事例2 まっさらだから可能性は無限大 日本三大白生地に未来を吹き込む
(新潟県五泉市)
京都の丹後、滋賀の長浜とともに、日本三大白生地産地として知られる新潟県五泉市。歴史ある絹織物のまちだが、着物離れ、絹離れが顕著な時代の流れで、産地としての課題は多い。その中で100年以上続く機屋の一つ、横正機業場の若手四代目が、会社の存続・産地の復活をかけて、経営改革に挑み続けている。
受注生産だけでなく新たな生地開発に乗り出す
「100%家を継ぎません」
そう入社面接で答えたことを、横正機業場の四代目、横野恒明さんは今でも覚えている。だが、見事採用され、新潟県長岡市の製造業で働くこと6年目を迎えたころ、父の横野詔夫さんが病に侵されてしまう。家業を継ぐ気はないかと打診されたとき、初めて心が動いた。平成16年から家業を手伝い、25年に四代目として機屋を継ぐ。三代目が就任してわずか8年後のことだった。同時に、システムエンジニアとして働いていた弟の弘征さんも専務として就任し、新規事業を担うことになった。
「市内には昭和50年に機屋は31軒ありましたが、四代目就任時にはすでに7軒に減っていました。父の代に需要減少を見越して少数精鋭体制に移行していましたが、着物業界全体の生産高が減少傾向です。何か行動に出なければと、弟と協力してまず会社のイメージ一新を図りました」
企業ロゴや名刺をセンスアップし、ホームページの開設やSNSを積極的に活用して自社のアピールを行う。工場内に自らも入って職人たちとともに汗を流し、新しい生地の開発にも乗り出した。
五泉はニットの全国的な生産地として有名だが、絹織物のまちとしても200年以上の歴史がある。重厚感のあるまっさらな生地は、法衣や高級着物など和装に用いられる。横正機業場もほぼ100%和装向けに受注生産をしてきた。そのうちの5%を、和装以外の生地開発に振り向けようと試みた。
伝統技術を使い洋装に合う自社ストールブランドを発表
「五泉の絹織物はフォーマルな白生地で、シンプルゆえにごまかしが利かない高度な技術力が問われます。中でも羽二重は高級白生地として認められていて、重いほど高価なイメージですが、日常生活では扱いにくい。もっとお客さま目線で生地を軽くしようと夏物のフォーマルな織りである絽と、よりカジュアルな紗に注目しました」
それを可能にしたのは、先代から続く薄地にも強い技術力だった。
「工場には薄地の絹織物を織れる職人もいるし、機械もある。ジャガードなどの柄物や60〜75㎝幅の幅広の生地も織れる。これが他の機屋にはないうちの強みです」
そして白生地を染めるという斬新な手法にも打って出る。染めの依頼先を一から探し、全国の一流染色企業とコラボレーションして、京友禅、江戸染、藍染、デジタル染色など色鮮やかに染め上げていった。試行錯誤の末に、28年3月、自社ストールブランドとして「絽紗 ROSHA」を立ち上げる。
「お客さまの声を直接聞き、モノづくりの現場に生かすべく自社ブランドを開発しました。ストールは洋服よりも身近で、絹ならではの感触や発色の美しさをPRするのに最適なアイテムだと思いました」
日本最大級のテキスタイル展示会「Premium Textile Japan」に出展し、「絽-RO-・紗-SHA- YOKOSHO GOSEN JAPAN」と題して、会社の存続だけではなく、産地のブランド力の底上げにも尽力したことも、ブランドの立ち上げを後押しした。
高度な技術を継承する人材を育てたい
さらに関東経済産業局の「絹のみち広域連携プロジェクト」に参画したことを機に、28年3月末から4月上旬に、東京の日本橋三越本店に期間限定の出店も果たす。
「お客さまから、海外の有名ブランドのストールよりも着け心地がいいと言われて、正直嬉しかったです。商品開発の原動力になりました」(弘征さん)
自社ブランド誕生から1年足らずで早くも勢いに乗るが、現状に甘んじることはない。今後も多彩なクリエーターとコラボレーションしたり、メンズ用ストールや呉服展開も視野に入れる。
「和装から洋装へ完全シフトするのではなく、あくまで和装の白生地製造を継承することに力点を置いたビジネスモデルです」
30年には和装向け受注生産を50%、和装以外の生地販売を40%、自社ブランドの販売を10%とし、和装以外の分野で力をつけ、それを和装に還元することが目標だ。
「信頼を裏切らないものづくりを続けていくには、高度な技術の担い手が欠かせません。5年先、10年先の和装向け白生地の売上を拡大し、企業として、産地としての魅力を高めて人材確保につなげていきたい」と白生地の可能性を多角的に引き出し、業界と産地を盛り上げようとする思いは熱い。
会社データ
社名:株式会社横正機業場
所在地:新潟県五泉市吉沢1丁目2-38
電話:0250-42-2025
代表者:横野恒明 代表取締役
従業員:7人
※月刊石垣2016年11月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!