千葉をアピールしていく

やます(千葉県市原市)

千葉県の名産品や観光土産を中心とした製造卸売と小売を行っているやますは、千葉県内を中心に直営店舗「房(ふさ)の駅」を展開している。店舗では地元の農産物や海産物だけでなく、自社で開発した新商品なども販売しており、各店舗は地元の人たちでいつもにぎわっている。

地元の産品が並ぶ店内。サツマイモや落花生などの装飾をしていることもある

生き残っていくために卸売から小売へ進出

やますは昭和44年に創業し、土産品の製造卸売を行ってきた。好景気の流れとともに会社は順調に成長していったが、バブル崩壊でその伸びが鈍化することになった。創業者の長男で、現在は代表取締役を務める諏訪寿一さんが会社に入社したのは、それからすぐの平成8年のことだった。

「その翌年に東京湾を横断する東京湾アクアラインが開通して、千葉に来る観光客が増え、うちを含め千葉の土産品業界は売り上げが大幅にアップしました。ところがそれも開通1年目だけで、それ以降は客足がガクッと落ちてしまった。このまま卸売業をやっているだけでは生き残っていけないという危機感を持って始めたのが、通販と県外への卸売、そして小売業でした」

小売業においては、12年、本社のある市原市内に「房の駅」1号店をオープンした。ただ、卸売業者が小売業に進出しては、取引先と競合してしまう。実際、出店を知って説明を求める取引先もあったが、事情を話し、理解してもらうことに努めてきた。

「卸売では土産物が中心でしたが、新しい店では千葉産の食品で、千葉を表現していくことにしました。またアクアラインでの経験から、観光客だけに頼っていてはだめで、一番大事なのはやはり地元のお客さまだと気付きました。そこで、まずは地元の人に来ていただける店づくりをして、それが話題になれば観光客にも来ていただけるようになるのではと考えるようになりました」

生産者の顔が見える「一人一品制度」を導入

房の駅では〝千葉のおいしさ〟を大切にすることをコンセプトとした。商品の品ぞろえも「千葉」を切り口にして、それを地元の人たちに提供していくことを考えながらやっていると諏訪さんは言う。

「千葉は三方を海で囲まれ海産物が多く、農業産出額も全国3位と、食材が豊富です。ただ、恵まれすぎていたため、ほかの地域の方々がやっているような農産物のブランド化といった努力をしてきませんでした。それをこれからきちんとやっていくためにも、千葉のおいしさをアピールしていくことが大切になってくるんです」

そこで房の駅では、一つの農産物に対して一軒の農家とだけ契約して販売する「一人一品制度」を取っている。契約する農家は各店舗で異なり、販売する農産物にはつくった人の名前と顔写真、メッセージが添えられている。「いつも店に来るお客さまは生産者の顔と名前をもうご存じなので、安心して買うことができます。また、このように房の駅と直接取り引きすることで、生計を安定させることができる地元の農家の方を増やしていこうという目的もあります」

房の駅と似た形態の「道の駅」との違いは、この一人一品制度にある。そのほか、チェーン展開していることや、定期的にチラシを出していることも挙げられるという。

「チラシを1カ月に1回は出し、各店舗の地域に数万部ずつ配布しています。これは広告というより情報提供という位置付けで、商品の紹介だけでなく、地元にはこんなにいいものがあるということを伝えるために、この農家さんのこんなおいしい商品がありますとか、こういう食べ方もありますといったことを紹介しています」

そのような努力が実り、房の駅は1号店以降、徐々に出店を進めて現在は11店舗となる。来店者数も多い店舗では1カ月約2万人、1店舗あたりの売上高は3000万円近くにまで達している。また来店者数の約9割を地元客が占め、店舗によってはほぼすべてが地元客というところもある。

積極的な新商品の開発で顧客の興味を引きつける

同社では、会社を挙げて新商品の開発も積極的に行っている。商品開発のコンセプトは「うまい」「健康」「千葉」。いずれかの特徴を持った新商品を毎月10種類ほど出しており、その商品数はすでに全部で3000種類を超えていると諏訪さんは言う。

「社内には商品開発の部門もありますが、それ以外の人でもアイデアがあれば商品開発をしていいことにしています。あれとこれを組み合わせたら面白いんじゃないかとか、あれをこう変えたらもっと良くなるんじゃないかとか、思いついたことを会議で出し合っています。店にいつ行っても新しい商品がある。新商品の開発で大勢のお客さまが定期的に来ていただける工夫を常にしています」

自社開発の人気商品としては、千葉の特産品である落花生に20種類のフレーバーでコーティングした「エンジョイピーナツ」がある。最近では、千葉市の洋菓子店と協力してつくった、落花生と九十九里浜の塩を使った「ピーナツガレット」なども好評だ。

そして、諏訪さんが次に始めたのが「千葉世界一作戦」である。

「これはやますの10年計画の経営戦略で、一つは千葉を世界一の観光地にすること、もう一つは千葉の地位を上げること、そして3つ目は食とコトでつながる新しい世界をつくることです。千葉を世界一の観光地にというのは、房の駅に来て買い物をすることで『千葉はいいね、世界で一番いいね』と思ってくださるお客さまを一人でも多く増やしていこうというものです。それを、食とコトでつながる新しい世界をつくることで実現していきたいと思っています」

地元に根差した商品で地域の人を呼び込んだその先に、県外からの観光客がいる。同社の「世界一」戦略は、なかなか奥が深い。

会社データ

社名:株式会社やます

所在地:千葉県市原市国分寺台中央7-16-2

電話:0436-21-2637

HP:http://www.yamasu.com/

代表者:諏訪寿一 代表取締役

従業員:311人(グループ全体、パート含む)

※月刊石垣2017年12月号に掲載された記事です。

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