人手不足、インバウンドへの対応、さらに海外への進出や事業展開などに備えて中小企業の外国人雇用が増えている。しかし、現実問題として社内環境整備や研修制度などへの投資が難しい中小企業にとっては、言語も文化も違う外国人の正規雇用に関しては不安があることもまた事実だ。そこで、外国人の雇用によって業績を拡大させた企業の実例に学ぶ。
総論
竹内 英二(たけうち・えいじ)/日本政策金融公庫総合研究所 小企業研究第一グループ研究主幹
外国人労働者の就労先は製造業から卸・小売業や飲食業、宿泊業へと広がり、彼らが働く姿は日常の風景となった。特に人手不足に悩む中小企業にとっては、外国人は重要な戦力となる。そこで日本政策金融公庫総合研究所研究主幹の竹内英二さんに、外国人雇用の実態と成功の秘訣(ひけつ)を聞いた。
外国人労働者の数は毎年2割増えている
最初に外国人雇用の現状を知っておこう。
厚生労働省(以下「厚労省」)がまとめた「外国人雇用状況」の届出状況によると、2017年10月末現在の外国人労働者数は127万8670人となり、前年同期比で19万4901人増えた(図1)。約128万人という労働者数は、07年の届出義務化以来で最も多い人数であり、しかも「ここ数年は毎年20%近い伸びを示しています」と竹内さん。そこには、国内人材不足に悩む企業が外国人の獲得に積極姿勢を見せている姿が透けて見える。
国籍別では中国が最も多く、外国人労働者全体の 29・1%を占め、次いでベトナム18・8%、フィリピン11・5%と続く(図2)。急速に増えているのはベトナムとネパールで、それぞれ前年同期比で39・7%増、31・0%増となっている。
厚労省は日本で就労する外国人を在留資格別に五つのカテゴリーに分けている。最も多いのは定住者(主に日系人)、永住者、日本人の配偶者など「身分に基づく在留資格」で35・9%を占める。「在留中の活動に制限がないため、いろいろな職場に進出しています」
次いで主に留学生のアルバイトを指す「資格外活動」の23・2%、「技能実習」の20・2%、企業経営者や、医師、大学教授など「専門的・技術的分野の在留資格」の18・6%と続く。一方、EPA(経済連携協定)に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者、ワーキングホリデーといった「特定活動」は2・1%にとどまる(図3)。
「技能実習」とは、日本企業が持つ技能、技術、知識を開発途上国へ移転し、経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とした制度。技能実習生として来日すると、最長5年間日本に滞在することができ、建設や食品製造、繊維・衣服、機械・金属など77職種・139作業で働くことができる。
在留資格を国籍別に見てみると、中国は「身分に基づく在留資格」が 26・1%、「専門的・技術的分野の在留資格」が 25・7%、「資格外活動」が 24・4%、「技能実習」が 22・6%となっている。ベトナムは「技能実習」が 43・9%、「資格外活動」が 41・0%。ネパールは「資格外活動」が 59・2%となっている。つまり「中国人は正社員、技能実習生が混在しており、ベトナム人とネパール人の多くは技能実習生やアルバイトとして働いている」わけだ。
外国人労働者を受け入れている事業所は19万4595社にのぼり、そのうちの約60%を従業員30人未満の中小企業が占める。中小企業にとって、外国人労働者は貴重な戦力となっている(図4)。
多くの中小企業は留学生を正社員として雇用
外国人が合法的に働くための環境が徐々に整ってきたことも雇用者増を後押しする。
厚労省は、①政府が推進している高度外国人材や留学生の受け入れが進んでいること、②雇用情勢の改善が着実に進み、「永住者」や日本人の配偶者などの身分に基づく在留資格の人の就労が増えていること、③外国人技能実習制度の活用が進んでいること、という三つの環境改善効果を挙げている。
ただ、技能実習生は実習期間が終われば帰国しなければならず、そのまま正社員として雇うことはできない。そのため「中小企業では、外国人の能力に期待して留学生を正社員として雇う例が目立つ」という。竹内さんがまとめた資料「中小企業における外国人雇用の実態」によれば、外国人を雇用している企業の雇用形態は、正社員が58・7%と半数を超えている。次いで非正規社員39・0%、技能実習生21・0%と続く。
中小企業が外国人の能力を求めるようになった理由の一つは海外展開だ。製造業では1980年代後半から海外への生産移転が継続的に進んでいる。
「ここ数年は外食、小売り、理美容などのサービス産業の海外展開が目立ちます。外食企業が現地で店舗を運営する場合、現地採用スタッフでは日本側の事情が理解できないことがある。そこで店舗を統括し、運営するマネージャークラスを日本で採用し、研修や教育、経験を積ませて送り出すわけです」
国内の小売業でも越境EC(インターネット通販サイトを通じた国際的な電子商取引)を担当する外国語のできる人材へのニーズは高いし、「自社を取り巻く環境が国際化したため、それに合わせて国際展開した企業もあります」。
また、顧客であるホテル・旅館がインバウンド需要の取り込みを始めたことから、インバウンド集客の支援や情報発信、飲食メニュー開発事業を手掛けるようになった企業で外国人を雇用する例も見られるという。そのため、卸売業・小売業・宿泊業・飲食サービス業での割合が増えている(図5)。
一方で、海外展開とは関係なく外国人を雇う例もある。
「大企業の人材採用意欲が旺盛なため、中小企業は日本人の大学生や大学院生を採用しにくくなっています。そこで日本で働きたいと考えている優秀な外国人留学生を幹部候補生として受け入れているのです。留学生の側にも大企業志向はあるものの、エントリーシートの書き方やアピールの方法が分からないため、大企業に応募しにくいという弱みがあります」
「日本人は就職ではなく就社という意識がまだ根強く、大企業はジェネラリストを求め育成しています。そのため大企業に入社してもやりたいことができる保証はないし、自分の将来像も見えてこない。その点中小企業の方がやるべきことが明確だし、仕事をまるまる任せてもらえる可能性が高い」
中小企業に入社すると、能力発揮の機会が得られるという点を、経営者はもっとアピールすべきだろう。「ただ将来幹部にするつもりがないのなら、最初に話しておいた方がいいでしょう」
地元大学の留学生に自社の存在をアピール
では、どのように留学生とコンタクトを取ればいいのだろう。
竹内さんの調査では、取引先による紹介が多いという。また求人広告を出したところ、外国人が応募してきた例もある。求人広告に国籍を指定することはできないが、中国進出を計画しているのなら、「中国語が堪能」とか「中国での就労経験がある」という能力条件をつけることで中国語を母国語とする人材を雇うことができる。
また、地元の大学に定期的に顔を出して留学生と交流を持つ方法も効果が高い。彼らは日本の中小企業に対する知識が乏しく、知名度の高い大企業に目を向けがちなため、日頃から自社の存在をアピールしておくことが望ましい。日本学生支援機構の調査によると、外国人留学生は26万7042人(2017年5月1日現在)おり、そのうち大学院生が4万6373人、大学生が7万7546人を占める。
その他、外国人を対象としたマッチングイベントや就職説明会なども有効だ。もし予算に余裕があるのなら、外国人専門の人材紹介会社を利用する手もある。日本人学生の採用よりコストがかさむかもしれないが、「採用費用はコストではなく、自社の将来に対する投資と考えるべきです」。
社内では平易な日本語で明確な指示を出す
採用後は、どんな点に注意すべきか。言うまでもないが「差別」は厳禁だ。差別意識はなくても、日本人従業員の何気ないひと言が差別や母国に対する中傷と受け止められることがある。
特にコミュニケーションには配慮が求められる。採用した外国人従業員が日本語に堪能でないと、日本人従業員が説明を繰り返すことを面倒に感じて、仕事を頼まなくなるケースがある。すると外国人従業員は疎外感を抱いたり、溝が生まれたりしてしまう。その逆もある。コミュニケーション不足の職場で外国人従業員同士が外国語で私語を交わしていると、日本人従業員は悪口を言われているのではないかと勘ぐってしまう。そのような無用な誤解を生じさせないために、仕事で必要な場面を除き、社内では外国語を禁止した企業もある。採用の段階で日本語が堪能な人材に絞るべきだが、日本人従業員の方も平易な言葉を使用し、明確で具体的な指示を出す努力が求められる。
昇給や昇進もトラブルの種になりがちだ。日本企業の場合、昇給・昇進の基準が明文化されておらず、あいまいなことが多い。日本人従業員だけを採用し、年功序列・終身雇用を旨とする企業ならまだしも、外国人を雇うのであれば、「採用時に昇給・昇進の基準を明確に示し、その基準は外国人に限らず従業員に平等に適用すべきです。それは日本人従業員からも歓迎されるでしょう」。
国が推進するグローバル化によって、国際対応に遅れた企業は生き残りが難しくなる。また、少子化により、国内の優秀な人材の確保はますます困難になる。この二つの課題を解決するのが外国人の雇用だ。外国人を受け入れる素地をつくることで、日本人従業員の働く環境にも好影響を与えるはずだ。外国人従業員によって、会社は強く生まれ変わる。
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